03 その申し出は辞退します
「私は王家序列9位にいる者です」
黒衣を纏った金髪の青年が、穏やかな笑みを浮かべた。
――氷晶の黒王子。
若くして王国の影響力を持つ王子だった。
ここは、王族御用達の建物内。
中央の円卓を挟み、黒王子と戦乙女が向かい合っている。
その周囲には、烈樺、光の英雄、闇の少年。
そして黒王子の背後には、白衣をまとった小柄な少女が静かに立っていた。
少女は、誰に言葉を挟むこともなく、ただ穏やかな笑みを浮かべている。
英雄は、自分よりも容姿端麗で、しかも王子であるという事実が気に入らないのか。
深く眉を寄せていた。
やがて仏頂面を隠さないまま、好戦的な響きで言い放つ。
「黒王子様が、俺様に何の用だ」
優男は答えず、向かいに座る戦乙女へ視線を戻した。
黄金の女は、隣の光の英雄に小さく笑って頷いていた。
黒王子はその様子を眺め、膝の上で組んでいた指をゆっくりほどく。
視線だけを苛立ち男へ滑らせ――すぐに戦乙女へ戻した。
「スタンピード攻略の勅命が下った戦乙女の力になりたいと思ったんだ」
黒王子は椅子の背へゆっくりと身を預ける。
「私に出来ることは何でもやるつもりだ」
穏やかな笑みを崩さないまま、黒王子は室内にいる者たちを静かに見渡した。
「必要であれば、私の直属部隊も動かそう。彼らは対人戦闘と特殊工作を専門としている。スタンピードの攻略においても、十分な戦力になるはずだ」
その言葉を遮るように、英雄が鼻を鳴らした。
「俺か。……俺、以外か」
椅子から身を乗り出し、黒王子へ顔を近づける。
「最強の特殊部隊だか、チート冒険者だか知らねえが、所詮はS級だろ」
自分の胸を親指で指し、口角を吊り上げる。
「俺達がスタンピードを攻略する。手柄のおこぼれが欲しいなら、邪魔しないことだな」
黒王子は、その指先を静かに見た。
「……」
やがて視線を戦乙女へ戻すが…
それでも笑みは崩れない。
「俺の物語にイケメンは2人もいらねーんだよ!」
それは、分かりやすい噛ませキャラのような振る舞いだった。
だが、烈樺は光の英雄には目もくれなかった。
その冷徹な視線が向いていたのは、黒王子の後ろに立つ一人の少女だった。
白衣をまとった、小柄な少女。
烈樺とほとんど変わらない背丈だ。
少女は愛嬌のある笑みを浮かべている。
黒王子が、その視線に気づいたのか、少女へ手を向けた。
「彼女は、冒険者ギルド最強と名高い【黒髪のパーティ】のメンバー、女法士だ」
【黒髪のパーティ】は王家直属ではない。
冒険者ギルドに所属する独立したパーティであり、今回は黒王子の要請を受け、協力者としてこの場に呼ばれていた。
黒王子の後ろに立つ女法士は、
愛嬌のある笑みを浮かべながら一歩前へ出ると…
丁寧に腰を折り、柔らかく微笑んだ。
向日葵が満開のようなその笑顔に…
先ほどまで黒王子へ食ってかかっていた英雄の険が、いつの間にか消えていく。
闇の少年も、目を細めたまま黙っている。
女法士は二人の反応を気にする様子もなく、烈樺へ視線を向けていた。
「最強種とされる極氷獄鳥を倒した、クエストの民――烈樺様なのですか?」
鈴を転がすような声だった。
質問されていないはずの英雄の口角が、ゆっくりと吊り上がり…
やれやれのポーズをとりながら、割り込んできた。
「そういうことではあるが、気をつけろ」
待っていた言葉が来た。
そんな顔だった。
戦乙女は、極氷獄鳥討伐成功の報告を王へ行う際、脚色することなく本当の事実を言葉にしており、それが今や巷の噂になっていた。
英雄は女法士の言葉を予測していたのだろう。
口角を吊り上げドヤ顔のなっている。
「一見、ゴスロリメイドで“ご主人様”とか言ってそうだが、気をつけた方がいいぞ」
その英雄に呼応するよう…
闇の少年が腕組みをしながら前に出て。
「必殺の一撃をくらって生きていられるのは、僕くらいなものです」
英雄が、さらに黒王子へ顔を近づけていく。
「ゴスロリは俺達を影で支配している危険物なんだ」
闇の少年は、何故か気取ったイケメンポーズをとってみせる。
「僕でなければ、烈樺様に近づくことは危険です」
英雄の顔と、黒王子の顔が至近距離でぶつかり合う。
「つまりだ。俺達の邪魔をするな、ということだ」
それほど露骨な拒絶をされても、黒王子の予測の範囲内だったのか。
動じる様子は微塵もない。
その険悪な空気の中…
成り行きを静かに見守っていた戦乙女が、ふっと息をついた。
「黒王子様。お気持ちはありがたく受け取ります」
戦乙女は穏やかな声で告げる。
「ですが、スタンピードの攻略は、今の私たちで進めさせてください」
黒王子の眉が、ほんのわずかに動いた。
「……理由を聞いても?」
「理由というほどのものではありません」
戦乙女は、隣に立つ光の英雄たちへ一度だけ視線を向けた。
「この方たちと、最後まで進むと決めていますから」
そして、再び黒王子へ向き直る。
「ご厚意を無下にするつもりはありません。ですが、今回のお申し出は辞退させてください」
丁重な言葉だった。
しかし、その意思に揺らぎはない。
黒王子、そして黒髪の青年パーティの協力を、戦乙女ははっきりと断ったのだった。




