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33 アイリの目覚め

 アイリが目を覚ました、という知らせはアオガによってもたらされた。ユウリたちが一晩を過ごした小屋の前までやってきたものの、女性が泊まっている部屋に入るわけにはいかず、扉の前でまごついていたところで扉を開けたリュウと鉢合わせしたのだ。

「何やってんだ、お前」

「あ、アイリどのが目を覚ましたんだ」

「もっとスッと言えないのかよ」

 リュウは呆れたように言ったが、それを聞いたユウリはほぅ、と胸を撫で下ろした。ひとまず今目下の懸念事項がひとつ解決したことは喜ばしかった。

 ちょうど身支度も済んで出るところだったので、そのままアオガについてアイリの元へ行くことにした。

 朝を迎えたマナは夜とは異なる雰囲気だった。朝日は周りを囲む木々を抜けて街を照らしている。緑が鮮やかに浮かび上がり、美しいことには変わりないが、幻とは感じなくなった。これが実際に目の前に広がっている光景だという実感を得ると、改めて驚かされるものだった。ユウリが生まれ育ったアヌカも街道から外れたところにある田舎の集落だったが、マナほど洗練された印象はない。丘陵地帯に広がっているのは自給のための畑や牧草地だ。すべては暮らしを営むためにあり、風光明媚とは程遠かった。マナは国有地であり、街の体裁をとっているので、厳密には田舎とは言えないのかもしれない。だか人々の暮らしは素朴なもので、それがどうしても田舎という印象を抱かせた。

 三人はアイリが寝かされていた、岩の棚の前まで戻ってきた。肝心のアイリは棚からおりて、大きく伸びをしているところだった。こちらに気づいて手を振るので、思わずユウリは駆け寄った。

「アイリ、もう大丈夫なのか?」

「全然元気だよ!なんか、すっごいよく寝てスッキリしたっ、て感じ」

 屈託のない態度がいかにもアイリらしい。ユウリはその小さな身体を抱きしめた。

「うぅえっ??」

「よかった……。本当によかった」

 突然のことにうろたえるアイリとは反対に、ユウリは力が抜けてしまった。昨日からずっと張りつめていた緊張の糸が、ここへきてすっかり緩んでしまった。体重をかけてしまっているのでアイリは苦しいだろうが、どうしようもなかった。

 ユウリが落ち着いたところで皆で朝食を頂くことになった。といっても食堂のような店があるわけではなく、マナの人々が集まって食事をするのに混ぜてもらうという形だ。旅慣れていないユウリなどはひどく恐縮してしまうが、ここでは当然の習いということだった。こっそりリュウに訊ねてみると、土地によってはそんな風習があるという。

「そういう場合はたいてい、人への施しが尊い行いとして扱われてるもんだ。喜んで食べるのがこっちの礼儀ってもんさ」

 ひそひそと言ってリュウは片目を瞑ってみせる。こういうことも、慣れというのは肝心だと思い知らされた。アオガを見ても普通にしているし、アイリは元より遠慮する気配がない。郷にいれば郷に従え、ということなのだろう。

 朝食は大鍋で炊かれた、煮物と汁物の中間のような料理だった。香辛料や香草は控えめで、大きく切られた根菜類がたっぷり入っている。暑い季節に汁物というのが意外な気もしたが、マナはそこまで気温が上がらないのかもしれない。ここでの暮らしにはとても馴染む料理だと思った。マナの人々は思ったより沢山食べると思ったら、彼らは昼食をとらないのだという。ユウリたちのような旅人に向けては、はじめに手紙を書かせてもらった休憩所で軽食を用意してくれるという。

 マナの風習に驚きつつ、わいわいと朝食を終えた。その間、ユウリはどこか心ここにあらずという様子だった。リュウは先ほど聞いた話で心中を察しているので、そっとしておいてくれた。ただ、このときユウリはただ落ちこんでいたわけではなかった。そこにいない人物のことが気になっていたのだ。それを口に出すのはなんとなく躊躇われて、黙ったまま目でその姿を探していた。しかし結局、見つけることはできなかった。この場にはいないと考えるのが自然だろう。

 少し落ち着いたあと、アイリを含めて今後についての話し合いがもたれた。と言ってもほとんどついて来るというアイリと家に送り返すというリュウの主張のぶつけ合いだった。リュウは厳しい顔で言う。

「だめだ。今度のことで思い知っただろ。危険すぎる」

「いやだ。ちょーっと油断しちゃっただけだもん。もう同じ手はくわないから」

「お前が襲われてアタシたちがどんな思いをしたと思ってんだ。旅は遊びじゃないんだぞ」

「だから遊びなんて思ってないって言ってんじゃん!」

 次第にヒートアップしていく二人に口を挟む余裕はない。ユウリとアオガは蚊帳の外のように感じた。そちらの様子を見守りつつ、ユウリは小声でアオガに気になっていたことを訊いた。

「アオガはマナに向かってたんだよな?旅はここまでということ?」

「そのことなんだが、実は……」

 しかし、その続きをこの場で聞くことは叶わなかった。アオガが口をつぐんでしまったからだ。その理由は。

「そなたらはまだ何を騒いでいるのだ」

 先ほどの朝食には姿を見せなかった、ロウシュの姿がそこにあったためだった。

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