第百二十一話 葉のしおりには、名前より癖が残った
小競技会の翌日、学院では葉のしおりを作る授業があった。
使う葉は、温室で育てたものから一枚ずつ選ぶ。乾燥させて薄紙にはさみ、名前や模様を書き、最後に保護の術をかける。出来上がったしおりは、学院の交換箱へ入れるか、自分で持ち帰る。
「交換箱へ入れると、誰の手に渡るか分からないの?」
ペペが教師のミレイアに聞いた。
「分かりません」
「じゃあ、誰かが工具箱に使うかもしれない」
「本に使うものです」
ユーノが説明札を読んだ。
「本以外へ挟んではいけないとは書いていません」
ペペは少し嬉しそうだった。
実習室には、昨日の小競技会で同じ班だったリュオとエルナも来ていた。ミオは窓辺に座り、葉を選ぶ前から鳥の羽根を机へ並べている。
「羽根のしおりも作っていい?」
「今日は葉です」
ミレイアは羽根を箱へ戻した。
「明日の授業なら使えますか」
「明日の授業を聞いてからです」
リゼッタは薄くて形の整った葉を選び、端へ金色の細線を描いた。ユーノは葉脈を残すように透明な術をかける。ペペは工具箱の葉を思い出したのか、箱から出てきた三枚のうち一枚を持ってきていた。
「これ、寮の木がくれた」
「返却期限を過ぎた工具箱に入っていた葉ね」
リゼッタが言う。
「それも葉だよ」
ミレイアは葉の裏表を確かめ、傷んだ端だけを切り落とした。
「使えます。拾った場所を記録しておきなさい」
ペペはしおりの裏へ、寮の木の枝先と書いた。
ナナは風苔の葉を一枚だけ使いたがった。ミレイアが許可するまで待ち、落ちていた葉を一枚受け取る。
「魚の形にする」
「葉の形は、そのまま残した方がいい」
セレーネが言った。
「じゃあ、魚の目だけ描く」
ナナは小さな青い点を二つ、葉の先へ置いた。
尽は葉を選べずにいた。どれも同じ緑に見える。窓辺に置いた風苔の鉢へ目をやると、昨日の風で傾いた葉が一枚、縁だけ淡く白くなっていた。
「その葉にするの?」
セレーネが聞く。
「落ちてはいないけど、もうすぐ落ちそうだ」
「先生に聞いてみましょう」
ミレイアは葉を見て、鉢の土を確かめた。
「今日は取らずに、明日の朝まで待ちます。自然に落ちたら使っていい」
「しおりの授業は明日もあるんですか」
ペペが聞く。
「続きは放課後にできます」
尽は頷いた。葉を急いで取る理由はなかった。
乾燥棚へ葉を並べた後、学生たちは模様を描く紙片を作った。ミオは羽根を使えないので、葉の端へ細い風の線を入れた。リュオは靴の形を描き、エルナは文字だけを書いた。
「絵は苦手です」
彼女は言う。
「文字も模様になります」
ユーノが答える。
エルナは少し考えて、資料保全会の部室にある本の棚番号を書き込んだ。
「これを見た人が、部室へ来るかもしれません」
「案内札みたい」
リュオが言う。
「迷ったら聞きに来てください」
エルナは紙を押さえ、線が滲まないように乾かした。
放課後、出来上がったしおりを交換箱へ入れる時間になった。箱には学院の紋が彫られ、投入口が葉の形をしている。学生たちは順番に、自分のしおりを滑らせた。
リゼッタは金の細線を引いたしおりを入れ、代わりに、青い葉脈のしおりを一つ受け取った。
「誰のか分からないわね」
「裏に名前は書かない決まりです」
セレーネが答える。
「模様で分かるかもしれない」
ナナは自分の魚の目を探したが、箱から出てきたしおりはどれも違った。
ペペが交換箱へ手を入れる。
「工具箱に使える葉は」
「本へ使いなさい」
ユーノに止められた。
最後に尽が一枚を引いた。薄い茶色の葉の上に、細い文字で「ゆっくり歩く」と書かれている。名前はない。けれど筆圧に癖があり、最後の払いが少し上へ跳ねていた。
「誰が書いたんだろう」
尽が言う。
リュオは自分のしおりを裏返し、同じ筆跡を探した。
「それ、僕のです」
「どうして分かったの」
「最後の字が跳ねる。靴紐を結ぶ時も、最後だけ上へ引っ張る癖があるって、姉に言われました」
「しおりで分かるんだ」
「名前を書かなくても、癖は残るみたいです」
リュオは少し照れ、尽のしおりを見た。
「それ、返してほしい?」
「交換したものだから、持っていていいよ」
尽はしおりを観察日誌へ挟んだ。文字は、今日の風向や授業の記録とは違う形で紙に残る。
セレーネは交換箱の蓋を閉じ、木の葉の印を確かめた。
「次は、羽根を使う授業があるといいですね」
ミオは満足そうに頷いた。
「その時は、しおりじゃなくて風車にしよう」
「本に挟めないよ」
ペペが言う。
「窓辺に置ける」
ミオは答えた。
翌朝、風苔の葉が鉢の縁から離れていた。尽はミレイアへ確かめてから、その葉を一枚だけ乾燥棚へ運んだ。




