第百五十四話 王女殿下は皿を十枚洗う
「十枚で交代ね」
サラナが洗い場の札を指した。翌日の夕食後の当番は、セレーネと尽、ペペ、それにミオだ。学生たちが返す皿を十枚ずつ洗い、拭いたものを棚へ戻す。急げば消灯までに終わる。
ペペは流しの前に立ち、返却口から来た皿を重ね始めた。
「一、二、三。大きい皿は二枚分?」
「一枚は一枚」
セレーネが布巾を絞る。昼に結び直した髪留めは、作業の邪魔にならないよう後ろへ移していた。
「それなら、僕は小さいのばかり選ぶ」
「返ってきた順に洗って」
尽が言うと、ペペは目の前の大皿を持ち直した。焼き梨の蜜が少し残っている。夜間観察の翌朝は眠そうだった顔も、今はすっかり元気だ。
流しは二つあった。尽が洗い、ミオがすすぐ。セレーネとペペはもう一方を使う。四人が動き始めたところへ、小柄な一年生が盆を抱えて入ってきた。
「すみません、これもお願いします」
彼女はセレーネの前へ盆を置いた。皿が三枚、匙が二本。セレーネは受け取り、残った梨の芯だけ別の桶へ移す。
「こっちの桶でいい?」
「はい。あと、向こうの卓にも六枚あります」
一年生が振り向いて示した。セレーネは「持ってくるね」と答え、布巾を置く。ペペがその背を見送った。
「僕が取ってくるよ」
「あなたはこの皿を洗ってて」
「大皿ばかり残された」
不満を言いながらも、ペペは手を止めなかった。
セレーネが卓から皿を運んで戻ると、食堂の入口でリュオが待っていた。明日の小劇場で使う衣装の縫い目を見せに来たらしい。
「セレーネ殿下、あの雲の肩、直ったよ。あとで見てくれる?」
「うん。当番が終わったら行く」
一年生が盆を抱えたまま固まった。
「殿下?」
「寮ではセレーネでいいよ」
「いま、皿を取ってきてって」
「私が取るって言ったんだよ」
セレーネは皿を流しへ置き、一年生の手から空の盆を受け取った。相手が急に頭を下げようとしたので、盆の上に残った匙が滑る。セレーネが片手で押さえた。
「洗い場でお辞儀すると、匙が落ちる」
ミオが羽を揺らして笑った。一年生は顔を赤くし、何か言おうとする。セレーネはその前に、流しの横の名札を示した。今夜の当番四人の名前が並んでいる。
「私の分は十枚。今、七枚目」
「あと三枚なら、私も手伝います」
「当番じゃない人は、食べ終わったら休んでいいんだよ」
「でも」
尽は洗い終えた皿をミオへ渡し、一年生に空の籠を頼んだ。棚の下に重ねてある籠を、返却口へ出すだけだ。
「それなら助かる」
一年生はほっとした顔で籠を運んだ。戻ってくる頃、セレーネの十枚目が終わる。彼女は布巾を尽へ渡した。
「次、拭く方を手伝おうか」
「もう終わる。ペペの方を見てあげて」
尽が目を向けると、ペペの前には大皿がまだ四枚あった。彼は途中で小皿を先に選び、数だけ十枚にしていたらしい。サラナは棚の前で腕を組んでいる。
「皿の大きさは数に関係ありません。でも、残ったものも当番の仕事です」
「小さいのから片づけた方が流しが広くなると思ったんだ」
「では、広くなった流しで続けて」
ペペはセレーネへ助けを求める顔をした。彼女は布巾を取り、すすいだ大皿を拭く方へ回る。
「洗うのは君。私は受け取る」
「殿下の命令?」
「当番を終えた人からのお願い」
ペペは大皿を一枚、水へ沈めた。蜜はぬるま湯で簡単に落ちる。二枚目には、焼き梨をのせた時の焦げ目が残っていた。尽が洗い方を教えようとすると、ペペは自分で布を取り、ゆっくり擦った。
四枚目が棚へ収まる頃には、一年生も籠を片づけ終えていた。セレーネは流しの水を止め、リュオが廊下でまだ待っているのを見つける。
「衣装を見に行こう。ペペ、肩を縫ったのは君でしょう」
「縫ったよ。今度は綿が落ちない」
ペペは手を拭きながら答えた。一年生がその隣へ並び、セレーネに小さく「お疲れさま」と言う。セレーネも同じ言葉を返した。リュオの抱えた雲の衣装からは、白い綿が一つもこぼれていなかった。




