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47 秘密の会合

 部屋には重い沈黙が降りた。ロウシュはなにか考えこんでいるようで何も返さない。ホウは責任を感じたのか苦笑した。

「すみません。お茶の席で話すようなことじゃなかったな。冷めないうちにどうぞ。お菓子気に入るといいけど」

 特にまだ怯えているアイリに対しては優しく声をかける。アイリはちらとユウリを見た。ユウリは安心させるようにうなずく。彼らに他意はなさそうなので、菓子は食べても問題ないだろう。アイリはまるで大仕事を成し遂げるかのように、差し出された焼き菓子を口にした。

「おいしい……!」

「そう?僕が焼いたんだけど、口に合ったならよかった」

 ようやく顔がほころんだアイリを見て、ホウは心底安心したようだった。

 このホウという青年は、見た目に反して繊細な心を持っているようだ。ユウリも茶をいただきながら菓子を食べたが、本当においしかった。ただ甘いだけでなく、ドライフルーツが練りこまれていることで奥深い味わいがある。このような菓子をユウリ自身で焼いたことはなく、ホウの方がよほど生活力があるように感じた。

 茶を飲み終えるころには、やっと少し落ち着くことができた。するとそれまで沈黙を貫いていたロウシュが口を開いた。

「先ほどの話、もう少し詳しく聞くことはできるか?」

 おそらくロウシュは皆が茶を終えるのを待っていたのだろう。この男にも空気を読むことはできたのか、とは後のリュウの所感である。

「それなら、この続きは地下で話しましょう。こんな辺境まで中央の関係者が来ることは稀ですが、念のため」

 そうなると、ロウシュだけを行かせて待っているというわけにもいかない。なによりロウシュはアイリの護衛を引き受けているのだし、仮に誰かが訪ねて来たらユウリたちでは応対できない。自然、連れだって下りることになる。

「この人数が入れるほど広いのかい?その地下は」

 怪訝そうに尋ねるリュウにホウは笑った。

「まぁ、ご自身で確かめてもらうのが早いでしょう。こちらからどうぞ。足元気をつけて」

 先導する形のホウについて、一行は地下に足を踏み入れた。はね上げられた床板で見えていなかったが、そこは土を削り、板で補強した階段になっていた。上からでは奥が見通せないほどに深い。

「すみませんが、最後の方は床板を閉めてもらえますか。取っ手を持って、縁の溝にはめてください」

 ホウが下から指示する。最後に入ったロウシュは言われたとおりに床板をはめる。床板自体はそこまで重くないようで、不安定な姿勢でも閉めることができた。外光が遮られてしまったので、階段はより暗くなった。その先の空間から漏れる明かりが頼りだ。

 階段を下りると、そこには上と同じか、それよりも広いくらいの空間が広がっていた。壁は土がむき出しになっているが、作りつけの棚が面のほとんどを占めている。そこには古文書のような古い本や、手で綴じられた記録簿らしきものがところ狭しと詰めこまれている。その一角で、先に地下にこもったキジが眼鏡をかけて書き付けをしている。どやどやと大人数で下りてきたというのに目も上げない。かなり集中しているようだ。

「キジはいつもあの調子なのでお気になさらず。こちらにどうぞ」

 上にあったような長椅子ではなく、丸太を切ってつくられた小さなスツールが壁際にいくつか寄せられているのを引き寄せながらホウがそこへ座るようすすめる。部屋の中心にあるのはテーブルというよりも作業台で、座ったまま使うには高さがありすぎる。今は話をするだけなのでその周りをコの字に囲む。ホウはひとつ咳払いをした。

「我々泉守の一族は、今や沼と化しているあの泉を代々見てきました。水は命の源であり、また時に災いをももたらします。だからこそ守り手が必要でした。おそらくマナの方たちもそうした使命感はもっているのでは?」

 ホウに水を向けられたロウシュはうむ、と重々しくうなずく。

「先にそなたが述べられたことにも関わるが、実を言えば私もそのことを危惧し、異変を調べさせていたのだ。私の占に嵐あり、と頻りに出るようになったのでな」

 ユウリは肌がピリつくような緊張を感じていた。もしかしたら、この一連の異変に妹が関わっているかもしれないということ。しかももしそれが真実なら、ユナはもうこの世にいないということ。ヒュウゴウから聞いたあの言葉。様々なものが頭の中をぐるぐる回る。

 一方のホウはロウシュの言葉を聞いてそうでしたか、と少し考えたあと、

「だとすればやはり関係があると考えるのが妥当なのでしょうね。今残っている泉守の末裔はこの集落にいるだけなので、調べるにも限界があるとは思いますが、キジなどは毎日のように潜っては当時の痕跡を探っています。どんな些細な情報でも積み重ねれば何かわかるかもしれない。それと……」

 そこまで一気にしゃべったホウは、気まずげに言葉を詰まらせた。何かを思い出したかのようだ。

「本当はもっと早く言うべきだったかもしれませんが、実はこちらに来ているマナの方にも少しだけ協力してもらってるんです。彼もそろそろ帰ってくる頃かも」

 悪いと思っているのか、ホウは弱々しく言うが、ロウシュは気にしていない様子だ。そしてその刹那、ガタッ、と音がしたかと思うと。

「キジさん、ホウさん、今戻りました。下ですか」

 言いながら下りてくる足音。ホウは曖昧に返事をした。そしてこちらに顔を出したのは、ロウシュよりもいささか若い青年だった。

「おや、珍しい。こちらに客人ですか……!?」

 青年は息をのんで硬直した。そこにいた人物の姿を捉えたからだった。

「ロウシュ様!!」

 今にも泣き出しそうな、かすれた声だった。

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