39 都の門前にて
アイリが意外に健闘したこともあり、リュウが想定していたよりも随分早く都の門前に着いた。日は傾いてきているが、夕暮れまではまだ時間がある。余裕が生まれたことで、リュウの機嫌も直ってきた。
マナからの道は、ちょうど都の門前で街道と合流する形で終わっていた。この道を造ったものがいかにマナを重要な地と考えていたかがうかがえる。人々の暮らしに水は欠かせないのだから、まさに都の生命線である。この道からは外れたところにマナからの用水路が敷かれており、都の生活を支えている。
目の前に見えてきた門は、さすが都だけあって他の街で見たものよりも立派なものだった。今まで寄った街の門は土壁に可動式の木製の門扉が取り付けられた形だった。壁自体もそこまで高さはなく、門の外からも中の建物の上部が見えていた。しかしこの門は石壁でできており、門扉も鉄製のいかにも頑丈な造りだ。壁自体も高さがあり、その先にどんな街並みが広がっているのかをうかがい知ることはできない。
門とともにユウリたちの目に入ってきたのは、門前にできた人だかりだった。人垣の先に透けて見えるのは、官服を着た人物と書見台と思しき物。それを挟んで何やらやりとりがされている。少し様子をうかがっていると、それはどうやら入門のための申請のようだ。他の街ではそのようなことは必要なかったが、人口も多く、人の出入りも多い都では、お互いの安全を守るためにもある程度管理する必要があるのだろう。なんとなく列になっているので、一行もその後方で待つ。
いよいよ順番が来ると、身分を証明する物の提示を求められた。どうもこれを一人ひとり確認しているために人だかりとなっていたということらしい。リュウは行商の営業証というのを携帯しているので問題はなかった。ユウリはリュウに言われて、以前ジオウがくれた札を出した。ジオウが添え書きしてくれていたので、身分証の代わりになった。
さて、問題はアイリとロウシュだ。もちろんアイリはまだ子どもなので、身分証など持っていない。
「未成年の方は保護者の方が身元引受人になってもらえれば大丈夫ですよ」
門で申請を受け付けている役人が事務的に教える。アイリの保護者はシュリだ。もちろんここへは来ていない。ここまで来たというのに、まさかここで足止めになってしまうのだろうか。アイリが青ざめた顔を見せていると。
「ならば、私が引き受けよう」
さらっとロウシュが言う。だがそもそもロウシュも身分を証明するものなど持っていない。役人も冷めた目で見ている。なんだかややこしいことになってきた気がする。ヒヤヒヤして見ていると、ロウシュは懐から携帯用にコンパクトにつくられた筆入れを取り出し、申請のために置かれた書見台を使って何やら書きつけ始めた。手のひらほどの大きさの紙片にさらさらと書き終えるとそれを役人に見せる。
「私はマナから来たロウシュという。都に仕える官吏の方ならばマナ文字を読むのも容易だろう」
後ろから覗いてみると、そこには見たことのない文字らしきものが書かれていた。ユウリが見せた札に書かれた文字とも違う。それは文字というよりも何かの図柄に見えるようなもので、この短時間で書き上げたのが信じられないほど紙いっぱいに書かれていた。
役人は目を細めてその紙片を見据えた。ロウシュが先に言った言葉は役人に相当プレッシャーを与えたようで、
「も、もちろん読めますよ」
焦りを隠そうと必死になっている。それは傍目にも気の毒になるほどだ。
「アイツって本当策士だよな。ここまできたらもう半分悪人だよ」
彼らに聞こえないようにヒソヒソとリュウが言う。本人に悪意はなさそうだが、確かに出会ってから今までロウシュが主張を通さなかったことはない。その場その場を自分に優位になるように操作する能力に長けているのは間違いなさそうだ。
結局、役人の側が折れて入門の許可がおりた。一行はいよいよ都へと足を踏み入れた。
まず目に飛びこんできたのは、門前の人だかりなど比にならないほどの人の群れだった。ユウリはいまだかつてこんなに人が密集しているのを見たことがなかった。門から続く目抜き通りはかなり広くつくられているものの、行き交う人が余りにも多いためにそれでも自由に行き来するのは難しい状況だ。
「とにかく少し外れの方へ出よう。アンタ、アイリがはぐれないようにちゃんと見てなよ」
「もちろん、言われなくてもそうする」
ロウシュの返答は相変わらずつっけんどんなもので、リュウは面白くなかったが今はそれどころではない。一行ははぐれないようお互いを確かめながら通りを奥へと進んでいった。




