第百二十話 学院の小競技会は、走る前に札を読んだ
週の終わり、学院では学年を越えた小競技会が開かれた。
競技は三つ。樹上橋を渡って鈴を取ること、風車の羽根を回して水を運ぶこと、最後に班全員で正門の鐘を鳴らすこと。
「運動会みたい」
ペペが言った。
「学院祭の前に、班の連携を見る行事です」
ユーノは配られた説明札を読んでいる。
「つまり、運動会ね」
リゼッタは腕を伸ばした。
参加班は学年の違う学生で組まれていた。尽たちの班には、森道案内部のリュオ、資料保全会のエルナ、そして二年生の鳥人族ミオが加わる。セレーネは進行係を頼まれ、記録札を首から下げた。
「姫君なのに競技へ出ないんですか」
ペペが聞く。
「進行係も走ります」
「どこを」
「困った班のところへ」
彼女は笛を見せた。
「それは大変そう」
「そうです」
一つ目の競技は樹上橋だった。橋は太い枝の間へ吊られ、渡る途中に三つの鈴がある。走って渡れば早いが、揺らすと鈴が鳴り、減点になる。
「鈴を鳴らさずに進む」
ミオが言った。
「飛んで取れば」
「橋を渡る競技です」
ユーノが説明札を指す。
「飛ぶのは禁止」
リュオが靴紐を二重に結んだ。
「今回は落とさない」
「靴は落とさなくていい」
エルナが言う。
順番が来ると、リュオが先頭で渡り始めた。橋は揺れたが、彼は歩幅を小さくし、鈴の位置で一度止まる。尽は後ろから風を押さえ、橋の揺れを減らした。エルナは鈴の紐を目で追い、どこを踏むと鳴るかを知らせる。
「右足を少し外へ」
「こっち?」
「あと半歩」
リュオは慎重に進み、最後の鈴を鳴らさず渡り切った。班の記録係が札へ丸をつける。
「いい調子」
ミオが言った。
「まだ二つ残ってる」
リゼッタはすでに次の競技場へ向かっていた。
二つ目は風車の羽根を使い、水路の水を小さな桶へ運ぶ競技だった。羽根へ風を当てる役、桶を支える役、水がこぼれないよう調整する役に分かれる。
「強く吹けば早い」
ペペが言う。
「桶が揺れてこぼれる」
尽は風向記録器を置き、針の向きを見た。
「風は右から。風車の上じゃなく、下の羽根へ当てよう」
ミオが上から位置を確かめ、尽は地面から風を送る。ペペは水車の軸がぶれないよう留め具を締め、リゼッタは桶の縁へ薄い火を当てて水滴を飛ばした。
「火を使っていい競技でしたか」
ユーノが聞く。
「水を飛ばすのに?」
「桶を温めただけよ」
「水が減っています」
「蒸発するほど熱くしてないわ」
セレーネは進行札を見た。
「水量も採点に入ります」
リゼッタは火を消した。
桶は規定の線まで満ちた。運ぶ途中で一滴だけこぼれたが、班は制限時間内にゴールへ着く。隣の班では、水を勢いよく送った結果、桶が風車の下で一回転していた。
「あれも競技?」
ペペが聞く。
「事故として記録しています」
セレーネが答えた。
最後の競技は、班全員で正門の鐘を鳴らすことだった。鐘の紐は高い位置にあり、力を合わせて引かないと音が出ない。背の高いエルナが先に掴み、ペペとリュオが下から支える。
「せーの」
紐は少し動いただけだった。
「もう一度」
今度は尽が風で紐を押し、ミオが翼で反対側を引く。セレーネは地面に足を踏ん張り、リゼッタが火で紐の絡まりをほどいた。
鐘が鳴った。
音は森の上へ広がり、枝にいた鳥たちが一斉に飛び立つ。ナナが両手を叩いた。
「勝った?」
「まだ採点中です」
ユーノは札を見た。
結果は三位だった。鈴を鳴らさなかった点が大きく、水運びではこぼした一滴が響いた。リゼッタは採点表を確かめ、納得したように頷く。
「基準は公平ね」
「水を蒸発させようとした人が言うんですか」
「蒸発させてないわ」
表彰の後、全員に小さな焼き菓子が配られた。ペペは自分の分を半分に割り、リュオへ渡す。
「靴のお礼」
「靴は君が拾ってくれたわけじゃない」
「でも、一緒に探した」
リュオは受け取り、少し照れたように笑った。
セレーネは記録札を提出するため、学院長室へ向かう。尽たちはその後ろを歩いた。競技会の間、風向記録器の針はほとんど動かなかった。温室の方から吹いた北東風もない。
「今日は静かだったね」
ペペが言う。
「何も起きない日も記録する」
尽は観察紙を閉じた。
リュオは焼き菓子の残りを大切に包み、今度は落とさないよう鞄の内ポケットへしまった。




