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第百五十三話 八瓶の行先と、眠い朝

夜間観察の翌朝、ペペは朝食のパンを持ったまま眠っていた。


「落とすよ」


 尽が声をかけると、ペペは目を開け、パンを自分の皿の上へ戻した。


「ちゃんと食べてる」


「いま初めて噛んだ」


 向かいのユーノも眠そうだった。観察紙を清書するため、昨夜は消灯前まで机に向かっていたらしい。リゼッタだけは普段と同じ速さで食べているが、茶の入った杯を一度、空の皿へ置こうとした。


「みんな寝不足だね」


 セレーネが言う。


「あなたも、髪の留め具が左右逆よ」


 リゼッタに指摘され、セレーネは手で確かめた。いつも左へ流す髪が、今朝は右側でまとまっている。


「これは自分でやった」


「誰も疑っていないわ」


 朝の教室では、ミレイアが昨夜の紙を学生へ返した。蛾を三度見たペペの丸は、最後には二つになっている。ミオが直した羽の絵には小さな花丸がついていた。


「二匹しかいなかった?」


「観察できたのが二匹です。ほかにいたかどうかは、昨夜の記録にはありません」


 ミレイアが答えると、ペペは「じゃあ三匹目もいたかも」と言った。ミオが横から「まず見つけて」と返し、周りが笑う。


 休み時間になっても、尽は自分の紙を畳まずにいた。灯籠へ止まった蛾の姿を描いたつもりが、羽の形はずいぶん丸い。隣でセレーネが見て、蕾の方へ飛び立った矢印を一本足した。


 そこへフィオナが来た。ナディアから北門の搬出簿の写しが届いたという。四人は昼休みに記録室へ寄ることにし、尽は観察紙を鞄へ入れた。


 写しには、二年前の八瓶が北門の一時倉庫から出た翌日の日付があった。行先は精霊国の北側、保護林の資材庫。林務局の担当者が八瓶を受け取った記録がある。


「ここまでなら、八瓶は揃ってる」


 ペペが以前の紙を広げた。十二から九、九から八へ。数字の枝に、資材庫の名を付け足す。


「返された一瓶は?」


「この搬出簿にはありません。門で商会の車へ返した記録の後、追える書類はまだ届いていないそうです」


 フィオナは短く答えた。


 尽は資材庫の位置を地図で見た。罠のあった谷からは離れているが、同じ北の森にある。箱が二年前にそこで使われたなら、森の中を移動した可能性はある。だが、箱に入っていた物まで今の写しでは分からない。


「その資材庫、いまもある?」


「あります。警備隊が林務局と一緒に台帳を調べています」


 セレーネが答えた。ナディアからの伝言には、封鎖した林道へ学生を入れないことも添えられている。尽は地図の赤い線を見て、そこで指を止めた。


「資材庫の八瓶と、商会へ戻った一瓶は別に追うんだね」


「そう」


 ユーノが頷く。ソラヴェインの風見塔に残った三瓶とも、ここでの経路は違う。今朝の眠気で数字を混ぜたくなかったのか、彼はペペの紙の余白に日付を二つ書き足した。


 昼食の列では、昨夜の観察を終えた学生が皆どこか静かだった。前に並んだリュオは、盆を持ったまま一度、壁の献立を読み損ねる。セレーネが指差して教えた時、彼は「もう見た」と言ってから、同じ行をまた読んだ。


 ペペだけは急に元気になり、自分の観察紙についた花丸を見せて回った。ナナはそれを受け取ると、羽の絵より先に食堂の焼き梨を探す。


「昨日の、まだある?」


「今日はないよ。果樹園の梨は、明日また出るって」


 ペペが答えた。彼が来週取りに行くと言った大きな実は、まだ木に残っているはずだ。尽は盆を受け取り、窓際の空いた席へ向かった。セレーネの髪留めは、朝とは反対の側に直っていた。

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