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幕間――遠雷

「信じるな!あんなのはただの妄言だろう。卜師風情が偉そうにっ」

 その日、ギルドはひどく腹を立てていた。隣のラウルが宥めようとしても手がつけられず、途方にくれている始末だった。

 事の発端は数刻前にさかのぼる。本来、宮廷にはミルダをはじめとする皇族と側近たち、限られた使用人しか出入りを許されていない。ただし、一部例外がある。皇族の誰かが直々に招聘した者か、特別な理由から謁見を許された者だ。前者であれば例えば、以前干ばつの対策のために宮廷内で妖獣を飼っていたことがあり、そうした存在に詳しい人物を呼び寄せたことがある。一方、今ギルドが腹を立てている原因をつくったのは後者のほうだ。それは一人の老爺だった。長年都の市井で卜師、つまり一種の占いによって生計しているという。ハクヤというその老爺は、どうしてもミルダに伝えたいことがあると書状で訴えてきたのだ。曰く、書状では自分の訴えが正しく伝えられるかわからないため、直接お目にかかりたいとのことだった。しかし、ギルドらは直接ミルダと会わせることはないと判断し、今しがた代わりに話を聞いてきたところだ。

 ハクヤは二人の姿を見て、いささか落胆したようではあった。やはりミルダに直接自分の言葉を伝えることは叶わないと知ったからだ。謁見がそう簡単に叶うはずもなく、ハクヤは代わりにギルドたちに語った。

「中央の皆々様におかれましてはご健勝のこととお喜び申し上げます……」

「口上はよい。用件を申せ」

 ギルドはハクヤが述べたお決まりの口上を途中でうるさそうに遮った。その態度で、ハクヤを決して歓迎していないことは明らかだった。ラウルは隣でただ黙って聞いている。衣装の印象も相まってまるでこの世のものではないように見える。ハクヤは少し詰まったが、

「では、畏れながら申し上げます」

 うやうやしく礼をした後、静かに語りはじめた。その内容が内容だったため、ギルドが激怒することとなるのだ。

「私は長年卜占を生業としております。普段は市井の人々の話を聞き、占っておるのですが、近頃その結果がひどく似通ったものを示すようになったのでございます。これはもしや、何か大事が起こっている、もしくはその予兆ではないかと愚推し、畏れ多いとは思いつつもこの国の先について占ってみたのでございます」

 ギルドは冷ややかな目でその老爺を見下ろしていた。そもそも卜師などの占い師というのは下賤な職とされていた。一部は神職に近いような者もいるが、それでも正式な神職とは明らかに区別されていた。本来宮廷に招き入れることさえギルドは嫌がった。それを説得したのはラウルである。一体何を語るつもりなのかを知らなければ、対処のしようがないからだ。ハクヤを門前払いにして、根も歯もないことを市井で吹聴されても困る。

「その結果は私にも意外であり、驚くべきものでした。一刻も早く中央へお知らせしなければと思い、こうして参じた次第でございます」

「だから、無駄な説明は要らぬ。その占いの結果とやらを申せ」

 ギルドは苛立ちを隠さなかった。こんな老人一人に時間を取られるだけでも嫌だった。ハクヤはそんなギルドの怒気にも怯む様子はない。もう一度慇懃な礼をした。

「では申し上げます。もうじき、国の要を襲う猛烈な嵐が巻き起こるでしょう。今すぐに対処せねば、多数の犠牲は免れますまい」

 その不穏な一言で、その場の空気は凍りついた。ギルドが不敬だと殴りかかろうとするのをなんとか抑え、追い返すに留まった。それからずっとギルドは冒頭のような調子なのだった。ラウルは最後の切り札として、己らの主の名を出した。

「そんなに怒っていては、ミルダ様が訝しがられるぞ。そうなれば先の件についてお耳に入れることになろう」

 その言葉で、ギルドは少し冷静さを取り戻した。妄言と言い切ったハクヤの言をミルダへ報告する気などさらさらない。憮然と応える。

「もちろんミルダ様のお耳になど入れんさ。案ずるな」

 しかしそれは叶わぬこととなった。背後からそこにいるはずのない声がする。

「何を私の耳に入れないんですの?」

「ミ!ミルダ様」

 二人は驚愕の表情で振り返る。こんな僕らしかいないはずの廊下に、ミルダが一人で現れたのだ。二人は慌てて礼の姿勢をとる。この二人を出し抜いたのが嬉しかったのか、ミルダは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

「私が何も知らないとでも思って?さぁ、全て洗いざらい報告なさい」

 聞きようによっては無邪気にも思えるような言だったが、そこには有無を言わさぬ気迫があった。ギルドらは青い顔をして、しばらくお互いを伺うばかりだった。

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