第百五十五話 四拍目は誰が鳴らした
ペペが小太鼓を一つ叩くと、音楽室の窓辺で昼寝をしていた鳥が飛び起きた。
「まだ始めてないよ」
セレーネが笑う。
「音を確かめただけ」
「確かめるなら、少し小さく」
音律実習の教師は、部屋の前に置いた楽器を指した。木の音板、細い風笛、小太鼓、手のひらほどの鈴。今日は五人一組で短い曲を合わせる。楽譜は四行しかないが、途中に一拍だけ全員が休む場所があった。
尽が風笛、リゼッタが木の音板、ユーノが低い音を出す板、セレーネが鈴。ペペは迷わず小太鼓を選んだ。
「音の大きさで選んだ?」
尽が聞く。
「太鼓なら、音程を外さない」
もっともな理由に思えた。ところが最初の練習で、ペペは二拍目から急に速くなる。ユーノの低い音が終わる前に太鼓が鳴り、リゼッタの音板が追いかける。尽は風笛へ息を入れたまま、入る場所を失った。
「もう一度」
リゼッタが譜面を机に置く。彼女は拍の下へ細い線を引き、ペペの叩く位置を丸で囲んだ。
「一拍目と三拍目。四拍目は休み」
「分かった」
次は四拍目まで静かだった。全員がほっとしたところで、鈴が一つ鳴る。
「セレーネ?」
「まだ持ち上げてもいないよ」
鈴は彼女の掌の中にある。音のした方を見れば、開いた窓の外に小さな風鈴が下がっていた。渡り廊下の飾りが、風に押されて揺れている。
「今のは数えないで」
教師が窓を少し閉めた。鳥はもう戻っていない。
三度目には、セレーネの鈴だけが遅れた。彼女は窓の風鈴の音を待ってしまったと言う。リゼッタは譜面の横に大きく「外は聞かない」と書いた。
「それ、私への注意?」
「全員への注意よ。私も聞いてしまうから」
ユーノは音板を軽く叩き、一拍目の長さを示した。窓を閉めても、音楽室の丸い天井には音が少し残る。ペペは残響に合わせて次を叩いていたらしい。
「僕のせいじゃない」
「速く叩いたのは君だよ」
尽が言うと、ペペは太鼓の皮に掌を載せた。次の練習では、音が残る間はその手で皮を押さえる。拍を急がせていた響きが短くなり、リゼッタの音板がよく聞こえた。
「いいかもしれない」
彼女は譜面から目を上げた。
ほかの班はもう曲を通していた。ミオの班では、彼女が木笛を吹き、ナナが水を張った器の縁を鳴らしている。きれいな音が続いた後、ナナの手から水滴が一つ落ち、器の中で余計な音を立てた。本人が驚いて演奏を止め、教室の奥から笑い声が上がる。
「そっちにも四拍目がいる」
ペペが小声で言った。ナナが聞きつけ、器を抱えたまま頬を膨らませる。
尽たちの班は、最後の一行だけ何度も合わせた。ユーノが最初の音を出し、リゼッタが二つの音を続ける。尽の風笛は短く息を切るところが難しい。長く吹くと、セレーネの鈴にかぶってしまう。
「私が鳴らす前に、目で合図して」
セレーネが尽へ言う。
「吹き終わったら?」
「うん。音が残ってても、見えれば入れる」
尽は頷いた。もう一度、低い音から始める。風笛を離した瞬間にセレーネを見ると、彼女が鈴を鳴らした。休みの一拍を挟んでも、五人の拍は揃っていた。
発表の番が来た。前の班が椅子を引く音まで、尽には妙にはっきり聞こえた。ペペは小太鼓へ掌を載せ、リゼッタが譜面の端を押さえる。ユーノの一音目は、練習の時より少し低い。
四拍目。誰も鳴らさない。
窓の風鈴も静かだった。尽は次の小節へ息を入れ、最後の音でセレーネを見る。鈴が一つ鳴り、曲が終わった。
「できた」
ペペが小太鼓から手を離す。その時になって、窓の外の風鈴が遅れて鳴った。教室の学生たちは笑い、教師も窓を見上げる。
「きれいな終止でした。外の鈴は、返事ということで」
片づけの後、リゼッタは譜面の「外は聞かない」に線を引いた。
「最後は聞こえてもよかったわね」
「僕の太鼓には厳しかったのに」
「あなたの太鼓は教室の中にあるもの」
ペペは反論しようとして、やめた。音楽室を出る時、尽は窓の風鈴がまだ揺れているのを見た。今度は鳥が戻り、風鈴の紐の上で首を傾げていた。




