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第二十三話 三枚の許可は、一枚にならない

最初の許可は、メルダだった。


治療区の回廊に、木箱が六つ置かれる。


一つ目まで歩く。


戻る。


二つ目。


戻る。


最後は六つ目。


距離を一度に延ばさず、往復するたび左膝を診る。


尽は杖を使う。


一往復。


痛みは丸。


二往復。


丸。


三往復目の帰り、膝の内側が熱い。


丸と三角の間。


休む。


脈と腫れを測る。


熱が下がってから四往復目。


三角。


終了。


六つ目まで行けなかった。


尽は不合格だと思った。


メルダは記録札へ、四つ目までの印を付ける。


旧測鉱所まで、全部を歩く必要はない。


城門から巡路隊の橇に乗る。


測鉱所の手前で降り、平地だけを歩く。


階段と梯子は禁止。


外で痛みが三角になったら、休んでから続けるのではない。見習い作業を終え、帰路へ入る。


工房内の規則より厳しい。


城外では、休んだ間に天候が変わる。


魔獣が来る。


救助者まで危険になる。


尽が作業を終えたいと言っても、三角は帰還だった。


歩行許可札には、許可と不許可が同時に並ぶ。


橇移動。


平地短距離。


杖。


可。


負重。


梯子。


走行。


不可。


完全な外出許可ではない。


旧測鉱所一回限りの条件札だった。


二枚目は、ボルン。


巡路隊の詰所へ、尽、ティム、グランドーガが呼ばれる。


机の上には、人の形をした木駒が五つ。


ボルン。


ガルド。


巡路者一人。


ティム。


尽。


グランドーガは行かない。


城内で修理台と予備品を準備し、戻った部品を受け取る。


現場責任者はボルン。


機械作業の監督はティム。


粉や鉱物反応はガルド。


尽は見習い。


役割を一列へ書く。


次に、ボルンは停止札を五枚置いた。


一人一枚。


尽の前にもある。


自分が一番下の見習いだから、親方や巡路隊を止める権利はないと思っていた。


ボルンは首を振る。


膝の痛み。


息苦しさ。


指輪の発熱。


知らない文字。


危険粉。


自分にしか分からない異常なら、尽が止めなければ誰も知らない。


ただし停止札は、命令権ではない。


止めた理由を言う。


確認する。


継続、変更、撤退を現場責任者が決める。


緊急なら、理由を説明する前に退避してよい。


ボルン自身が停止札を上げた場合は、議論より先に全員が橇か避難所へ戻る。


魔獣。


雪崩。


赤碧探測輪の同時偏向。


視界消失。


この四つは即時帰還。


仕事が終わっていなくても帰る。


部品を置いても帰る。


記録板が飛んでも帰る。


人を数える。


五人。


荷物の前に人。


尽は停止札を銅弟子札の横へ付けた。


薯片のことを、ボルンが確認する。


尽は持っていない。


隔離庫の完整二十七枚、大破片六、細片、落地二枚、包装袋。全部、城内のまま。


城外で何かあったときの切り札として、一枚だけ持つ案は出なかった。


出力も条件も分からず、使用者が六時間動けなくなる物は、救命具ではない。


最後に、ボルンは五つの木駒を袋へ入れる。


一つずつ出す。


名前を言う。


五人。


尽も繰り返す。


帰還時、同じ確認をする。


三枚目は地図試験だった。


ティムが作った子供向け地図は使えない。


巡路隊の正式地図。


赤縁側の城門。


旧測鉱所。


途中の風除け壁。


橇路。


緊急避難洞。


地図は三枚ある。


城門掲示用。


橇停留所用。


測鉱所入口用。


同じ地域でも、掲示場所に合わせて向きが違う。


試験一つ目。


城門の赤導光柱と地図の赤縁を合わせる。


旧測鉱所は右前方。


尽は正しく示した。


二つ目。


橇停留所の地図。


赤導光柱は見えない。


風除け壁に、三本の横溝。


地図にも三本。


橇路の杭番号。


十二。


地図の十二へ現在地を置く。


測鉱所は左。


正しい。


三つ目。


測鉱所入口から、城門へ帰る地図。


尽は赤縁を探す。


帰りは、赤極へ向かうのではない。


氷風城の城門は、測鉱所から見て碧寄りに戻る。


赤い光を追えば、城から離れる。


尽は一度、赤縁へ指を伸ばす。


止める。


入口の風向杭を見る。


地図の二股杭印。


避難洞の黒三角。


帰路の三つの目印を順に示す。


正しい。


ティムが地図を百八十度回す。


今までなら混乱した。


尽は地図を戻さず、現在地印と二股杭を探し直す。


地図の上がどちらでも、目印の関係は変わらない。


帰路をもう一度示す。


正しい。


地図試験は終わらない。


ボルンが、測鉱所と城門の間へ灰石を一つ置く。


吹雪で正規路が塞がった。


どこへ行く。


尽は迂回路を探した。


細い点線がある。


鉱夫用の旧道。


行けそうに見える。


しかし、旧道の横に赤いばつ。


冬季閉鎖。


尽は避難洞を指す。


そこで待ち、巡路隊の判断。


正解だった。


地図は目的地へ着くためだけではない。


進めないとき、勝手に別の道を選ばないためにもある。


三枚の許可が揃った。


一枚へまとめない。


医療条件をボルンが変更できない。


巡路停止をティムが上書きできない。


地図合格が、身体の許可にはならない。


出発前の装備点検。


防寒上着。


膝を締め過ぎない脚布。


雪光を抑える灰色の護目鏡。


乾式防塵布。


水筒。


塩を入れた固いパン。


甘い根菜片。


杖。


停止札。


紙ではなく、濡れても消えない粘土記録板。


鉛筆は内袋。


低能の発音札。


予備の遮光布。


旧銀戒は首元で灰布を巻く。


白紙の一頁と家の鍵は、共同室の蓋付き箱へ残す。


城外で失わないためだ。


止まった腕時計は迷った末、持っていく。


時間を測るためではない。


温度で金属やガラスがどう変わるか、戻って比較するためでもない。


ただ、城外へ出るとき一緒にいたかった。


ボルンは時計を武器とも計器とも数えず、私物欄へ記した。


荷物の重さは、メルダの許可内。


尽が持つのは自分の水と記録板だけ。


工具箱はティム。


採取具はガルド。


巡路装備はボルンたち。


清单が揃ったあと、城門の低温室で装備試験を行う。


外気を直接入れるのではなく、冷却石と送風輪で旧測鉱所付近の温度と風を再現する部屋だった。


最初の試験。


尽は防寒上着、護目鏡、防塵布、手袋を着ける。


送風輪が回る。


息が防塵布の上へ抜け、護目鏡の内側が白く曇った。


前が見えない。


尽は反射的に護目鏡を外そうとする。


ボルンが止める。


吹雪の外で外せば、雪光と粉が目へ入る。


防塵布の上縁を鼻へ密着させ、吐息を横へ逃がす。フィオが細い布骨を縫い込み、形を保つよう直した。


再試験。


曇りは減る。


完全には消えない。


護目鏡の下へ、乾いた拭き布を一本。歩行中は拭かず、風除けか橇の中でのみ使用する。


次に水筒。


腰へ下げたまま風へ置くと、口金の周囲から凍り始めた。


上着の外側ではなく、内側の脇へ吊るす。


ただし身体へ当たり、歩くたび左膝へ振動が伝わる。


右側へ移す。


重量が偏る。


背中中央へ、ティムが平たい内袋を付けた。尽一人では取り出しにくいが、外では単独行動しない。飲むときは同行者へ頼む。


自立より、安全を優先する。


発音札も試す。


厚い手袋では、小さな停止片を摘めない。


尽は手袋を外そうとした。


これも止められる。


停止片へ大きな革輪を付ける。


手袋の指二本で引ける。


胸、腰、転倒した姿勢の三方向から操作する。


胸では鳴る。


腰では上着の裾に引っ掛かる。


位置を少し上へ。


床へ横になり、右手だけで引く。


鳴る。


音は風に消されやすい。


ボルンたちの発音札と違う音にする必要もあった。同じ音なら、誰が呼んだか分からない。


尽の札は、短い音二回。


ティムは長い音一回。


ガルドは低い音三回。


ボルンは全員集合の連続音。


一人ずつ、背を向けた状態で聞き分ける。


尽はガルドとボルンを一度間違えた。


低音が風の中でつながって聞こえたからだ。


ガルドの三回目だけ高く調整する。


再試験。


全員正解。


最後に、尽の護目鏡を灰布で半分覆う。


視界不良を再現する。


歩かない。


その場で停止札。


同行者の名を呼ぶ。


返事の方向へ勝手に進まず、肩へ触れられるまで待つ。


城内なら数歩で済む動作を、低温室で何度も繰り返した。


装備は、持っているだけでは使ったことにならない。


使えない姿勢と天候を先に見つける。


三枚の許可に、装備試験済みの小さな角印が追加された。


出発は、赤光が強まり始める次の潮鐘。


共同室へ戻ると、フィオが護目鏡の紐を調整した。翼を持つ者用で長過ぎたからだ。


バルクは防寒靴の底へ、滑り止めの小さな石粒を埋める。


ティムは地図を、今度こそ正しい向きで渡した。


尽は受け取る前に、掲示印を確認する。


「信用ないなあ」


誰にも通じない。


それでも全員が笑った。


城外へ行く許可は、冒険者になった証ではない。


一回の修理へ、条件付きで同行してよいというだけ。


尽には、それで十分だった。

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