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二七歳の男が無敵のシスコン兄から溺愛される妹に転生した異世界物語  作者: key@holder
第一章 第一部 レミリス王国編 ~死の森~
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第4話 思いもよらぬ遭遇

「ダンジョンの波動が強くなっている。あと、もう少しのはずだ」


 レインの低い声が、木々のざわめきの奥に溶けていく。


 森に入ってから、どれくらい歩いただろうか。体感では三時間ほど――いや、もっと長く感じる。


 足の疲れもあるが、それ以上に堪えるのは――心だ。


 ここへ来るまでに、何体の魔物に襲われたか解らない。そのたびに命の危険を突きつけられ、神経をすり減らされ続けた。


 もっとも――


 そのすべてを、レインは一撃で片付けてきたのだが。


 まるで雑草でも刈るかのように、あっさりと。


 ……おかしいだろ。


 レインと一緒にいると、この死の森が普通の森なんじゃないかと錯覚しそうになる。


 それが逆に、怖い。


 もしこれが一人だったら――


 考えるまでもなく、俺はとっくに死んでいた。


 本当に、こいつと一緒に転移してよかった。


「……このあたりのはずなんだが」


 レインが足を止め、周囲を見渡す。


 気づけば俺たちは、森の中にぽっかりと空いた広場へ出ていた。


 野球場ほどはあるだろうか。


 短く刈り揃えられたような草が一面に広がり、それ以外には何もない。木も岩も、目印になるようなものは一切存在しなかった。


 あまりにも、何もなさすぎる。


「お兄ちゃん、本当にここで合ってるの?」


「ああ……間違いないはずだが……」


 レインの声音にも、わずかな違和感が混じる。


 あのレインが、迷っている?


 嫌な予感が胸の奥に広がる。


 だが、ここまで来て立ち止まるわけにもいかない。


「とりあえず、中心まで行ってみよう」


 短く頷き合い、俺たちは広場の中央へと歩みを進めた。


 あと数歩で中心、というところで。


 ヒュン――


 空気を裂くような鋭い音が、頭上から降ってきた。


 次の瞬間。


 ドドォンッ!!


 轟音とともに、目の前で地面が爆ぜた。


 土煙が巻き上がり、視界を覆い尽くす。


「人族よ、ここから去れ」


 低く、澄んだ声。


 女の声?


 何が起きたのか理解が追いつかないまま、風に流されるように土煙が晴れていく。


 そして――


 現れた“それ”を見て――思考が完全に停止した。


 真っ白な鱗に覆われた、巨大な竜。


 圧倒的な存在感。


 そこにいるだけで、空気が変わる。


 呼吸すら、うまくできない。


 ……白竜。


 頭ではそう理解しているのに、身体がついてこない。


 口が開いたまま、閉じることすら忘れていた。


「人族よ、もう一度言う。ここを去れ」


 白竜は、静かに――しかし確かな殺意を滲ませて言葉を重ねる。


「さもなくば、私がお前たちを殺す」


 その宣告は、あまりにも淡々としていた。


 脅しではない。


 ただの“事実”として告げているだけだ。


 ――格が違う。


「白竜、すまない」


 張り詰めた空気の中、レインが一歩前に出る。


「俺とフェリスは、転移でここへ飛ばされた。去りたいのは山々だが……ダンジョンの転移魔法陣を使うしか帰る方法がない」


 真っ直ぐに、臆することなく言い切る。


 その背中に、わずかな安堵を覚えた。


 白竜は、しばし無言でレインを見下ろしていた。


 やがて――


 大きく翼を広げる。


 轟、と風が巻き起こり、その巨体がふわりと宙に浮かび上がった。


 影が、俺たちを覆う。


「去らぬのであれば――」


 冷たい声音。


「ここで殺すしかない」


 次の瞬間。


 白竜は大きく口を開いた。


 その喉奥に、無数の光が集まり始める。


 一つ一つが、凝縮された魔力の塊。


 やがてそれらはひとつに束ねられ、眩い輝きを放つ。


 ――まずい。


 本能が、全力で警鐘を鳴らす。


 逃げろ、と。


 だが、足が動かない。


 そして――


 光は、解き放たれた。


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