第3話 これからの事
食事を終え、わずかな静寂が訪れる。
結界の内側だけが、かろうじて安息の空間として保たれていた。
俺とレインは顔を見合わせ、この先の行動について話し合うことにした。
この広大な死の森を、当てもなく彷徨う。
そんな選択が、どれほど愚かかは解りきっている。運よく出口に辿り着ける保証など、どこにもない。
魔法で空を飛ぶことも、一応は可能だ。
だが――それもまた、愚策に近い。
この森の空は、地上以上に危険だ。
なぜなら、そこには魔物の最上位種――ドラゴンが棲んでいる。
中でも黒竜、白竜、赤竜、青竜といった種は、人と同等の知能を持つとされる存在だ。単なる力任せの怪物ではない。空を行く者など、格好の標的にされるだけだろう。
だからこそ――慎重に、確実に、生き残る道を選ばなければならない。
となれば。
まずは、経験豊富なレインの考えを訊くべきだ。
探索者として数々の死地を潜り抜けてきた男だ。この状況にも、何かしらの活路を見出しているはず。
「お兄ちゃん、これからどうするの?」
そう問いかけると、レインはわずかに視線を巡らせ、静かに口を開いた。
「そうだな……まずは、死の森にあるダンジョンを探す」
――やはり、そこか。
即座に意図を理解する。
「ダンジョン……ってことは、中にある転移魔法陣を使うの?」
「ああ」
レインは頷いた。
「ダンジョンには、一〇階層ごとに必ず転移魔法陣がある。それを使えば、俺たちの村まで戻れるはずだ」
理にかなっている。
確かに、ダンジョンの転移魔法陣なら、サイダールへ帰還することは可能だろう。
だが――
「うん、その案には私も賛成。でも……」
「でも、何だ?」
「この死の森の中で、そのダンジョンがどこにあるのか……判るの?」
これが最大の問題だ。
ただでさえ危険な森の中を、あるかどうかも判らない目標に向かって彷徨うなど、無謀にも程がある。
だが。
「ああ、それなら問題ない」
あまりにもあっさりと、レインは言った。
え?
一瞬、耳を疑う。
レインは立ち上がると、迷いなく一方向を指差した。
「こっちだ。少し距離はあるが、問題はない」
その声音には、一切の迷いがなかった。
まるで、そこにあると“見えている”かのように。
……なんだこいつ。
本気で規格外だな。
「お兄ちゃんって、凄いね。ダンジョンの場所まで判るの?」
素直な感嘆が口をついて出る。
するとレインは、わずかに肩をすくめて答えた。
「ダンジョンには、特有の波動がある。それを感知できるだけだ。さすがに距離が離れすぎると無理だが……どうやら今回は運が良かったらしい」
さらりと言ってのけるが、それを“だけ”で済ませるのはどうなんだ。
とはいえ――
その言葉に、胸の奥で張り詰めていたものが少しだけ緩む。
どうやら、俺たちは最悪の状況の中でも、まだ運に見放されてはいないらしい。
「お兄ちゃんが一緒で、本当に良かった」
思わず、そんな言葉が零れる。
レインは一瞬きょとんとしたあと、柔らかく微笑んだ。
「当然だろう。フェリスには、いつでもどこでも俺がついている」
いや、それはちょっと問題発言では?
一瞬ツッコミが頭をよぎるが、口には出さない。
何だかんだで、その言葉に安心している自分がいるのも事実だからだ。
「うん……ありがとう、お兄ちゃん」
素直に礼を返すと、レインは満足げに頷いた。
「それじゃあ、行くぞ。ダンジョンへ」
そう言って、こちらへ手を差し出す。
大きく、温かな手。
迷うことなく、それを掴む。
「うん」
しっかりと握り返すと、レインは軽く頷いた。
こうして俺たちは、再び歩き出す。
死の森の奥深く――
脱出の鍵となるダンジョンを目指して。




