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第十二話 同じ緑でも、同じ毒とは限らない

二回目の試用は、歯車作りではなかった。


グランドーガが机へ置いたのは、木の箱、透明な薄板、二本の長い挟み具、革手袋、銅線、灰だった。


最後に、蓋付き壺を三つ。


爆坑の粉。


市場の床から採った粉。


故障した軸受けの油。


どれにも緑色が混じっている。


メルダが先に条件を示す。


開けない。


触らない。


水を入れない。


顔を近づけない。


尽は頷いた。


調べろと言われても、本人が粉へ触れる許可ではない。


グランドーガは木箱を指し、次に壺を指した。


粉を外へ出さず、壺から少量だけ分けて観察できる道具。


それを作れ、という課題らしい。


尽は病院や学校の理科室で見た装置を思い出した。


密閉箱。


手袋を壁へ固定し、外から中の物を扱う。


透明窓。


空気を外へ漏らさない仕組み。


形だけなら描ける。


問題は、この世界の材料で本当に密閉できるかだ。


透明板はガラスではなかった。


薄く割った氷晶雲母。曲がらず、熱には強いが、縁が欠けやすい。


革手袋は油を通しにくい。しかし細かな粉が縫い目へ残る。


木箱は加工しやすいが、板の隙間がある。


銅線は何に使うのか分からない。


尽は最初の案を描いた。


正面に透明板。


左右へ二つの手袋穴。


蓋に小さな受入口。


底に交換できる紙。


ティムが絵を見て、革手袋を穴へ差し込む。縁を樹脂で固めようとした。


ガルドが止める。


緑粉の一部は樹脂を脆くするらしい。市場の採取壺でも、蓋の縁だけ白く曇っていた。


別の封止材が必要になる。


グランドーガは、柔らかな銀灰色の輪を出した。


押すと形が変わり、離しても戻らない。


金属のパッキン。


高価そうだった。


尽は輪を二つ使おうとする。


老人が賃金札の材料欄を叩く。


試験用に使えるのは一つ。


限られた材料で、どこを密閉するか。


手袋穴を二つ作れば、継ぎ目も二つ増える。


尽は絵を消した。


この装置で、大きな実験をする必要はない。


少量を皿へ移し、光、磁石、乾いた灰への反応を見るだけ。


手袋を二つ入れるより、長い挟み具を一本、蛇腹状の革筒から通す方が継ぎ目は少ない。


もう一本は箱の外で予備にする。


受入口と蓋を兼ね、一番大きな銀灰輪をそこへ使う。


観察窓の縁は、溝へ雲母板を落とし、両側から木枠で挟む。封止には樹脂ではなく、油を抜いた粘土と薄い金属箔を重ねた。


完璧な密閉ではない。


だから、箱の外側にも灰を敷いた受け皿を置く。


漏れないと信じるのではなく、漏れたとき分かるようにする。


ティムが現地語で何か言った。


指輪が一瞬だけ温かくなる。


〈二重〉


尽は単語帳へ音を書き取った。


完成した箱へ、粉を入れずに試験する。


中で色粉を撒く。


挟み具を動かす。


蓋を閉める。


外の灰受けに色が出るかを見る。


最初の試験では、右奥の角へ赤い粉が一筋漏れた。


板の合わせ目が逆だった。


作り直す。


二回目は、挟み具を強く引いたとき、革筒の口から粉が出た。


操作範囲を欲張り過ぎている。


革筒を短くし、箱内の皿を中央へ寄せる。


三回目。


外の灰に色は付かない。


ガルドはそれでも合格にしなかった。


箱の外側を碧い鉱石灯で照らす。


内部の色粉が、雲母窓へ吸い寄せられた。


静電気に似た現象か、魔力偏りか。


透明板を擦ると、粉の移動が増える。


これでは窓を開けたとき、一箇所に集まった粉が飛ぶ。


尽は、最初から置かれていた銅線を見る。


用途が分かった。


雲母枠から銅線を伸ばし、工房の石床へつなぐ。間に、ガルドが使う灰色の放散石を挟む。


地球の接地とまったく同じかは分からない。


それでも、窓へ集まる粉は減った。


銅線を外すと増える。


戻すと減る。


三回ずつ確認する。


原因を〈静電気〉と決めず、観察結果だけを記録した。


箱が使えると判断したあとも、尽は粉へ触れなかった。


実際の試料操作はガルドが行い、メルダが外側の漏れを監視する。ティムは記録板。尽は距離を取り、手順の順番を示す。


最初は爆坑の粉。


乾いた白皿へ、針先ほど。


粒は緑だけではない。透明、灰、青白が混じる。磁石に似た黒石にはほとんど寄らない。


赤い鏡光を当てると、緑色がゆっくり薄くなる。


碧い灯りでは、一部が細く立ち上がる。


水は使わない。


針状結晶を作ることは、すでに別の検査で分かっているからだ。


二番目は市場の床粉。


灰色の石粉が大半。


緑粒は少ない。


黒石へ寄る金属粉が混じる。


赤光で薄くなる粒と、変わらない粒がある。


三番目は軸受け油。


緑粒。


金属摩耗粉。


炭化した油。


青い布繊維。


一番複雑だった。


見た目は全部〈緑粉〉でも、構成が違う。


爆坑粉と市場粉には、赤光で色が薄くなる粒が共通している。


だから同じ鉱物とは限らない。


同じ場所から来たとも限らない。


少なくとも、軸受け油をそのまま爆坑の試料として扱うことはできない。


尽は記録板へ三つの円を描いた。


重なる部分。


重ならない部分。


未検査の部分。


ガルドが円を見て、緑粒の印を重なりへ置く。金属粉と布繊維は外側。水反応は、実施していないため三角。


ティムは昨日作った二つの記号を使った。


〈同じに見える〉


〈同じと確認した〉


後者には、まだ印が少なかった。


作業の途中、門衛が二人の商人を連れてきた。


エドリクとヴェズラ。


手首の灰紐は外れているが、二人とも機嫌は悪い。


禁闘についての札には、同じ大きさの罰銅貨が刻まれていた。


先に押したエドリクには追加の一枚。


殴り返したヴェズラにも、免除はない。


貨物汚染の欄は空白だった。


喧嘩の処分が出ても、汚染責任の判定にはならない。


ヴェズラは尽へ書面を差し出した。


自分の商品に原因がないと証言してほしいらしい。


エドリクも別の書面を出す。


市場の床が先に汚れていたと書いてあるのかもしれない。


尽には読めない。


彼は両方を受け取らなかった。


単語帳へ、目、耳、三角を書く。


見たことはある。


聞いた内容は理解できていない。


原因は未確定。


署名できない。


エドリクは不満そうに声を上げた。


ヴェズラも角を傾ける。


グランドーガが二枚の書面を取り、尽の前で読み上げた。ティムが知っている範囲を絵に直す。


どちらの書面にも、尽が見ていないことが一つずつ混じっていた。


ヴェズラ側には〈封を開ける前から〉。


尽は封を開けていないが、商品内部を検査してもいない。


エドリク側には〈第三昇降口だけが原因〉。


緑線はそこへ続いていたが、他に発生源がないとは調べていない。


尽は両方の箇所へ、ばつではなく三角を描いた。


嘘と証明したのではない。


自分には証言できない。


二人は納得していない。


それでも書面を引っ込めた。


次に運ばれてきたのは、青縁緩衝布の購入記録だった。


工房の通訳係が読み上げ、ティムが要点を絵にする。


元の品名は、碧暮側鉱山で使った鉱石包み。


再利用業者が買い取り、洗浄。


第三昇降口の管理所が、普通の緩衝布として購入。


記録上は、洗浄済み。


ところが洗浄証明の欄に、印がない。


代わりに、別紙参照を示す細線。


別紙は、まだ見つかっていない。


故意に抜かれたのか。


最初から存在しないのか。


保管中に失われたのか。


分からない。


再利用業者の印は白い輪。


工房へ来た三本目の車軸に付いていた商会印と似ているが、線が一本違う。


同じ組織とは限らない。


ティムが危うく同じ丸で囲み、尽が止める。


似た印を、同じ相手と決めない。


市場の噂と同じ失敗になる。


グランドーガは購入記録を炉へ投げず、写しを三部作らせた。


一部は荷改め所。


一部は第三昇降口。


一部は工房。


原本は封印箱へ戻す。


証明が欠けていること自体は証拠になる。


誰が抜いたかの証拠にはならない。


調査は、そこで止まった。


すぐに悪人の名前は出ない。


緑星の刺客も、戦争商人の秘密会議も現れない。


あるのは、洗ったかどうか分からない古布と、空白の欄と、壊れた軸受けだけだった。


人を怒らせるには十分で、人を裁くには足りない。


二回目の試用が終わると、グランドーガは密閉箱へ黄札を付けた。


使用可。


ただし、完全密閉ではない。


箱外の灰受け、銅線、放散石、作業者三人、乾式試験のみ。


条件が一つでも欠ければ使わない。


尽の試用札には、三本目の横線が刻まれた。


札そのものは、まだ灰色のままだ。


一回目。


二回目。


残り一回。


グランドーガは次の修理品を見せなかった。


代わりに、工房出口で待つ人々を指した。


鍋を抱えた老女。


片輪の壊れた手押し車を引く獣人。


光らない鉱石灯を持つ人間の子供。


義手の指を布で包んだ角の青年。


次の試験は、部品でも粉でもない。


誰のために直すのか。


それを選ぶところから始まるらしい。

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