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50 リュウの提案

 話を聞けば聞くほど、不穏さは増していくばかりだ。ユウリらは神妙な面持ちで耳を傾けている。ロウシュはしばし考えた後、

「それらの話を統合すると、妖らが引き起こしている異変はマナの水源が枯れる予兆であり、その行きつく先は嵐だ、と」

「正にその通り」

 要約した言葉に、それまで部屋の奥で黙って作業をしていたキジが言った。今までホウを中心に作業台に目を向けていた面々は一斉にキジの方を見る。

「わしが毎日のようにあの沼に潜っているのはただの道楽ではない。その当時本当は何が起こっていたのか調べるためじゃ。それがひいてはこれから起こることへの備えになる。歴史を繰り返さんために、歴史から学ぶ必要がある」

 まるで学者のように語るキジ。持論によほど自信があるのだろう。話題の中心となったことに満足気だ。ホウは苦笑いしている。おそらくいつものことなのだろう。

 ホウとロウシュが中心だった話は均衡が崩れた。この期にユウリは気になっていたことを口にした。

「その、嵐というのはどれほどのものなんだ?」

 ユウリ自身、そこまで大きな嵐というのは経験していない。まだ幼い頃に風がひどく強い日があったくらいだ。そのときは父と祖父が畑の様子を見に行ってしまい、一人で家に籠っていた。絶対に外に出てはいけない、と珍しくきつく言いつけられ、不安な気持ちのまま二人の帰りを待っていた。窓越しにずっと聞こえていたゴウゴウという風の音は今でも耳に残っている。結果的に畑にも大きな被害は出ずに事なきを得た。

 キジはユウリに向き直り、口を開いた。

「あくまでこれまでの観測からの推定じゃが、この一帯が浸水するほどには激しかったようじゃの。今残っている古い記録は、当時の我らが祖先が水に浸からぬよう高台へ運んで守ったもののようだ。それでも水没したものに関しては、出来うる限り書き改めて子孫へ引き継いでくださった。おかげで貴重な資料を今でも見ることができている」

 ここに収められている記録簿が思いのほか綺麗なのには、そういう事情もあったようだ。素人目にはわからないが、記録には不自然な抜け漏れがあるのだという。そうしたこととキジの専門的な知識から導き出された結論が「一帯の浸水」ということだ。

「ここは泉からみれば下っておるが、街中と比べれば高台にあたる。都全体の被害は推して知るべし、じゃろう」

 キジはふぅ、とため息をついた。話すのも聞くのもあまり気持ちいい話ではない。

 ユウリは想像してみた。これだけの街が水に沈んでしまう様子。街は飾りではない。そこには多くの人々が暮らし、営み、行き交っている。その大勢の人々はどうしたのだろう。

 しばしの沈黙がおりた。次に口火を切ったのは、傍観者の姿勢を貫いていたリュウだった。

「嵐のことも気になるけど、アタシもちょっと訊きたいことがあんだけどいいかい?」

 どうぞ、と応えたのはキジではなくホウだった。キジは自分で語りたいこと以外は語らないところがあるからだろう。リュウはひとつ咳払いをした。

「アンタたちは、そん時の嵐を引き起こした原因は中央がつくったって思ってんだよな?」

「まぁ、結果的にそうなるでしょうね」

「今の異変も関係があるってことは、それも原因は中央にあるって考えてるってことか?」

 中央が絡む話になると、ホウの口元は引きつった。今は地下で話しているし滅多なことはないとわかっていても、反逆罪ととられかねない話をするのは肝が冷えるものだ。もしかしたらリュウたちこそ隠密なのではないかと疑われたのかもしれない。ホウは額に浮いた冷や汗を拭う。

「まあ、ここまで話しておいて今さらですよね。そうです。だからこそ慎重に調べ、次の一手を考えているのです」

 開き直ったような投げやりな返答だが、不審というほどのものは感じられない。あくまでホウは気のいい青年だった。

「その次の一手ってのは、中央にどう働きかけるかってことだろ?嵐がくるってのはほとんど結論って言っていいことみたいだし。アンタたちは、これからどうするつもりなんだ?」

 ホウははじめに、異変を調べているのはマナをこの泉の二の舞にしないためだと語った。それならば、具体的な行動に出なければならない。リュウの問いは、現実をつきつけるシビアなものだった。ホウはちらりとキジを見る。ただ難しい顔で腕を組んでいるだけだった。

「それは……、もちろん、いずれ中央の方に直訴しなければならないとは思っています。嵐を食い止める方法があるとすれば、彼らの行いを正すことくらいでしょうし。仮に食い止められないとすれば、街の人たちに被害が出ないようにしなければなりませんし」

「ぶっちゃけ、もうあんま時間はないんじゃないか?」

「まぁ、おそらくは」

 それは、本当はもう少し目を背けていたかった現実なのだろう。ホウはしょげたように頭を垂れる。そこでリュウはもう一度咳払いをした。

「実は、アタシも中央には用があるんだよ。ここで会ったのも何かの縁だ。アタシらと共同戦線組まない?」

 ニヤリと笑って言ったリュウに、その場にいた全員が呆けたような顔をした。

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