40 都の夕暮れ
都には様々な人々が行き交っていた。ユウリたちはマナ周辺を除いて一本の街道を通ってきたが、都へつながっている街道はこの一本だけではない。マナからの道から出たのはユウリたちが通っていた街道からつながっている道だった。他にも海岸の街を起点とする道や、二十を超える街をつなぐ長い街道などがある。そうした街から絶え間なく人々が往来する都という場所は、多様な文化を取り入れて華やかさを誇っていた。一方で。
「待ちなさい!」
背後から叫び声が聞こえたかと思うと、人の波をかき分けるようにして一人の男が駆け去っていく。その後を追っているのは、警ら隊とみられる者が二人。
あっという間の出来事で、ユウリは一瞬何が起こったかわからなかった。だがリュウは、
「ちょっと道の脇に寄って荷物を確認するぞ」
ユウリの耳元で低く言って目で進む方向を示す。ロウシュたちは後ろからついてきているので、方向転換したリュウに従った。
「まったく、都会はこれがあるからなぁ」
リュウに言われるがまま、ユウリも荷物を確認した。アイリも見よう見まねで背中の荷を下ろして中を確かめる。みな特に異常はなかった。
「さっきのは……?」
「おおかた、スリか無銭飲食だ。人混みに紛れて悪さするような奴が、こういう人が集まるとこにはいるもんなのさ。ま、警ら隊に目つけられちまったみたいだし、そのうち捕まるだろうよ」
そのことが念頭にあったため、念のため荷を確認したということだった。手癖の悪い奴だと、逃げながらもスリを働く場合があるためだ。そしてこれが、いち早く空いた道を目指した最大の理由でもあった。人混みにはどんな危険が紛れているかわからない。アイリもいるので、避けられる危険はできる限り避けたい。
そんなわけで、人でごった返していた目抜き通りから、比較的空いている脇道へと出た。日が落ちるにはまだ時間があったが、旅の疲れもあるので早めに夕食をとることにした。
まだ早い時間ということもあり、開いているのは茶店のような軽食を出す店が多い。しかしたいがいの場合割高であるのと、店の質を見極めるのが難しいことから一行は避けた。粗悪な店だと食材もあまりいいものを使っていなかったり、最悪の場合、悪人の溜まり場のようになっていることもあるからだ。リュウが選んだのは、広々としたテラスのある食堂だった。道に面する側が大きな窓になっていて、中の様子もうかがうことができる。こうしたオープンな造りだと衆目にさらされているので、よからぬことを企む人間も入りこみづらい。
「ふぅ。やっぱり人混みは疲れるなぁ。空いてる街道のありがたみを痛感するよ」
いつも無尽蔵な体力を誇っていたリュウが珍しく弱音を吐く。だがその思いにはユウリもいたく同感した。ここまでの人の群れというのは、今までに見たことがなかった。ただ人が多いというだけで、ここまで気を張らなければならないとは想像していなかった。
一行はそれぞれ料理を注文する。ユウリは白身魚のスープと麦を炊いた粥。リュウは鶏を辛く味付けして揚げたものと、香辛料の効いた平たい麺のスープ。アイリは甘めに味付けされたそぼろ煮が飯にかけられたものを頼んだ。残ったロウシュはというと。
「重湯をいただけるか」
「わかりました」
「え、それだけ?」
驚いたリュウが思わず呟く。ユウリもリュウと目を合わせる。重湯は粥をさらに煮たものだ。米の形はほとんど残っていない、普通は病人食として出されるようなもの。マナからここまでは決して短い道のりではなかった。そんなもので足りるとはとても思えない。注文表にも載っていないのに、当然のように注文を通す店員にも驚く。事前に用意していなければすぐに出せるものではない。
あまりにも奇妙な目で見られていると思ったのか、ロウシュは一つ咳払いをして説明する。
「我々のような求道の者は普段、あまりまとまった食事を摂らない。私もこれが久しぶりの食事となるのでいきなり通常の食事を摂ることはできないのだ」
「アオガは普通に食ってたぞ?」
「彼もマナにいた頃はそのような生活をしていたよ。私が急に頼ってしまったが、彼は郷里へ帰っていたからね」
彼らの生活はいまだに謎が多い。アオガは今マナの留守を預かっているはずだ。ロウシュが頼りにするのだから、ああ見えても認められるだけのことはしてきたということなのだろうか。
あまり理解はできなかったが、話はそこまでとなった。料理が運ばれてきたのだ。
ロウシュの話にも驚いたが、ユウリは少し前からアイリの様子が気になっていた。マナまではあんなに元気にしゃべっていたのに、都に近づいた辺りから口数が減った。子どもの足には辛い行程だっただろうし、疲れているというのはあるだろう。どこか心ここにあらずという感じで、時折キョロキョロと周りを見回している。今もあまり箸が進んでいない。
「口に合わないか?私のと交換する?」
「えっ?あ、ううん、おいしいよー」
心配で隣から声をかけると、ニカッと笑って食べ始めた。無理をしているのではないかとも思ったが、とりあえず今は様子を見守ることにした。




