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第百五十八話 蔓の名札

昼休み、ペペは食堂の扉で例の低学年二人に捕まった。


「席、取っておいたよ!」


 窓際の長机に、木の実が二粒置いてある。二人は朝の約束を覚えていたらしい。ペペは先に来ていた上級生に頭を下げ、木の実をそっと端へ寄せた。


「二粒で六人分は難しかったか」


「僕たちの分も入ってるから、八人だよ」


「もっと難しい」


 結局、空いたのは厨房寄りの丸卓だった。ペペは二人にも座るよう手招きし、皆で焼き茸の皿を分けた。朝は食堂のほうを向いていた案内葉が、今は窓の外を指している。パンの籠が空になったせいだろう、とナナが言う。葉が本当に匂いを追っているのか、尽にはまだ分からない。


「午後、その蔓はどうするの」


 小さいほうの学生がペペの袖を見た。朝、引っかかっていた緑の先はもうない。ミレイアが水を含ませた布に包んで、実習室へ持ち帰っている。


「植える。僕の担当になった」


「名前つけていい?」


「まず根を出してからだよ」


 リゼッタはそう言ったが、二人はもう考え始めていた。


 午後の実習は、校舎の裏の小さな温室で行われた。ミレイアが布を開くと、蔓の折れた端はまだ青い。節が一つ残っているので挿し木にできるという。ペペが嬉しそうに手を伸ばすと、教師は彼に細い竹の棒を渡した。


「先に支柱。植えてから挿すと、節を傷めるわ」


 ペペは掌ほどの鉢の縁へ棒を立てた。傾く。直そうとして土を押し込み、今度は棒が反対側へ倒れる。


「鉢の底、平らなところに置きなさいよ」


 リゼッタに言われて見ると、作業台には昨日の土が盛り上がっていた。ペペは鉢をどけ、布で台を拭く。棒は何事もなかったように立った。


「土のせいにするところだった」


「実際、土のせいではあるわね」


 ユーノは隣で同じ種類の蔓を挿していた。葉を二枚だけ残し、余った葉は教師の指示どおり切る。ペペは自分の短い蔓を見比べた。


「僕のは葉が一枚しかない」


「その一枚を大事にすればいいの」


 ミレイアは鉢を覗き、節を埋める深さを指で示した。蔓は水を吸う力がまだ弱い。土を湿らせたら、今日はそれ以上注がない。ペペは水差しを持ったまま、念を押した。


「夕方も?」


「鉢の土を見て決めて」


「夜は?」


「あなたが寝ている間に水を欲しがっても、蔓は起こしに来ないわ」


 温室の奥でミオが吹き出した。彼女の鉢には小さな札が三枚も立っている。日付、当番の名前、水をやった時刻。ナナはそのうち一枚を覗き、最後の札に「水やり予定」と書いてあるのを見つけた。


「予定まで立てたら、葉っぱの場所がなくなるよ」


「忘れないためよ。昨日の分は覚えてるけど、明日は分からないもの」


 ミオは頬をふくらませ、札を一枚抜いて棚の端へ置いた。そこでリュオがやって来た。午前中に約束したらしく、低学年の二人も後ろからついてくる。一人は「みどり」、もう一人は「袖の王さま」と書いた紙を差し出した。


「王さまはやめよう」


 ペペの返事が早すぎて、尽は顔を上げた。小さい学生は理由を尋ねず、紙を裏返して何かを書き直す。出てきたのは「そで」だった。


「それならいい」


「いいんだ」


 セレーネが笑う。彼女はペペの鉢に水が溜まっていないか確かめ、棚のいちばん明るい端から少し内側へ移した。強い陽が直接当たる場所より、ここがいいとミレイアも頷く。


 尽は「そで」の札を竹の棒に結ぶ係になった。細い紐を二度回して結ぶと、紙が鉢の外へ向いてしまう。向きを直す指先に、短い蔓が触れた。まだ何かに巻きつく長さはない。ただ、葉の裏が思ったより柔らかかった。


「これで見える?」


「ちょっと曲がってるけど、見える」


 ペペは札の角度を直さなかった。代わりに、朝から袖に残っていた土を払う。払ったあと、まだ小さな茶色の染みが一つあって、尽が指さすと彼は袖口を裏返した。


「こっちは見ないで。名札はあっち」


 実習の終わりに全員が鉢を棚へ並べた。ミオの札は二枚、ユーノの札は一枚。ペペの鉢には曲がった「そで」がぶら下がり、例の二人は帰る前にもう一度それを読んでいった。ペペは水差しを元の場所へ返したあとも棚から離れず、土の表面を覗く。


「今日の分は、もうやったよ」


 尽が言うと、ペペは空いた両手を見せた。


「分かってる。見てるだけ」


 温室の戸を閉める時、棚の奥からミレイアが「そっと閉めて」と呼んだ。ペペが振り向き、その拍子に袖口を戸の取っ手へ引っかける。今度は蔓ではなかった。リゼッタが笑いながら布を外し、皆は土の匂いをまとったまま寮へ戻った。


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