第百八十一話 書記官の三日間
国境の橋の番所に、朝の列ができていた。荷馬車の車輪が敷石を鳴らす横で、王宮の監査官は通行簿の古い頁を押さえた。フィオナから届いた封書は、鞄の中にある。
カルヴォスの名はあった。箱六号が資材庫を出る二日前、王宮書記官の通行札でエルシリンへ入っている。戻ったのは、商会の運搬係が水車小屋へ箱を届けた日の夕方。門番の記録には、黒馬一頭、随員なし、と書かれていた。
「この三日、どちらにお泊まりでしたか」
監査官が尋ねると、門番は肩を上げた。
「こちらの帳面は出入りだけです。向こうで泊まった場所までは」
王都へ戻り、監査官は宮廷の用務表を調べた。カルヴォスの欄には〈港の通商資料照合〉とある。港仲介商会へ寄っても不自然ではない用務だ。北の資材庫も、水車小屋も、行程には書かれていなかった。
午後、カルヴォスは書記室から監査官の部屋へ来た。前に尽たちの引渡しを求めた時と同じ紺の外套を腕に掛けている。椅子を勧められても、すぐには座らない。
「エルシリンへ行ったことを調べているそうですね」
「はい。国境の番所の記録を見ました」
監査官は用務表を卓へ置き、その三日で立ち寄った先を尋ねた。カルヴォスは港の役所と商会の事務所を挙げ、宿は川沿いの公営宿だったと答えた。午後の動きまで聞かれると、外套の袖を一度畳み直す。
「覚えていません。通商の照会で、一日中歩き回っていました」
「林務局の北の資材庫には」
「行っていません」
監査官はそこで初めて、番人の供述を書いた紙を出した。命令番号のない持出し札、商会へ出された運搬依頼、十四番の鍵。カルヴォスは最後まで読み、紙を卓に戻した。
「銀貨を受け取った者が、自分の相手に王宮の名を使っている。便利な証言ですね」
「あなたが名乗ったと話しています」
「その男は、私の身分札を見ていないのでしょう」
監査官は頷いた。番人の言葉だけで、カルヴォスを資材庫へ行った者と決めるつもりはない。ただ、本人の否認も記録に残す。彼はまっさらな紙を差し出し、同じ日の行程を覚えている範囲で書くよう求めた。
カルヴォスは港の役所、商会、公営宿の順に記し、林務局へは行っていないと添えて署名した。ペン先が紙から離れたところで、監査官が言う。
「商会の受付係と、公営宿にも別々に聞きます。宿帳は今朝、保全を頼みました」
「当然でしょう」
カルヴォスは外套を取り、席を立った。扉の前で監査官を振り返る。
「殿下への報告は、私からしても?」
「聞き取りを受けた事実は伝えて構いません。番人の供述の写しは渡せません」
廊下へ出た靴音が遠ざかる。監査官はカルヴォスの書いた行程を畳まず、港の役所と宿へ別々の照会状を書いた。宿への紙には、宿泊者の署名に加え、黒馬を預けた時刻を尋ねる一行を入れる。封が乾くまで、机の隅へ立てかけておいた。




