06 そんなに早く安心しない方がよいのでは
「惜しい男を失ってしまったぜ」
光の英雄は、闇の少年が戦死したと思ったのだろう。
白濁した粉塵が漂う通路の真ん中、仰々しく肩をすくめてみせる。
その声音には微塵の悲壮感もなく、むしろ自らのドラマ性を引き立てる脇役が退場したと言わばかりの余裕が響いていた。
背後で戦乙女はゆっくりと足場を確かめるように重心を移し、わずかに睫毛を伏せる。
召喚者である彼女は、崩落の淵で少年の命が消えていないことを確かに感じ取っていた。
だが、その気配をあえて口にすることはない。
視線の端では、冷徹な少女からの無言の合意が示されているからだ。
隠密行動を継続するため、闇の少年が生存している事実は、この場にいる口の軽い英雄の前では徹底して伏せられなければならない。
「闇の少年の仇は、俺様がとってやるぜ」
大見得を切った英雄が、重量のある大剣を引き抜いて肩に担ぐ。
その切っ先が指し示す前方。
――50mくらいか。
闇の回廊に、不穏な人影が浮かび上がっていた。
覆面で顔を隠した3つの影。
こちらの様子を鋭く窺いながら、一定の距離を保ったまま動かない。
その視線だけが、こちらの出方を探るように静かに揺れている。
英雄は舌なめずりを一つ挟み、さらに傲慢な笑みを深めた。
「おいおいおい。弱い者にとことん強い俺様から、逃げ切れるつもりでいるのかよ」
戦闘の気配を察知した男が足を踏み出し…
前のめりに突撃しようとしたその瞬間だった。
大剣を構える英雄の背後で、少女の冷ややかな声が静かに落ちる。
「勝ったつもりでいるのですか」
振り返った英雄は、不愉快そうに眉間へ皺を寄せ、鼻を鳴らす。
「なにを言うか、チびっ子」
恐ろしいほどのドヤ顔だ。
「俺様はこの世界を救う使命をもった、召喚された超A級の英雄だぜ。勝利が約束された男なんだよ」
「あの3人が、あなたより格下とは限らないのでは?」
淡々と告げられた疑問符に、英雄の顔が歪む。
「俺様が格下だと? 冗談じゃねえ、俺様の圧倒的な――」
「実際にあなたが繰り出したヘナチョコ斬撃が、簡単に防がれたではありませんか」
「英雄ストラッシュだ!」
「光のストラッシュと言っていましたよ」
「めんどくせー女だな。粘着質かよ……っ!」
英雄は口元を引きつらせ、握った大剣の柄をぎりりと軋ませた。
「アドバイスして差し上げますが……」
「アドバイスか。聞いてやろう」
「これ以上前に出ない方がいいですよ」
「どういうことだ、急に怖気づいたのか?」
大剣を背負った男の眉が、わずかに動いた。
「私たちの進行ルートを知って待ち伏せされていた」
「待ち伏せだと?」
「奴等の後退は、こちらを威嚇しているのではなく、特定の地点へ誘い出している可能性があります」
「どういうことだ、わかりやすく説明しろ!」
烈樺は前方の覆面たちへ視線を向けた。
「英雄に、明確な殺意が向けられていませんか?」
その言葉を聞いた瞬間、英雄の足がぴたりと止まった。
ドヤ顔が消えていき…
こめかみを、一筋の冷や汗が伝う。
「……なるほどな」
英雄は大剣の柄を握り直した。
「奴等は、世界を救うこの俺様を徹底的に排除しようとしているのか」
「しかも、魔物ではない人間が」
英雄の表情が歪み、恐怖と怒りが入り交じった醜悪な形相へと変わっていく。
「腹黒王子か……。この世界に、イケメンは2人もいらないと考えているのか……っ!」
烈樺は、無言で英雄を見た。
(……やはり、スクラップの思考回路は、どこまでいってもスクラップですか)
心底どうでもいいといった様子で視線を外す。
その先で、覆面を被った3つの影が、同時に動いた。
一人が前へ出る。
残る2人は、その左右へ静かに散った。
互いに声を交わすこともない。
ただ一度、視線だけを交わす。
そして3人の目が、烈樺と戦乙女――その奥にいる光の英雄へと向けられた。
少女の瞳が、わずかに細くなる。
(……個人の判断ではありませんね)
3人はそれ以上踏み込まない。
英雄の逃げ道と、こちらの進路を測るように、一定の距離を保ったまま静かに構えている。
まるで、次にこちらがどこへ動くのか――あらかじめ知っているかのように。
烈樺は足を止めた。
その瞬間、3人の視線が同時に動いた。
■第6話
「ちびっ子! 来るぞ!」
光の英雄の叫びを皮切りに、空間の密度が一変する。
黄金の戦乙女は一瞬で呼吸を浅くし、
烈樺の背後へと寄り添うように重心を沈めながら、震える唇をかろうじて引き締めた。
「……頼みます。どうか、命までは奪わないであげてください」
少女は一度だけ頷いた。
敵を排除することと、命を奪うことは同義ではない。
クエストの遂行に支障がないのなら、あえて殺す理由もなかった。
その白い首筋がわずかに傾げられた瞬間。
———転移術士の指先が、鋭く宙をなぞった。
青白い火花が床石の継ぎ目に弾けると、
細い光の筋が石畳を走り、交差した地点で円環を描いた。
最初の魔法陣が青白く輝く。
直後、数メートル離れた床面に新たな火花が散った。
一つ、また一つ。
光の筋が縦横に走るたび、円環が次々と刻まれ、群青の闇に青白い光が広がっていく。
烈樺の冷たい瞳が、瞬時にその配置と魔力の奔流をなぞっていった。
(……今、新しく作られた術式でないものだな)
魔力の流れに微塵の乱れもない。
石畳の奥底まであらかじめ刻み込まれていた術式を、相手はただ手元のトリガーで起動したにすぎない。
(あらかじめ転移先を網の目のように用意しておき、必要な地点だけを選んで発動させる、そういう仕組みなのか)
視線が、工作部隊たちの立ち位置と足元の魔法陣を一瞥する。
正面に転移術士。
左右に炸裂士と制圧騎士。
3人は、まだ数十m先にいた。
――パッ!
青白い閃光。
彼らの姿が掻き消えた。
次の瞬間。
転移術士が眼前に出現する。
数十mの隔たりが、瞬き一つの間に消失していた。
烈樺の意識は正面の一人に留まらない。
(正面は囮。残る2人の気配は――頭上と、背後か)
少女の頭上。
姿を現した炸裂士の両手から、
無数の【紅蓮の種火】が一瞬で空間へ散らばった。
ゴォォォォ!
頭上を埋め尽くした光球が重力を得て一斉に落ち窪むと同時に、
制圧騎士の大剣が死角から唸りを上げる。
正面には転移術士。
少女が抜け出そうとする先を押さえていた。
頭上、背後、正面。
3人は異なる方向から少女を追い詰めていく。
炸裂する前に前方へ抜けようにも、転移術士が立ちはだかり、
背後の剣をかわそうとすれば、頭上から爆炎が降り注ぐ。
どちらへ動いても、もう一方の脅威を避けきれない。
転移術士は、2人の動きに呼応して瞬時に間合いを詰め…
少女が対処を決める間にも、連携の次手が繰り出されていた。
3人は互いの動きを補い、少女から判断の余裕を奪っていく。それが、転移を軸に組み立てられた速攻だった。
パチッ、パチパチッ――!
烈樺の頭上――視界の外で、乾いた破裂音が立て続けに弾け…
遅れて、焼けつくような熱気が頭上から押し寄せてくる。
天井一帯に散った赤い火点が一斉に弾け、無数の火線となって烈樺の周囲へ広がった。
逃げ場を覆い尽くすように、細く鋭い炎が四方から降り注ぐ。
同時に、見上げる間もなく…
背後に転移した制圧騎士が、巨体を揺らして踏み込んだ。
「オオオオッ!」
雄たけびとともに、大剣が引き抜かれる。
2メートルを超える巨躯が迫り、頭上高く掲げられた剣が…
少女めがけて一直線に振り下ろされた。
荒々しく、逃げ場を叩き潰すような一撃。
男は、当然、少女は身をかわし、間合いを取るはず、と考えていた。
――ゴウンッ!
轟音が、地下回廊に響き渡った。
振り下ろされた大剣が、少女の片手に阻まれる。
「……なに? 受け止めただと?」
烈樺は指先ひとつ、揺らいでいない。
2メートルを超える巨体から放たれた、S級冒険者の一撃。
その勢いも、重量も、少女の細い腕一本を押し込むことすらできない。
制圧騎士の腕が硬直する。
大剣を握る手に力を込めても、刃は微動だにしない。
その巨体が、強張る。
後退させるはずだった。
だが、手応えは肉体のそれではない。
まるで巨大な岩柱に剣を叩きつけたかのように、少女は微動だにしなかった。
頭上から降り注ぐ針のような“炎の雨”が着弾する寸前。
空間が歪み、制圧騎士が消え去った。
安全地帯へ退避したのだ。
頭上にいた炸裂士の気配もまた真空へ吸い込まれるように消えている。
直後。
――ドドドドドッ!!
無数の炎弾が、一斉に烈樺の立っていた場所へ殺到した。
轟音が地下回廊を震わせ、灼熱の奔流が少女の姿を覆い隠す。
赤々と弾ける火花が床石を砕き、爆風が周囲の岩壁を叩いた。
次の瞬間、烈樺の姿は、燃え盛る炎の只中へと完全に消え失せていた。
「烈樺様――っ!」
黄金の戦乙女が絶叫に近い声を張り上げ…
光の英雄も思わず引きつった息を呑み込む。
無数の炎の弾丸が冷たい床を穿ち、
爆ぜた高熱の気流が周囲の黒い岩壁を禍々しい赤色へと染め上げていく。
安全圏へと一瞬で転移した転移術士が着地し、そのすぐ隣に制圧騎士と炸裂士の姿が静かに現れた。
「……命中を確認」
転移術士が炎の揺らめく一点を見据え、乾いた声を落とす。
炸裂士は油断なく油断なく目を細め、もうもうと立ち込める煙の向こうを観察した。
「直撃だ。あんな至近距離から無傷で逃れる隙など、最初からなかったはずだ」
「だからといって、討ち取ったなどと早計に決めつけるな」
制圧騎士が低い声で2人の若者を制し、巨大な大剣を構えたまま煙の晴れる先を睨みつける。
彼らが確信しているのは、完璧な罠の網へと標的を嵌めたという厳然たる事実だけであった。
それが相手の肉体にどれほどの致命的な損傷をもたらしたのか――その答えは、まだ濃密な蒸気の奥に隠されている。
転移術士が次の拘束術式を展開しようと、蒼白く光る指先に再び魔力を集中させた。
そのときだった。
「――そんなに早く安心しない方がよいのでは?」
静まり返った煙の奥。
少女の涼やかな声が波紋のように響き渡った。
3人の動きが、文字通りピタリと凍りつく。
頭上を焦がしていたはずの炎の雨は、すでに跡形もなく消え失せていた。
立ち込める白い蒸気と熱の揺らめきが、ゆっくりと左右へ引いていく。
錯覚なのだろうか。
煙の向こうに佇む少女の素肌から、まるで呼吸をするかのように、淡い黄金色の炎そのものが生み出されているように見える。
少女の衣服はもちろん、髪の一筋に至るまで焦げた痕跡すらない。
完全なる無傷。
「……嘘だろ」
炸裂士が呟いた。
天使のような少女が、伝説級の幻獣を単独で討ち倒した——そんな報告は聞いていた。
誰も本気にはしていなかったが…
今、その意味を思い知らされた。
S級冒険者を仕留めるつもりで放った一斉攻撃。
それを浴びても、少女は傷ひとつ負っていない。
転移術士の顔から血の気が引いた。
「……黒王子の標的は、光の英雄だったな」
制圧騎士は、炎の向こうの少女を睨んだ。
「だが、あれを残せば英雄には手が届かん」
一斉攻撃を浴びても、少女は無傷。もはや小手先の攻めでは仕留められない。
「出し惜しみはするな。全力で叩き潰すぞ」
「あれを使います。発動中は、私も身動きが取れませんが」
転移術士の言葉に、炸裂士が目を細めた。
「永久監獄か……。なら、俺が隙を作る」
「頼みます」
3人の表情から、余裕が消えていた。
次の一撃に、すべてを賭ける。
彼らはまだ知らない。
目の前の少女が、彼らの想像する脅威とはまるで異なる理屈で動いていることを。
炸裂士が、烈樺の周囲へ視線を走らせた。
先ほどの攻防の間に仕込んだ爆薬。
その配置を確かめるように指先を動かし、起爆石を強く握り込む。
いつでも爆破できるよう、魔力を石の内部へ流し込んでいた。
一方、制圧騎士は大剣の柄に手を掛け、腰を深く落とし、
刃を抜き放つ寸前の姿勢から、少女の立つ位置へ鋭い視線を据えた。
剣閃を飛ばすための構えだった。
彼女が一歩でも踏み出せば、炸裂士が周囲の爆薬を起爆し、制圧騎士が遠距離斬撃を放つ。
爆炎で進路を塞ぎ、斬撃で移動先を叩く。
逃げようとする動きそのものを攻撃で封じ、彼女をその場に釘付けにする算段だった。
烈樺の瞳がわずかに細められる。
「……人生に無駄なものはない、と言いますが」
少女は動かなかった。
逃げ道を探す素振りも、術式を破ろうとする気配もない。
戦闘の合間に立ち止まったときと変わらぬ様子で、青白い光が広がっていく光景を眺めていた。
まるで、敵が何をしようとしているのか、最初から知っていたかのように。
床石に刻まれた魔法陣から、細い光の筋が壁面へと伸びていく。
石の継ぎ目を縫い、岩肌を這い上がり、天井へ達した光は、そこで別の術式と結びついた。
それでも烈樺は、片手を腰に添えたまま、悠然と立っていた。
転移術士が指先を動かす。
床の魔法陣が応じ、壁面を走る光が分岐する。
複数の術式が互いを補うように連結され、ひとつの経路が閉じると、別の光がその隙間を埋めた。
やがて、床から立ち上がった光の壁が天井へ届く。
――ゴゥゥゥン……!
低い共鳴音が地下回廊を揺らした。
最後に残された開口部へ、左右から青白い光が迫る。
二本の光柱が中央で交わり、継ぎ目を封じるように強く輝いた。
———光の檻が完成した。
外界と隔てられた空間の内側で、烈樺はようやく小さく首を傾げた。
閉じ込められたことに動揺した様子はない。
むしろ、出来上がった術式を品定めするように、視線だけをゆっくりと巡らせていた。
黄金の戦乙女が息を呑む。
「烈樺様――っ!」
助けに入ろうと一歩踏み出した彼女を、烈樺は片手を上げて制した。
逃走経路を探すような無駄な動作は一切ない。
彼女の冷徹な視線は、無数の魔法陣が複雑に絡み合う、その連結の「要」となる一点を正確に見据えていた。
「これは本当に無駄の一言ですね」
零れ落ちた呟きとともに、烈樺の重心がわずかに沈む。
右肩を引き、鍛え抜かれた足裏で硬質な石畳を深く捉え、溜め込んだ爆発的なエネルギーを一点へと集中させた。
炎の魔法を繰り出すわけではない。
「破壊させてもらいます」
少女の身体能力のすべてを乗せた右拳が、空間を切り裂くように真っ直ぐに突き出された。
――ガキィンッ!
拳が結節点を捉えた瞬間、硬質な音が地下回廊を貫いた。
衝撃が消えるより早く、拳のめり込んだ一点が歪む。
青白い円環が内側へ押し潰され、その輪郭を形作っていた光の筋が、耐えきれずに細かく震えた。接続部に走った亀裂は、まず隣り合う術式へと伸び、次いで壁面を這う光の線へと食い込んでいく。
――ピシッ。
乾いた破断音。
ひとつの円環が明滅を繰り返し、ふっと輝きを失った。
その瞬間。
連結していた別の魔法陣が不規則に脈打つ。
閉ざされた空間を支えていた光の壁に歪みが生じ、幾重にも重なった術式の接続が、一本ずつ解け始めた。
破壊は、結節点だけでは終わらない。
崩れた接続を補おうとした光が行き場を失い、隣接する円環へ逆流する。
青白い輝きが一斉に乱れ、檻を形作っていた光の柱が、支えを失ったかのように揺らいだ。
「ばっ……馬鹿な、術式が――!」
転移術士の喉から悲鳴に似た気息が漏れた。
緻密に構築された捕縛空間は、ガラス細工のように音を立てて次々と崩壊し、青白い光は霧のように虚空へと散っていく。
蓄積されていた魔力が一気に解放され、周囲の空気が激しく波立った。
敵の戦術が完全に破られたことを悟った瞬間、三人の表情が険しく強ばる。
制圧騎士が歯噛みしながら大剣を引き抜き、炸裂士が煙幕弾を足元に叩きつけた。
「退くぞ……!」
敗北を認めたのではなく、捕縛という唯一の勝利条件が消滅した以上、これ以上交戦する意味がないと瞬時に判断したのだ。
3人の影は、崩れゆく魔法陣の残滓に身を隠すように、それぞれ異なる闇の方向へと鮮やかに身を翻していった。
遠ざかる敵の気配を見据えながら、光の英雄は大きな鼻を鳴らして誇らしげに胸を張る。
「見たか! 俺様の圧倒的な気圧され具合にビビって、蜘蛛の子を散らすように逃げ出しやがったぜ!」
その空疎な台詞を完全に無視し、戦乙女はそっと息を整えながら烈樺の横顔を見上げる。
「……追わなくてよろしいのですか」
「追う必要はありません」
少女は冷徹に首を横に振る。
彼らの背後にある意図や黒王子の影について考えるよりも、目の前にある「スタンピードの根源を断つ」という本懐こそが優先されるべきだった。
静まり返った通路に微細な粉塵が舞い落ちる中、烈樺は再び冷たい視線を奥の闇へと向け、迷宮の深層へ向けて静かに歩き出す。
崩れ去る魔法陣の残骸を背にして、戦乙女と英雄が足を進める。
その背後、数歩離れた闇のなか。
烈樺の細い指先が、冷たい空間を弾くように軽く鳴らされた。
――パチン。
澄んだ乾いた音が、微細な粉塵の舞う回廊の空気を震わせる。
直後、数十メートル離れた岩陰から、小さく押し殺されたような破裂音が響いた。
ドゥン……。
地表を這うような鈍い振動が、足元の石畳を微かに伝う。
戦乙女がぴくりと肩を揺らし、首を巡らせようと足を止めた。
だが、その視線の先を遮るように、烈樺は振り返りもせず淡と言葉を落とす。
「行きますよ」
「……あ、はい」
疑問を飲み込んだ戦乙女が再び歩幅を合わせ、英雄は相変わらず大剣を担いだまま不敵な鼻息を漏らして闇の奥へと消えていく。
二人の意識が完全に前方の暗がりへと戻ったのを確認し、少女の瞳の端に、ただ静かな冷たさだけが残された。
崩れた岩陰の奥。
微かに漂う焦げ臭い気配のなか、微動だにせず潜んでいた小さな影――その機巧の視覚が、機能停止の光を明滅させて静かに沈黙する。
誰にも気づかれることなく、ただ一つの気配だけが闇に溶けて消えていった。
可能なら★評価をいただけると有難く思います。
よろしくお願いします。




