第二百十五話 格子を押さえる木
石工の図を見たペペは、横木の長さより先に、留める場所を尋ねた。
「格子に打ち付けるのか」
「そこが弱っているから、木を入れるんだよ」
石工は鉛筆の尻で図の左右を叩く。外側の小部屋には、敷石より低い位置に硬い岩が二か所出ている。そこへ木の足を立て、上の梁で格子の右肩を受ける。鉄に釘を打たず、古い留め棒も引き抜かない。格子が手前へ動いた時だけ、木が受け止める形だ。
ペペは紙の余白に、人が通る幅を書き込んだ。木を組んだ後も、小部屋から出口まで一人分の道を残す。ナディアはその数字を見て頷いたが、すぐに一つ線を引いた。
「尽が横向きで通れるだけじゃ足りない。石工の道具も運び出す」
「俺の肩幅で描き直すよ」
「それなら余裕があるわね」
リゼッタの返事にペペが顔を上げる。言い返す間に、ユーノが幅を測る紐を彼の肩へ当てた。食堂の端で図を囲んでいた生徒たちが笑い、ペペは紐を自分で結び直した。
組む日は朝から晴れた。鐘小屋の金具は暗く、東路の羽根と二段目の紙はどちらも谷側を示している。西口の木枠も乾いていた。ナディアはその日の作業を「外側の支えまで」と決め、鉄格子の奥へ人を入れる許可は出さなかった。
下段の詰め石を外すと、風はいつものように小部屋へ吸われた。入口にリゼッタと森守が立ち、外から伝声石を持つ。中は石工二人と尽、ペペの四人。ユーノは上の棚で三か所の見張りから時刻を受け、紙に並べる。
木の足は岩のくぼみに合わせて削った。ペペが一本目を立てると、上端がほんの少し格子へ寄りすぎる。石工はすぐ抜き、薄い楔を別の面へ移した。尽は灯を持ちながら、その動きの遅さに落ち着かなくなる。穴の奥で何が鳴ったのか、昨日の一度きりでは分からない。
「急いで立てた木から、先に倒れる」
石工が言う。ペペは黙って足元の石屑を布へ集めた。二本目を立てる頃には、最初の楔も動かなくなっている。上の梁を渡しても、格子との間には指二本の隙間が残った。風が変わって鉄が押されるまで、木へ力は掛からない。
梁の位置を決めた時、奥で乾いた音がした。昨日と同じ、短い一打。格子の右肩がかすかに揺れ、赤茶色の粉が落ちる。ペペは反射的に梁へ手を伸ばしたが、石工が「触るな」と低く言った。まだ梁は留まっていない。今押せば、動く鉄と硬い岩の間で指を挟む。
尽は灯を下げ、出口までの敷石を照らした。四人は一度外へ退く。リゼッタが人数を数え、最後にペペの工具袋を受け取った。彼の手は空だ。
東路の羽根は変わらず、西口にも合図はない。雷も聞こえなかった。石工は外で図を広げ、格子が揺れた時の隙間を聞く。尽が「指二本より狭くなった」と言うと、石工は木の梁をもう少し外へ寄せることにした。鉄が大きく動いたら受けるが、普段の小さな揺れを無理に止めない。そうしないと、支えた岩の方を傷める。
昼食の包みを開けても、尽は一口目をしばらく持ったままだった。格子の奥で板が一枚ずれただけかもしれない。今すぐ見て来れば、その場では答えが出る。そう考えた瞬間、リゼッタが彼の手元を見た。
「そのパン、食べないならもらう」
「食べるよ」
尽は慌ててかじった。リゼッタは自分の包みから干し果物を一つ出し、彼の膝へ置く。「入るのは床を調べてから」と言う声は、説教よりも眠そうだった。朝から入口で縄を握っていたのだ。尽は果物を半分に割り、彼女へ戻した。
少し離れた所で、ペペが自分の指を一本ずつ曲げていた。さっき梁に手を出していたら、今どの指を挟んでいたか数えているらしい。五本全部動くと確かめて、彼はやっと水筒を取った。
*
昼を過ぎてから戻り、二人の石工が梁を固定した。尽とペペは出口側から灯と工具を渡すだけにする。木組みの上へ紙の細い目印を貼り、格子との隙間を外から読めるようにした。敷石には、梁の足を避けて歩く白い線も引く。
石工は鏡を格子の間へ差し、右上の留め棒を見た。岩に埋まった根元にはまだ硬い部分があり、すぐ抜ける状態ではない。だが先の曲がりを戻すには鉄を外さなければならない。今日の木組みは修理ではなく、人が外側へ退く時間を確保する支えだ。
ペペが鏡を受け取った。角度を変えると、奥の短い岩道の床が映る。道はまっすぐに見えて、その先で右へ曲がる。前回の灯では暗くて気づかなかった。曲がり角の壁に、四角い薄板が一枚掛かっている。
「文字がある」
石工は鏡を返してもらい、灯を斜めに当てた。上半分は泥で読めない。下に残るのは〈一段先、床を打って確かめる〉という短い文だった。小部屋の敷石を叩いた時のように、足場を調べろという古い注意書きらしい。板を持ち帰るには格子を開ける必要がある。誰も錠には触れなかった。
夕方、詰め石を戻す前にナディアが木組みを見た。出口への白い線は、ペペの肩幅でも通れる。彼が実際に袋を抱えて歩くと、梁の足には触れなかった。リゼッタは入口から見ていて、「今日は襟を掴まずに済んだ」と言った。
「昨日も俺は落ちてない」
「昨日は結び目を三つ増やした」
ペペは縄をほどきながら数えた。三つではなく二つだったと言いたいらしい。尽は口を挟まず、鏡に映った右の曲がり角を思い返した。奥の道には人が歩くための板が掛かっている。風井の底へ直接落ちる穴だけではなかった。
ナディアは石工から足場の見取り図を受け取り、翌日も三か所の風向と木組みの目印を見張るよう頼んだ。内側へ進むかは、曲がり角までの床を外から調べ、鉄の錠を安全に動かせるか確かめてから決める。石切場の白い詰め石は、今夜も元の位置で入口を塞いだ。




