↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第5部更新中】「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
覚醒編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/149

第14話 秘密の通路

 日も暮れた頃、ラウルが子爵邸にやってきた。ラウルは使用人に案内されて応接室に入ってくるなり、こちらを見て眉を寄せる。


「急な呼び出しで驚いたよ。……何かあったのか?」


 昼間のことをかいつまんで話した。夜中に響く泣き声、密室から消えた家宝、そして宝物庫の隅に見つけた小さな穴。

 だが、ラウルは訝しげな表情を見せた。


「壁の隅に穴? でもそれ、人が通れる大きさじゃないんだろ?」

「まあ、そうなんだけど。でも、家宝はそこから消えたとしか思えないのよ」

「なるほどねぇ」


 光る線のことは言わないことにした。言ったところで面倒なことになりそうだったのだ。どうせラウルのことだ、その力についても考え出すに違いない。今は消えた時計の行方を追う方が先だ。


「ま、エミリアが興味を持つってことは、きっと何か理由があるんだろうな」


 よく分からない理屈だが、ラウルはひとまず納得したようだ。


 横でマチルダが恐縮しながら頭を下げる。


「急にお呼び立てしてしまい、本当に申し訳ありません」

「いえいえ、面白そうじゃないですか。もしかすると魔法の痕跡が残っているかもしれません。それなら俺の出番です」


 そもそも、ラウルもこの手の話は大好きだ。嫌がるはずがない。ラウルが軽く笑ってみせると、マチルダのこわばった肩がわずかにほどけた。


 二人のやり取りにうなずきながら、さて、と時計を確認する。


「午前二時頃に音が聞こえるそうよ。今夜こそ正体を突き止めましょう」


 交代で仮眠を取りながら待つことにした。



   ◇ ◇ ◇



 深夜、応接室で時を待った。


 子爵は「何かあれば呼んでほしい」と言い残して下がった。娘の手前、気丈に振る舞ってはいるが、あの家宝を失って以来まともに眠れていないのだろう。


 やがて、遠くで鐘が鳴った。午前二時だ。

 その音が消えると同時だった。


 ──ガサガサ……ガサ……


(これね……)


「ラウル、起きて」


 仮眠しているラウルの耳元に口を寄せると、彼はサッと跳ね起きた。


「ラウル、分かる?」

「ああ」


 マチルダは、床に敷いたブランケットの上でスヤスヤと眠っていた。やっと緊張の糸が緩んだのか。だが、彼女も異変に気づいたのかむくりと起きた。


「エミリア様、この音です」


 彼女は音を聞くなり、声を殺して答えた。


 マチルダが言っていたとおり、泣き声ではなくガサガサという音だ。その音は屋敷のあちこちから聞こえるようでもあり、そうでない気もする。


 さらに耳を澄ましてみる。


「これが、泣き声から変わった音なのね。金属のようなものが擦れている音? 何かが動き回ってるのかしら」


 ラウルが短く詠唱した。魔法の痕跡を探る術だ。だが、すぐに首を振る。


「魔力の反応はない。……なのに、何かが動いてる。妙だ。まるで、からくり仕掛けみたいな音だ」


 燭台を手に、音を追って廊下へ出た。

 だが、音は捉えどころがない。廊下を進めば背後から聞こえ、振り返れば足元から響く。壁に耳を寄せても床に膝をついても音源はつかめない。


(壁の中……いえ、もっと下……?)


 しゃがんで、床に手をついた。その瞬間、目の奥がちりっとした。

 タイルの継ぎ目に沿って、あの淡い光が走っている。宝物庫で見たものと同じ線だ。それが廊下を横切り、奥へ──書斎の方へと伸びていた。


「エミリア? どうした」

「……こっちよ」


 立ち上がり、光を辿った。ラウルとマチルダが怪訝な顔で後を追ってくる。二人には、ただの暗い廊下にしか見えていない。

 線は書斎の扉の下へ吸い込まれていた。




 書斎は、古い紙と埃の匂いに満ちていた。壁一面の本棚、重い樫の机。その奥に、厳めしい顔の老人を描いた肖像画が掛かっている。


 光の線は床を這って本棚の足元まで続き、そこで消えていた。


「この本棚……」


 かなり古いもののようだ。屋敷の創建当時からあったものだろうか。近づいて、端に手をかけた。押しても引いてもびくともしない。造り付けられている。

 視線を上げ、肖像画を見る。触れてみるとそれは壁に固定されており、動く気配はない。だが、線が指し示すのはこのあたりだ。


「マチルダ、この肖像画は?」

「初代当主です。この屋敷を建てた、ご先祖様の……」


 初代──創建者。そしてその当初からある本棚。

 もう一度肖像画の額縁に手を伸ばし、縁を指でなぞった。下辺の裏側、指先が何かに触れる。窪みだ。奥に、冷たい金属の感触がある。


 押し込んだ。

 カチリ、と乾いた音がした。


「今の音……」


 ラウルが身構える。だが、部屋は静まったままだ。何も起きない。


「……いえ、これからよ」


 もう一度、本棚に向き直る。両手をかけ体重を預けて押してみた。


 石が擦れる重い音とともに、本棚がゆっくりと回り始めた。背後の壁ごと回転し、その奥に下へと続く石段が闇を湛えて口を開けた。


「そんな……こんなところに」


 マチルダが後ずさる。ラウルは階段と、こちらの顔を交互に見ていた。


「エミリア。……なんで、分かったんだ?」


 いつものあの目だ。研究所で鉄巨人が光ったときと同じ。理由を問うているのではない。何かを探る目だ。


「……勘よ。勘」


 イチから話すと面倒だ。この場はそう答えるしかない。ラウルは訝しむような視線を向け、何かを言いかけたが結局口を閉じた。


 階段の底から冷たい空気が這い上がってくる。その奥から、あのガサガサという音が反響音を伴いながら微かに響いてくる。


「行きましょう。この下に答えがあるはずよ」


 燭台をかざし、最初の一段に足を下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。