34 議論の行方
「まためんどくさい奴が出てきやがった」
リュウはロウシュの姿を見るや、小声でぼやいた。この二人は本当に相性が悪い。しかしそんなことを気にする様子もなく、ロウシュはこの場をあっという間に掌握する。
「まずは互いの主張を整理する必要があるだろう。ただ言い合っているだけでは、議論は平行線のままで進まない」
ロウシュの発言が正論だというのはわかるのだが、頭ごなしに言われるのはおもしろくない。リュウは不機嫌な顔でそっぽを向く。
「それではアイリ、そなたの主張を聞こう」
そして当然のようにアイリに水を向けるのも気に入らない。だがもう言い争う気にもならないようだ。一方のアイリはやっと話を聞いてもらえると嬉しそうだ。
「アタシは絶対ついてく。それでお父さんのことを調べるの。中央に着いちゃったらそんな危険なこともないだろうし、そこまで一緒に行ってくれてもいいと思う」
アイリの主張はヒュウゴウに襲われる前、ユウリたちに追いついたときから一貫している。こちらも連れてはいけないという主張で一貫しているわけだから、現状議論は平行線である。
ロウシュはふむ……と一度考える素振りをしたあと、アイリと目を合わせた。
「都に着けば安全というのは何を根拠にそう考えるのだ?」
「こん、きょ?」
唐突に質問されたアイリはぽかんとした。言われた意味がわからなかったというのもある。ロウシュはもう少し噛み砕いた言い方をした。
「どうして都に行けば危険ではないと考えたのか、ということだ。そなたは他でもないその中央に向かう間に襲われたのだよ」
「……でも、さすがに中央では妖は出ないでしょう?」
ここにきて初めて、アイリの顔に不安がよぎった。どうやらアイリは自分が襲われたのは街道を移動中だったからで、街へ入ってしまえばそんなことは起こらないと考えているようだ。まして都ならば安全で間違いない、と。
それは、ある意味では正しい。さすがは宿屋の娘なだけはある。おそらく街道をゆくのが危険であることは旅人などから聞きかじっているのだろう。だからこそユウリは用心棒をしてくれるリュウに大きな恩義を感じているのだ。しかし、アイリの考えにはまだ甘い部分があった。それをロウシュが指摘する。
「確かに、門の内というのは国の管理下に置かれているから、ある程度の安全は保証されている。だがそれはあくまでその街に住む住人の保護が最優先される。旅人まで完全に守られるわけではないことは覚えておいた方がいい」
アイリは目に見えて落ちこんだ。ユウリにはその気持ちがよくわかった。実際に旅に出てみて、自分の考えがどれだけ甘かったか痛感しているのはユウリも同じだ。事前の準備も心構えも何一つ足りなかった。多くの人の善意に救われながらなんとかここまでやってきたのだ。
それまでアイリに向けて話していたロウシュは、今度はユウリたち全員に向けて口を開いた。
「それだけではない。先に伝えてあるように、私は今各地で起きている異変について調べている。現時点で確実に言えることは、そのどれもが都を起点としているということだ。そなたらは都を目指しているのだろう。よくよく用心したほうがいい。おそらくもう既に何かが起こり始めている。それが何なのかまではまだ判断がつかないが、災禍の前兆でない保証はない」
ヒュウゴウやグイルの件でも、受けた側からすればじゅうぶん災禍といえた。これ以上のことが、これから起こるというのだろうか。
皆が思案に暮れる中、ロウシュは思い出したかのように言った。
「それで、リュウはどういう主張をしている」
「お前完全に忘れてただろ」
リュウが管を巻こうとロウシュにはどこ吹く風だった。手応えを感じられずリュウはため息をついた。ついでに投げやりな様子で応える。
「アイリは連れていけない。アンタが言った通り危険すぎるからだ。一人で帰れないというなら引き返してでもうちへ帰す」
リュウに少しでも加勢しようとユウリもうなずいて同意見であることを示す。アイリはずっと下を向いたまま動かない。かわいそうではあるが、こればかりは譲れない。リュウに守られている立場では、アイリの同行は受け入れられない。しかしロウシュは。
「そなたらは先を急いでいないのか。これから戻るなど無駄足もいいところだろう」
「んなこと言っても仕方ねーだろ!それが最大限の譲歩だっつってんだよ」
結局言い争いになる二人だった。ユウリにもロウシュがこの場をどうおさめようとしているのかよくわからなかった。当の本人は澄ました顔で話を続ける。
「では、私から折衷案を出すとしよう」
「何をどう折衷するってんだよ」
リュウの怒りは頂点だったがお構いなしでロウシュは言い放った。
「私がアイリを護衛する。それなら都へ向かっても問題なかろう」
「……………………は?」




