55 作戦会議
「となると、あまり時間はなさそうですね」
キジのあとを引き継いだのはサガンだった。彼は饒舌ではないのか、会話にはほとんど参加してこない。ロウシュと再会したときにあれだけ喋っていたのは、よほど歓喜していたということだろう。
「そういうこと。だから急で悪いけど、このままこの場で作戦立てさせてもらうよ」
「作戦……といっても、一体何をすれば」
ホウは戸惑った顔でリュウを見る。その隣でキジは話を聞いているのかいないのか、腕組みをして目を瞑っている。そんな二人にリュウは重々しく告げた。
「中央へ行かなきゃならない。これだけは、避けては通れないことだろ?もう目を背けてる場合じゃないんだ」
ホウは目に見えて顔色を悪くした。嫌な冗談でも聞かされたかのように。だが何か言わなければならないと思ったのか、震える声で返す。
「そ、それは僕らだって、いつかはそういう時が来るとは思ってましたけど、まだ準備が整わないというか、その」
「アンタ、図体のわりに小心者なんだねぇ。準備ならもう十分だよ。そもそも、行ってみなきゃどんな具合に転がるかなんて、誰にもわかんないんだよ」
「……ですが」
さらに言い募ろうとするホウを留めたのは、隣のキジだった。おもむろに目を開くが、何を見ているのかはわからない。
「お嬢さんの言う通りじゃ。どうやら我々は、機が熟すのを待ちすぎた」
「キジまでそんなことを……」
弱りきったようなホウの声に、キジはその目を見る。
「ワシらの目的は何じゃ?泉守の末裔として、ここと同じ憂き目を見なくて済むよう、危難を防ぐことじゃろ。ここに集まってきた皆の話を統合すれば、むしろ動くのが遅すぎたと言わざるを得まい。お嬢さん方と運命を共にすると決めたからには、今動く以外の選択などありゃせんわ」
今まで常にホウに押されていたキジが、今度は正論でホウを黙らせる。二人の間にある微妙な力関係を垣間見た気がした。
話がまとまったととったリュウはここに集まっている面々を見渡した。
「まぁ中央に行くっつっても、こんな大人数で乗りこんだんじゃ、反乱か何かと思われ兼ねない。正面から謁見を申し入れるなら、せいぜい二、三人ってとこだろ。代表者ってことになるが」
今ここにいるのは子どもから老爺までの計七人。人の出入りが厳しく制限されている国の中心に全員で向かっても、門前払いを喰うだけだろう。
リュウの言葉に応えたのはキジだった。
「代表、ということであれば、我々としてはマナの宗主たるロウシュ殿にお願いしたい」
皆の目が一斉にロウシュに向けられる。当のロウシュは憮然とした表情でキジを見つめ返す。
「なぜ?」
「先にも述べた通り、我々の目的は泉の二の舞を出さぬこと。泉守の一族として、あの泉を守れなかった無念をこの代まで受け継いできた。それはもう二度と、同じことを繰り返すことのないようにという思い故。今、危難が降りかかろうとしているのはマナじゃ。その宗主のお方が代表というのも自然に思えるが」
ロウシュは難しい顔で考えこむ。すぐには応えられそうにない。
キジの言うことも一理あるとは思える。これまでの話から、今起きている異変の先に待ち受けているのは、マナの水源が枯れるという未来である可能性が高い。それを防ぐために、異変の原因を抱えていると思われる中央に赴く。それは傍目にも自然な流れに見える。しかし、マナが国に取り込まれてからも、宗主たる者が中央に赴いた試しはない。マナの民が危惧したように、下手をすればマナが国に与することを肯定したととられかねない。ロウシュが直接中央へ赴くというのはまさに諸刃の剣だった。
「そなたら、泉守の者がその役では障りがあるのか?」
逆に問われたキジは目を伏せた。
「あいにく、我々はもう誰かを代表に立てられるほどの一枚岩ではないのじゃ、マナのお方。こうして泉について調べていることを白い目で見る輩もおる。ワシやホウが泉守の総意として中央へ何かを訴えるのは難しいのじゃよ。まぁ、守るべきを失った一族の末路などそんなものじゃ」
それはひどく悲しい告白だった。もしかしたらホウがあれほど慎重だったのもそういう事情からかもしれない。ロウシュはしばし逡巡した後。
「そういうことなら、私も覚悟を決めよう。ただし、一つ条件を出させてもらう。私一人ではそなたらの研究の全てを負っていくことはできぬ。よって補佐として同行してもらう。そなたらのどちらかか、あるいは両人ともか」
この条件にはさすがのキジも戸惑った。主たる調査を行なってきたのはキジだが、それを理路整然と語るのに適しているのはホウだ。だが二人ともがロウシュの同行者となってしまえば、リュウたちの入りこむ余地がない。しかしそれは杞憂に終わった。
「んじゃ、アンタたちとロウシュで正面から中央を目指してくれたらいいよ」
「……すると、お嬢さんらはどうするのかね?中央に用向きがあるのは同じなのじゃろ?」
存外キジも話はちゃんと聞いていたようだ。リュウはニヤリと笑って言った。
「共同戦線っつったろ?アンタらが正面突破なら、アタシらは脇から攻めるまでさ」
その不敵な笑みに、キジらは呆気にとられるばかりだった。




