↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
177/219

第百七十七話 谷へ持ち込まれた控え

温室の階段には、夜の水やりでこぼれた土が一筋残っていた。ミレイアは箒を壁へ立てかけ、フィオナの札を待つ。三枚の札が扉の根に触れると、絡んだ枝が一本ずつほどけた。尽たちはそこで靴底を拭き、保管庫へ降りた。


「先に、受け取っていないことだけ確かめます」


 ミレイアが郵便の簿冊を開いた。罠の箱が見つかる前後、港仲介商会からの受領控えは届いていない。地下の棚には郵便を直接届けられず、宛名に「温室地下保管庫」と書いても、実際には地上の管理室を通る。その管理室の簿冊にも該当する封書はなかった。


「ここを返送先に指定するのは変です」


 ミレイアの指が、商会の運搬依頼の写しを叩いた。


「学院の者なら管理室と書く。地下の名前は、箱の札や貸出帳を見れば知れますけど」


 セレーネは答えず、谷から回収した紙片の封を見た。ナディアが商会の原本の封を確かめ、フィオナは保存担当に紙片を透明な板ごと取り出させる。濡れた部分は乾いて波打ち、〈エルシリン高等魔法学院・温室地下保管庫〉の字が、板の中央にしがみつくように残っていた。


 リゼッタが封から出した商会の原本を横へ寄せる。字の形を見比べようとしたが、保存担当が板を返した時、尽は紙片の裏に短い青線があるのに気づいた。


「これ、字じゃない」


 保存担当が灯を下げた。青線は紙の端で途切れ、その少し下には、濡れて広がった小さな丸が二つある。商会の原本にも同じ間隔で青い罫線と丸が印刷されていた。丸は複写用紙を重ねて留める穴の位置だという。


「同じ帳票ですか」


 ユーノの声が小さくなる。


「同じ形式、とは言えます」


 保存担当は紙片を板から外さなかった。商会の帳票は港で何冊も使われる。湿りで紙の端が失われている以上、この紙片が問題の依頼書から切られたとまでは分からない。ただ、谷の箱にあったのは学院の荷札ではなく、商会の複写用紙らしい。


 ペペは昨日描いた図の、商会から水車小屋までの線を指で押さえた。


「依頼した人が、控えを箱に入れた?」


「箱を受け取った人に渡したかもしれない。商会の用紙を別に手に入れた人もいる」


 ナディアが答える。受付係が誰に複写を渡したかは、まだ聞いていなかった。


 ミレイアは簿冊を閉じた。紙片を見ていた時の固い顔が少し緩む。


「この宛名で学院の誰かを疑う前に、商会が何枚複写したか聞いてください。地下の扉を開けられる人間の名を、片端から調べることになりかねません」


 フィオナは頷き、商会へ照会を出すと約束した。そこへ保管室の呼鈴が鳴った。地上からの伝声管を取ったミレイアが、眉を寄せる。


「森守の使いが来ています。水車小屋の石垣で、もう一本見つかったそうです」


「糸か?」


 尽が尋ねると、ミレイアは首を横に振った。


「梁を支えてから、下の石垣を調べ直したそうです。受領印のついた薄い木札が出ました。雨で字は読めないそうです」


 ナディアはすぐには階段を上がらなかった。谷の紙片を元の封へ戻し、立会人の名を帳面に書く。それからフィオナへ短く言った。


「商会の控えと、石垣の札を別々に保全しよう。あの運搬係は、受領印をもらっていないと言っている」


 尽は石垣の図を思い出した。森守が最初に調べたのは、水車の軸と表の割れ目だった。梁の下は崩れるおそれがあって、まだ見ていない。その札が箱六号のものかどうかも、今は分からない。半日分の賃金を引かれた運搬係の顔が浮かんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。