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エピローグ1――覚悟

 嵐は去った。都を直撃し丸呑みにした割には、被害は少なかったといえるかもしれない。想定されたほどの浸水や決壊はなく、避難誘導が適切に行われたおかげで死者も出なかった。マナに関しては今後も経過をみないことにはなんとも言えない状況ではあるが、少なくとも今すぐ水源が枯れるというようなことはなさそうだ。

 山上の祠から帰ってきたリトは、自室で倒れこんでしまいたくなるのをなんとか堪えた。身体は疲れ切っているが、まだやらなければならないことがある。

 毎日のように物見台へ上り下りしていたが、祠との往復はそんなものとは比べ物にならないほど体力を消耗した。しかし同時に、これだけ動いても身体はついてくることもわかったので、いい経験にはなった。リト自身、病み上がりの身がどれだけの負荷に耐えうるのか判断しかねていたところだった。

 掌には、先ほど祠で掲げた剣の感触がまだ残っている。その昔、泉守から献上されたといわれる宝剣。あの時はただ必死だった。ヒュウゴウと渡り合わねばならない。傷つけるでもなく、こちらの命を明け渡すでもなく、これからを生きる道をつくらなけれはならない。もちろんそれはこれからの話だが、この嵐で全てが呑まれていたら描くことすら難しい未来だったろう。

 その未来を現実にするために、今やらなければならないことがある。病が去り、自分の意思で動くことができるようになってから今まで、ずっと逃げてきた存在。だがもう逃げてはいられない。

――私には、責任がある。

 自分が意図せず受け継いでしまったもの。祠でのヒュウゴウへの誓い。すべてに誠実であるためには決断し、行動しなければならない。

 部屋を出て長い廊下を歩く間に、今この宮廷に泉守を代表する者たちが捕らえられていることを漏れ聞いた。しかもその中の一人はマナの宗主だという。泉守とマナに接点があったとは初耳だったが、何がまかり間違ってそのようなことになっているのか。使用人たちの噂好きがこのような形で情報をもたらすことを心に留め置き、リトは一旦行き先を変えた。

 現在実質的に執政を牛耳っている高官二人は予想通り書斎にいた。ギルドとラウルは大抵ここで二人だけで話しこんでいる。たまに別の者が出入りするのも見たことがあるが、何をしているのかまでは掴めていない。おおかた子飼いにしている間者か呪術師か。そのうちそれらも暴かなければならないだろう。

 リトが姿を見せると二人は明らかに動揺した。ここに直接顔を出すのは初めてだから当然といえば当然だ。だが彼らの動揺はそれだけが原因ということでもないだろう。何かよからぬことを画策していたから、見聞きされるのを嫌ったというところか。しかし今はそれを問うために来たわけではない。

 リトは捕らえている泉守の者たちを即刻解放するよう言った。現状彼らはリトの臣下ではないが、だからと言ってリトの言うことを無碍にできる立場でもない。それでもまだ往生際悪くゴニョゴニョと御託を並べる彼らに痺れを切らした。

「この行為に正当性がないのは明らかだよ。彼らには恩義こそあれ、罰せられる理由など何もない。君たちはこの国を恩知らずの国にするつもり?」

 ピシャリと言い放つと今度こそ黙った。踵を返してその場を去る刹那。

――いつの間に、こんなに大きくなられていたのか。

 それはおそらくラウルの言。顔を見ていない今、そこに乗せられた感情までは読めなかった。

 目的の場所を目指す足取りは自然と重くなる。意を決しても、恐怖は心の内から消えてはくれなかった。それでも対峙しなければならない。この国は変わらなければならないのだ。未来を守るためには、なんとしても。

「……リト?」

 その人、この国の現帝たるミルダはリトの姿を見るとたちまち母の顔となる。病で長く伏せていたせいもあるのだろうが、彼女はとにかくリトが心配で愛おしくて仕方がないのだ。ミルダの目には、いまだに幼子のように映っているのかもしれない。

 今にも抱き寄せに来ようとするミルダの足がピタリと止まる。リトが臣下としての礼をとったからだ。驚いた顔で見下ろすミルダの目を、リトは正面から見つめ返す。心を鎮めるように一度深く息をした。

「母上、お話があります」

次回エピローグ2で終わります。

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