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第五十六話 帰る日まで決めて、初めて延長になる

氷背獣の群れは、すぐには尾根へ戻らなかった。


外環のさらに外、塩橇を置いた斜面で一潮近く留まった。


町は警戒を続けた。


高空飛行は禁止。


外環路は通行止め。


牧獣は内柵へ。


二刻ごとに目視記録。


角笛は使わず、高音の金属板と色旗で連絡する。


次の冷降流が弱まると、五頭は山側へ動き始めた。


右背板欠け。


両肩の白板。


短い右角。


黒筋の幼獣。


左後脚を引く個体。


同じ特徴を、二つの塔が順に確認する。


北枝塔を通過。


尾根下へ。


最後に見えなくなった時刻まで書く。


〈帰山確認〉ではない。


〈尾根下で目視不能〉。


見えなくなったことと、危険が消えたことを同じにしない。


外環路は、さらに一刻閉じたままにした。


新しい足跡なし。


牧獣の騒ぎ、低下。


氷粉、減少。


斥候二人が別方向から尾根下を確認し、ようやく警戒を一段下げた。


その後に始まったのは、勝利の宴ではなかった。


警報の復盤会だった。


中央塔の長机へ、五つの組が座る。


警報塔。


運搬組合。


競演会。


外環路守。


羽環堂。


尽は羽環堂の記録補助として、壁際の席にいる。


最初の議題は、北枝塔の雪避け板。


古い板を戻せば終わり、にはならなかった。


半年間、別用途で使われていた板は、観客棚へ合わせて穴を二つ増やされている。


塔へ戻しても、そこから氷粉が入る。


新しい板を作る。


古板は穴を塞ぎ、予備へ。


費用は競演会だけに負わせない。


貸出を承認した塔側にも責任がある。


町の予備費、競演会、警報塔管理費を分けて出す。


「誰が一番悪いかを決めないのか」と若い競演係が聞いた。


ミレナは答える。


「罰が要る行為と、直す仕組みは別だ。札を偽造した者はいない。返す役を決めないまま貸した全員が、少しずつ抜けた」


次は、借用品。


警報、消火、診療、避難に使う部材は、代替品を先に置かなければ持ち出せない。


貸出札には、貸す側と借りる側の印。


返却時にも二つの印。


期限を過ぎれば、中央塔の黄色棚へ自動で札を移す。


自動といっても、魔法で勝手に動くのではない。


期限輪が一目盛り落ち、黄色布を引く単純な仕掛けだ。


誰かが毎潮、棚を見る必要は残る。


三つ目は、不通信号。


今まで中央塔は、圧が来ない枝を静かな枝として扱っていた。


改修後は、各塔が一定間隔で小さな生存圧を返す。


冷降流の警報圧とは別の細い脈。


中央塔の三枚の小羽が、順に一度だけ立つ。


立たなければ黄色。


一枝不通のまま、別の一塔から冷降流が来れば、二塔一致を待たず有人警戒へ移る。


鐘を最大段階で鳴らすのではない。


自動判断を止め、人が確認する段階へ下げる。


「生存圧そのものが詰まったら?」と尽。


塔技師が答える。


「だから、立たないことが不通になる」


安全だから何も送らない方式をやめる。


安全でも、装置が生きている印を送る。


四つ目は、定期試験。


毎十潮では長すぎる。


冷降期は三潮ごと。


通常期は六潮ごと。


試験時刻を公開し、宿と運搬組合にも知らせる。


本物の警報との聞き違いを防ぐため、試験鐘は最後に一音足す。


五つ目は、獣数の報告。


〈三頭〉だけの札は禁止。


時刻、位置、方向、特徴、確認方法を最低項目にする。


伝聞は捨てず、別色で残す。


同じ個体と判断した時も、元の報告を消さない。


角笛による誘引は、まだ因果が確認できない。


外環での低音角笛は一時停止。


猟師記録と過去の接近時刻を調べ、非危険期に音域だけを遠隔測定する。


生きた氷背獣を呼んで試す案は却下された。


復盤札の末尾には、成功したことも書いた。


宿の人数確認。


低空伝令。


風除幕。


物資受領札。


牧人の退避。


攻撃より先に誘導を選んだ判断。


失敗だけを残せば、次回は全部を捨てて新しい仕組みへ飛びつく。


働いた部分も分けて残す。


復盤会の後、ユーノは尽を羽環堂へ連れ戻した。


赤い尾羽は、固定台に付いたままだった。


革の減衰片は外されている。


代わりに、薄い羽骨片が二枚。


羽骨は熱を持ちにくく、急な振れだけを逃がす。


弱風。


中風。


尾羽の振れは前回より小さい。


接触部の温度も上がらない。


強風。


補助索が一度だけ規定線へ近づいた。


収羽棒は動かなかった。


固定台では、三段を通した。


「合格ですか」


「固定台の一回だけ」とユーノ。「次は持続風。荷重。横風。雨膜。公路はその後」


尽が帰るまでに、赤尾は道路へ出ない。


結末を見届けられない試験もある。


記録帳には、〈羽骨減衰案・初回三段通過。未認証〉。


それで十分だった。

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