38 都への旅路
マナを発って、ユウリが驚いたことが二つある。一つは、都に通じる道が今まで通ってきた街道とは随分違うことだった。マナに来る前に通ってきた道も街道とは違っていたが、それは整備がきちんとされておらず、荒れた道だったということだ。だがこちらの道は整備されていないわけではなく、むしろより丁寧に手入れがされている印象を受ける。地面は土ではなく下草がまんべんなく生えており、均等な長さに刈りそろえられている。おそらく土がむき出しになっていると馬車などを引いた際に土埃が舞うため、それを防ぐ目的であえてこのようになっているのだろう。草など放っておけばあっという間に伸びてきてしまうのだから、この道を維持するのがいかに大変か窺い知れるというものだ。道の両側はマナから続く雑木林で、都へ向かっているという実感は、景色を見る限りまだ湧かない。
そして、驚いたことのもう一つは。
「ケッ、アイツなかなかしぶといな」
リュウが思わず独りごちるほど、アイリが健脚だったことだ。長い間アオガと旅をしてきたが、そのときは随分遅れが生じていた。リュウのペースに合わせるとアオガの足ではついて来れなかったからだ。マナを出発するのが思ったより遅れてしまったため、一行はかなり速いペースで都へと向かっている。しかしアイリはアオガほどの遅れをとることもなく、ロウシュに見守られながら黙々と歩を進めている。ついて来たいと言っただけのことはある、とリュウも密かにアイリを見直しつつあるほどだ。ユウリに至っては、見直すどころか感心しているくらいだ。シュリの宿で見たときから歳の割にしっかりした子だとは思っていたが、自分も無意識のうちにアイリのことを子ども扱いしていたことを自覚して少し反省した。
そんなアイリの護衛を自ら名乗り出たロウシュは、初めに会ったときからさほど変わらない格好で一行に加わっている。強いて挙げるなら、羽織が落ち着いた紺色の丈が長いものに変わっている程度だ。旅装としては身軽に見えるが、元が道服なのでそれでも事足りるということなのだろう。だがリュウと言い争うことに懲りたのか、ユウリたちとは一定の距離をとり、あまり積極的に干渉はしてこない。本当はこの辺りの地理に詳しいだろうロウシュに水先案内を頼めればいいのだが、マナの住人たちの話を聞く限り都には行ったことがないということなので、旅慣れたリュウが先導するこの形が妥当とも言える。
そんなわけで、一行は至って順調に都へと向かっている。このペースで行けば、夕暮れまでにはたどり着けるだろう。都の閉門が他の街よりも早いなどという話は聞かないので、間違いなく今日中に都へ入れるということになる。
真相の在処に、確実に近づいている。ユナに一体何があったのか。それが知れるのももう時間の問題だ。ユウリは自分で意識しているよりもずっと緊張していた。できることなら、一目ユナの元気な姿を見て安心したい。もしかしたら行き違いで、ユナから家に連絡が行っているかもしれない。それならそれでいい。ユウリはただ、自分の目で確かめたかったのだ。ユナが無事でいることを。ロウシュの話を聞いてしまったから、望みはそう高くないけれど。
とりとめもなくユナのことを考えていると、ぽん、と隣から肩を叩かれた。リュウだ。こちらを見て苦笑している。そんなにひどい顔をしているのだろうか。
「まぁ緊張すんなって方が無理あるんだろうけどさ。事情が事情だしな。でもそんなんじゃ身がもたねぇぜ?」
「ごめん、心配かけて」
「あははっ、今さらだよ」
リュウのあっけらかんとした性格に何度救われたかわからない。本当にいくら感謝しても足りない。緊張をほぐすように、リュウはあえておどけた調子で言う。
「全く、妙なメンバーだよな。アイリはあんなに留めたのに結局ついて来ちまうし、ついでに変なのまで来ちまうし。中央に行くって結構大変なことのはずなのにな。ま、無茶するって意味ではみんな似たもの同士なのかもな」
「本当、世話をかける」
「いいって。アタシもこんなことでもなきゃ中央なんて目指さなかっただろうし。そこでの商売にも興味あるしな。他の行商がいたら勉強させてもらうよ」
ポジティブな言葉を聞いて、以前リュウが「商売人はしけた話を嫌う」と語っていたことを思い出した。それはおそらく商売人すべてにあたることというよりも、リュウ自身の心構えなのだろう。改めて、あのときリュウと出会えていてよかったと切に思う。
穏やかな木漏れ日を浴びながら、一行はひたすらその先に待つものへと歩を進めた。




