表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
覚醒編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/31

第18話 王宮の図書館

 朝食を終えたエミリアはすぐにアンナを呼んだ。


「アンナ、王妃付き侍女のサラという方への連絡をお願いしたいの」

「承知いたしました。どのような内容でございましょう?」

「先日お話しした図書館での調査の件。一緒に調べていただけないか相談したいの」


 一夜明けてエミリアは冷静に考えてみた。昨日の枢機卿との会話を思い返すと、ラウルが言ったとおりなんだか腑に落ちない。『聖石の不具合について慎重に調査している』──そんな曖昧な説明で納得できるはずがない。教会が何かを隠しているなら、教会以外の資料で真実を探るしかない。


 まもなく、サラからの返事が届いた。


『喜んでお手伝いさせていただきます。明日の午後でしたら大丈夫です。図書館でお待ちしております』


「よかった! サラが協力してくれるって」


 エミリアは、いつものように書庫にいたラウルに報告した。


「それは心強いな。王宮の中で詳しい人がいれば、効率よく調べられそうだ」

「三人なら、きっと何か分かるはずよ」


 ラウルが少し不安そうな表情を覗かせる。


「でも俺も一緒で大丈夫なのか? 王宮だぞ?」

「王妃殿下が『お友達もどうぞ』とおっしゃってくださったから、きっと大丈夫よ」


 エミリアは微笑んでみせたが、内心では少し心配だった。


(本当に大丈夫よね? でも、一人で調べるより、ラウルがいてくれた方が心強いから)


「それに、古代史も魔法理論も、あなたの方が詳しいでしょう? 私一人じゃ見落としてしまうかもしれないし」

「まあ、それもそうか」

「少しは否定してよ」


 エミリアが頬を膨らませると、ラウルは顔を綻ばせた。




 翌日、王宮の荘厳な門の前で二人は衛兵に王宮図書館の件を尋ねると、彼は背筋を正して答えた。


「エミリア・シル・テルネーゼ様でいらっしゃいますね?」

「はい」

「お連れの方も含めて、図書館への入室許可が下りております。少々お待ちください」


 ラウルは子どものように目を輝かせた。


「本当に許可が出てる! 王宮の図書館だなんて、夢みたいだ」

「よかったわね」


 エミリアも安堵した。ラウルの素直な喜びを見ていると自分も嬉しくなってくる。


 しばらく待っていると、見覚えのある人影が近づいてきた。


「エミリア様、お待ちしておりました」


 王妃付きの侍女、サラだった。


「サラ、ありがとう。こちらが昨日連絡したラウルよ」

「ラウル様、お初にお目にかかります」


 サラが丁寧にお辞儀をすると、ラウルも慌てて礼を返した。


「王宮図書館は広いので、ご案内いたします。昨日のお手紙では古代史について調べたいとのことでしたが」

「ええ。実は一昨日、法王国の枢機卿という方とお話ししたのだけれど、やっぱりどうも腑に落ちなくて」


 エミリアは、聖石や鉄巨人の件と枢機卿の曖昧な説明について詳しく話した。サラは真剣な表情でうなずく。


「なるほど。それでしたら、教会とは違う視点の資料を探す必要がありますね。こちらの古文書の区画でしたら、王家に伝わる古い文献がございますよ」

 

 案内された古文書の区画は、侯爵家の書庫とは比べ物にならない規模だった。天井まで届く書棚に、数百年前の文献がぎっしりと並んでいる。


「うわあ……こんなにたくさん」


 ラウルが感嘆の声を上げた。学問好きの彼にとって、ここはまさに宝の山なのだろう。


「それでは、三人で手分けして調べましょう」


 エミリアの提案で、早速調査が始まった。


 しばらくページをめくる音が響いていたが、やがてエミリアが興味深い記述を見つけた。


「これを見て。『現行の聖典編纂以前の古い教えについて』って書いてある」


 声に反応して、サラとラウルが集まってくる。


「古い教え?」


 サラが不思議そうに首をかしげた。


「ほら、ここには『旧聖典』という言葉も出てくるわ」


 エミリアはページの一節を指差しながら続けた。


「でも詳しいことは……ほとんど書いてないのね」


 すると、ラウルが別の文献を持ってきた。


「こっちにも似たような記述がある。『神々の古の教え』とか『先の時代の教典』とか……でも具体的な内容は全然書いてない」


 エミリアの表情が険しくなる。サラも手にした古文書を見つめた。


「たしかに不思議ですね。現在の聖典とは別に、何か古い教えがあったということでしょうか?」

「でも、どの文献を見ても具体的なことは何も書いてないのよね」

「たしかに、まるで意図的に隠されているみたいだ」


 三人は顔を見合わせた。枢機卿の曖昧な説明といい、この断片的な記録といい、何が隠されている気がしてならない。それは、誰かにとって都合の悪いものだったのだろうか。


「参ったわね。これ以上は、ここの資料では分からなさそう」


 エミリアが困ったような表情を見せる。


「教会の神官なら、この旧聖典について何か知ってるかもしれないけれど」


 エミリアがつぶやくと、ラウルは苦笑いを浮かべた。


「でも、あの神官に詰め寄ったばかりだろ? また行くのはちょっと……」

「そうよね。まだ気まずいわよね」


 すると、サラが遠慮がちに口を開いた。


「あの……もしよろしければ、今後も一緒に調べさせていただけませんか? 歴史にとても興味があるのです」


 エミリアの顔がぱっと明るくなった。


「本当? とても心強いわ。三人で調べれば、きっと何か分かるはずよ」

「それに、王宮についても多少は知ってますので、もしかすると他にも調べられる場所があるかもしれません」


 サラの提案にラウルもうなずく。


「たしかに、俺たちじゃ思いつかないような場所もあるだろうな」


 その時、図書館の入口の方から話し声が聞こえてきた。


「あら、賑やかですのね」


 振り返ると、金髪の美しい女性が侍女を連れて立っていた。透き通るような白い肌が午後の光に美しく映えている。


「王太子妃殿下!」


 サラが慌てて立ち上がり、深々とお辞儀をする。エミリアとラウルも慌てて礼を取った。


「あら、あなた、先日王妃殿下とお話しされていた方ね」


 ソフィアがエミリアに優雅に微笑みかけた。


(あの時、気づいてらしたのね……)


 エミリアは、ソフィアの観察眼と記憶力に少し驚きつつも深くお辞儀した。


「はい。エミリア・シル・テルネーゼと申します」

「ソフィアです。堅苦しい挨拶は抜きにして、あなたたち、今からお時間いただけるかしら?」


(王太子妃殿下が私と? どうして?)


 エミリアは戸惑いながらも、断る理由もなくうなずいた。


「では、お茶の準備をいたしますね」


 サラが気を利かせて支度に向かう。


 先日、庭園で見かけた王太子妃。今、目の前で微笑む彼女からは、あの時の不安そうな表情は一切感じられない。いったい何の話なのだろうか──エミリアは胸の奥がわずかにざわつくのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ