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第二十一話 夜がないなら、起きる時刻を作れ

氷風城では、一度の双曜潮を十二の鐘に分けていた。


赤光が強い鐘。


碧光が太る鐘。


二つが釣り合う鐘。


鐘と鐘の間は、地球の一時間より長い。


しかし、いつも同じ長さではない。


昼環錨の脈動が早まる日。


大隧道の防壁が多くの力を使う日。


赤と碧の魔力が押し合う日。


城の中央時計が潮を読み、鐘守が次の区切りを調整する。


工房の作業は鐘で始まる。


共同室の睡眠も鐘で決まる。


尽には、その鐘が聞こえないことがあった。


遮光布が厚い。


炉の音が大きい。


疲れて眠りが深い。


一度目は、ティムに起こされた。


二度目は、フィオの翼で顔を叩かれた。


三度目は、バルクが寝台ごと持ち上げようとした。


「最後のは起こし方ちゃう。運搬や」


抗議は通じなかった。


遅れた弟子には、作業前の清掃が一つ追加される。


尽は三回目で、個人用の目覚ましを作ることにした。


止まった腕時計は使わない。


直せるかもしれない。


だが、地球の電池も部品もない。分解すれば、最後の時刻を失う可能性がある。


氷風城の時間へ合わせて勝手に針を進めるつもりもなかった。


新しい時間には、新しい時計を作る。


最初の案は砂時計だった。


眠る前に返す。


砂が落ち切る。


下皿が重くなる。


てこが動く。


小さな槌が鐘を叩く。


魔力を使わない。


グランドーガは図を見て、工房の古い砂時計を三つ出した。


同じ大きさ。


同じ砂量。


落ち切る時間は、全部違う。


一つは乾いた白砂。


一つは赤い金属砂。


一つは碧い結晶砂。


白砂は湿気で遅くなる。


赤砂は赤光が強いと互いに反発し、早く落ちる。


碧砂は碧光で粒が少し重くなり、出口に詰まりやすい。


地球の砂時計より、条件が多い。


尽は白砂を選んだ。


魔力変化が少ない。


共同室は乾燥している。


これで十分に見えた。


フィオが、遮光布の内側へ濡れた羽根を一枚吊るす。


白砂の落下が遅くなった。


共同室の湿気は、住人によって変わる。


フィオが羽根を乾かす日。


バルクが炉壁粘土の布を持ち込む日。


尽の濡れた制服を干す日。


同じではない。


密閉した砂時計にする。


氷晶雲母の筒。


上下の栓。


中央の細穴。


封止輪。


空気が逃げなければ、砂が落ちると上室と下室の圧が変わり、途中で止まる。


上下を結ぶ細い空気管を追加する。


今度は、管が細過ぎて湿気が凝る。


管を太くすると、装置も大きくなる。


寝台脇へ置ける大きさを超えた。


ティムは、城で使う小型の潮砂を持ってきた。


灰色の粒。


赤にも碧にも反応しにくく、湿気も吸いにくい。


高価。


一個人の寝坊を防ぐために使う材料ではない。


尽は材料札を見て諦める。


安い白砂で、誤差を測る方を選んだ。


共同室の湿度が高い日。


低い日。


赤光が強い鐘。


碧光が太い鐘。


一回の睡眠に必要な四鐘分を、いきなり一つの砂時計で測らない。


一鐘ごとの小室を四つ並べる。


一つ落ち切るたび、次の室の留め具が外れる。


途中の誤差を、最後まで一つに積み上げない。


各室には調整螺子。


早い室は出口を狭める。


遅い室は広げる。


ティムが図を見て、首を傾げる。


四つもあれば、故障箇所も四つになる。


尽も分かっている。


そこで、各室が落ち切るたび、小さな木片を一枚外へ落とすようにした。


朝に木片が三枚しかなければ、四室目が動かなかったと分かる。


寝坊した本人が、装置のせいだと嘘をつくこともできる。


ティムは、尽が寝ている絵と、木片を自分で隠す絵を描いた。


「そこまで信用ないんか」


尽は、寝坊三回の印を指されて黙った。


最後に鳴らす鐘は、鉱石灯の低能力石を使う案も出た。


木槌だけでは、遮光布と炉音に負ける。


大きな力石は危険。


そこで、四室目の皿が下がると、細い停止片が抜ける仕組みにする。普段は止めてある低能発音紋へ、一呼吸だけ力が流れる。


音は大きくない。


その代わり、寝台の木枠へ振動を伝える金属足を付ける。


耳と身体の両方で起こす。


フィオは翼の付け根。


バルクは角。


ティムは枕の下。


尽は寝台の側板。


同じ振動でも、感じやすい場所が違う。


個人用の足位置を変えられるよう、三つの取付穴を作った。


試作品を、まず起きている状態で動かす。


一室目。


木片が落ちる。


二室目。


留め具が半分で止まる。


木片が斜めに挟まっていた。


形を丸から細長い板へ変える。


三室目。


正常。


四室目。


停止片が抜ける。


発音紋が鳴る。


振動足が寝台を揺らす。


音は、山羊が咳をしたようだった。


工房全員が振り向いた。


フィオは翼で耳を塞ぐ。


バルクは気に入ったらしく、もう一度鳴らそうとする。


グランドーガが停止片を戻した。


発音の美しさは試験項目にない。


必要なのは、四鐘後に一回鳴り、止まり、力石が熱を持たないこと。


赤光。


通常。


碧光。


白砂の各室には、最大で一刻線ほどの差が出た。四室合計では、中央鐘より少し早い。


寝坊よりはよい。


しかし早過ぎれば睡眠が減る。


尽は、四室目だけ出口をわずかに狭める。


三回測る。


中央鐘の前後、許容線内。


次は実際に眠る。


ティム、フィオ、バルクが立会札へ署名した。


尽が寝たあと、誰も装置へ触れない。


四枚の木片が落ちる。


山羊の咳。


寝台の振動。


尽は飛び起きた。


左膝を床へ突きそうになり、遮光布へ頭から絡まる。


起きた。


ただし安全ではない。


寝台から急に立たないよう、発音後に弱い灯りを三呼吸点ける。まず座れ、杖を取れ、という合図を木札で付ける。


目覚ましにも停止条件が必要だった。


二回目の睡眠。


山羊が咳をする。


尽は座る。


灯りを見る。


杖を取る。


左膝を守って立つ。


中央鐘より、砂時計の方が半刻線早かった。


誤差は記録する。


遅刻はしなかった。


一度起きられただけでは、使えるとは言えない。


六回続けて中央鐘と比べる。


一回目、半刻線早い。


二回目、ほぼ同時。


三回目、一刻線遅い。


フィオが濡れた羽根を干した日だった。密閉筒でも、木製の留め具が湿気を吸い、二室目の動きが重くなっている。


四回目は留め具を薄い金属片へ替える。


半刻線早い。


五回目、同時。


六回目、半刻線早い。


砂そのものだけでなく、砂を次へ送る機構も環境を受ける。


尽は黄札へ、木片四枚に加えて留め具の戻り確認を追記した。


さらに、中央鐘と二刻線以上ずれたら調整せず工房で点検する。寝坊した本人が毎回螺子を回せば、基準が少しずつ失われるからだ。


六回のうち遅刻は一度もない。


しかし装置の結果だけでなく、尽自身が鐘の前に目を覚ます日も二度あった。


身体が新しい作息を覚え始めている。


装置が不要になるなら、それが一番良い完成かもしれなかった。


グランドーガは装置へ白札ではなく黄札を付けた。


共同室限定。


毎回、四枚の木片を確認。


砂が湿ったら使用停止。


力石は十二回ごとに検査。


寝台から飛び起きない。


個人用目覚ましとしては、条件が多過ぎる。


尽は満足だった。


止まった腕時計の隣へ、新しい装置を置く。


一方は十七時四十二分を保存する。


もう一方は、次に起きる時刻を作る。


過去の時刻と、今の生活。


どちらかを捨てなくてもよかった。


魔力訓練も続いた。


一回の時間は延ばさない。


同じ食事量。


同じ椅子。


同じ遮蔽布。


同じ練習石。


赤光、通常、碧光を一度ずつ。


一日目。


本人反応、未検出。


二日目。


未検出。


三日目。


検流紐の赤珠が、呼吸を吐き切った瞬間に半線だけ動いた。


石は曇らない。


フィオは成功の丸を付けない。


机の振動。


赤光の揺れ。


戒指遮蔽のずれ。


別の原因がある。


同じ条件でもう一度。


動かない。


三回目。


動かない。


一回だけの反応。


原因未確認。


尽は残念だった。


それでも、なかったことにはしない。


四日目。


反応なし。


五日目。


息を吐くのではなく、肩の力を抜いた瞬間、透明石の端へ針先ほどの白点が出た。


すぐ消えた。


検流紐は動かない。


戒指は温かくない。


フィオも見た。


ティムも見た。


位置を紙へ写す。


練習石を回す。


同じ端には出ない。


別の石へ替える。


再現しない。


魔力とは書けない。


石の傷かもしれない。


光の反射かもしれない。


本人由来の何かかもしれない。


記録は〈白点一回、三名目視、再現せず〉。


尽の欄は、未検出から変わらない。


ただ、その横に三角が一つ増えた。


夜のない町で、尽は起きる時刻を作った。


魔力の方は、まだ時刻通りには来なかった。

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