51 共同戦線
「共同戦線、ですか」
ホウが微妙な表情で繰り返す。するとリュウはケラケラ笑う。
「いや、本当になんかと戦うって意味じゃないぜ?そんなの、国への宣戦布告みたいなもんだからな。そうじゃなくて、要するに手を組まないかって話さ。中央ってのはなかなか手強そうだし」
リュウの快活な話し方は、この場の空気を一変させる力を持っている。その急激な変化についていけないというのもあるのだろう。ホウはまだうむ、と唸って思案したのち。
「その手強い中央に、あなたは何用で?」
「あぁ、それはちょっとこみいった話でさ。アンタ方は知らない方がいい」
問いを返すと、リュウは頭をかきながら応えた。ここで目的を応えないのはかなり怪しい。胡乱な目を返すホウに慌ててユウリが口を挟もうとするが、当のリュウに目で留められた。
「まぁ、急にそんなこと言われても困るか。でも味方は多いに越したことないと思うけど。別に今答えを出さなきゃいけないわけでもないから、ちょっと考えてみてよ」
あくまで気軽な調子で、今思いついたから言ってみただけという体をとる。ホウもあまりこだわっても仕方がないと思ったようだ。
「……なら、少し話し合ってみます。返事はそれからでも?」
「ああ。それで構わない」
一旦、この話はそこでお開きとなった。時間的には昼時にさしかかっていたので、ホウが軽食を用意すると申し出てくれた。先ほど食べた茶菓子がおいしかったのでアイリははしゃいだが、リュウは断った。
「こっちでもちょっと話したいことがあるから出てくるよ。アイリ」
リュウはホウからアイリへと視線を移す。一転してしょんぼり顔になったアイリが首を傾げる。
「アンタはおよばれになってもいいと思うよ。ロウシュはここにいたいだろうし」
それを聞くとアイリは上目遣いにロウシュを見た。彼は従者のサガンと再会したばかりだ。積もる話もあるだろう。だがその気遣いはあまり伝わらなかったのか、ロウシュは憮然として言う。
「私はどちらでも構わない。だが彼らと行動を共にするつもりなら、またここへ戻ってくることになるだろう。アイリの足であの坂を往復するのは酷と思うが」
それを聞いてアイリも激しく頷く。リュウはしたり顔で手を打つ。
「じゃあ決まりだな。てなわけで、アタシらはちょっと出てくるよ」
リュウはユウリに目で合図すると地下室から出る階段をのぼった。ユウリもそれに続く。
外へ出てしばらくは二人とも黙って歩いた。まずは坂を登って沼地まで戻らなければならない。ユウリたちにすれば何でもない登り坂ではあるが、リュウがどこへ向かっているのかも未知数なのでひとまず足を進めることに専念する。
沼地の辺りにさしかかったとき、ようやくリュウが口を開いた。
「ごめんな。勝手に話進めて」
「えっ?」
隣を見れば、気まずげに笑うリュウ。ユウリは首を傾げて次の言葉を待つ。
「ユウリの妹の消息を調べるには、どの道中央に掛け合うしかない。あの連中だって、最終目的は中央に知らせることなんだろ。だったら、手を組んじまった方が後々困らないと思ったんだ」
同じように中央を目指すのなら、少なくともお互いの動向を知っていなければ、下手をすると足の引っぱり合いになりかねない。それはサガンらが、泉守一族と息を合わせて行動していることからも見てとれる。変に中央に目をつけられてしまっては、それぞれの目的に支障をきたす。そのことはユウリも何となくわかっているのだが。
「だとしたら、こちらの目的を明かした方がいいんじゃないか?その方が信頼してもらえそうだけど」
ユウリはそこだけが引っかかっているのだった。あの状況で、こちらの目的だけ伏せているのでは協力は得られないのではないか、と。しかしリュウは。
「いや、できれば本当の目的は最後まで隠し通した方がいい。だからあえてアタシが話を振ったんだよ。ああ切り出せば、その目的ってのもアタシのもんって思わせられる」
だから先ほどユウリが口を挟もうとしたのを留めたのだった。その理由は。
「アイツらに、ユウリの妹のことは言わない方がいいと思う。異変に関わってる可能性があるなら、なおさらな」
周りには誰もいないが、リュウは声を潜めた。その目は、はじめにこの沼地を訪れたときと同じように鋭い。警戒しているのだ、とユウリはようやく理解した。




