第2話 嘘と真実
「ご馳走様でした」
小さく手を合わせてそう告げると、腹の奥に残る満足感がじんわりと広がった。
「もう、いいのか?」
隣に座るレインが、少し意外そうに眉を上げる。
「うん。もうお腹いっぱい」
本音を言えば、もう少し食べたかった。だが――あの肉はあまりにも美味すぎたのだ。このまま勢いに任せていれば、確実に食べ過ぎていた。
「そうか……」
レインは短く頷くと、ふと視線を落とした。
その視線は、一瞬だけ――俺の胸元あたりに留まり、すぐに逸らされる。
……ん?
今の、なんだ?
どこか言い淀むような空気を感じて、首をかしげる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ああ……いや……」
歯切れの悪い返事。
しかも、目を合わせようとしない。
明らかに様子がおかしい。
「何? 気になることがあるなら、ちゃんと言ってほしいな」
少し身を乗り出して問いかけると、レインは困ったように視線を彷徨わせた。
……珍しい。
レインが、ここまで言いづらそうにするなんて。
俺に対して、何か遠慮でもしているのか?
なら――
少しだけ、背中を押してやるか。
「私、お兄ちゃんなら何を言われても大丈夫だよ。だから……ちゃんと訊かせて?」
そう言って微笑むと、レインはしばし黙り込み――やがて、小さく息を吐いた。
「……そうか。なら、言うぞ」
観念したように顔を上げる。
その視線が、再びこちらへ――いや、正確には胸元へと向けられた。
そして――
「フェリスは、もう少し……食べた方がいいと思う。俺から見ても、少し痩せすぎだ。そのままだと――胸も大きくならないぞ」
――は?
一瞬、思考が止まる。
いや、ちょっと待て。
確かに俺は華奢だ。自覚もある。食事も気をつけている。
だが、問題はそこじゃない。
そこじゃないだろ!!
心の中で、全力のツッコミが炸裂する。
こっちはな、毎日鏡を見て、この可愛らしい姿に満足してんだよ!
それに、太らないように必死に食事制限してるんだよ!
本当はな――腹いっぱい、好きなだけ食べたいに決まってんだろうが!
解ってんのか、この筋肉バカ!!
「はぁ……はぁ……」
「ど、どうしたフェリス!?」
気づけば、呼吸が荒くなっていた。
しまった。内心で暴れすぎた。
「あ……な、何でもないよ」
慌てて取り繕う。
「本当に大丈夫なのか?」
「うん、全然平気」
怪訝そうな視線を受けつつも、なんとか平静を装う。
するとレインは、少し不安げに眉を寄せた。
「もしかして……俺は、フェリスを怒らせてしまったか?」
――おお、よく気づいたな。
心の中で拍手を送りたくなる。
だが、それを表に出すわけにはいかない。
「ううん、怒ってないよ」
にこり、と笑みを作る。
「お兄ちゃんが、私のことを思って言ってくれたのは解ってるから」
――本当によく解ったよ。
お前、巨乳好きなんだな。
ちなみに俺は、慎ましい方が好みだ。残念だったな。
「でもね」
少しだけ声を落とす。
「私の体、あまりたくさん食べられないの」
「……そうなのか?」
「うん。だから、ごめんね。今まで通りの量じゃないと、ちょっと厳しいかな」
そう言うと、レインはしばらく黙り――やがて、ゆっくりと頷いた。
「……解った。俺の方こそ、余計なことを言ったな。もう、フェリスの体について口出しはしない」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
素直に礼を言いながら、内心で強く念を押す。
そうだぞ! これ以上、俺の体についてとやかく言うんじゃねえ!




