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31 ロウシュが語る真実

「あの娘には私の従者がついているから安心なさい」

 ユウリの不安を見透かしたようにロウシュは言う。こちらを見ていなくても何を考えているのか読まれてしまいそうで落ち着かない。敵対しているというわけではないが、だからといって歓迎されているわけでもない。リュウが口にした居心地の悪さはユウリも感じている。アオガはなぜ、ここへユウリたちを連れて来たがっていたのか。わからないことが多いのも、ユウリを不安にさせる要因のひとつだ。

 ロウシュの後についてやってきたのは、先ほどアオガとこの奥地へ来たときにも見えていた滝のほとりだった。遮るものが何もなくなって、水が勢いよく落ちていく音がその空間を埋めつくすように轟いている。そう広くない滝壺に流れ落ちた水がしぶきをあげ、風が吹けばこちらにも届いた。ほとりに二人で並び立つ。

「この滝の前には余計な遠慮や思惑も消え去ろう。そなたの話を聞こう」

「私の、ですか」

 ユウリは隣のロウシュを見やる。てっきりロウシュの方から何か言われるのだと思っていたので戸惑った。視線を受けるようにロウシュがこちらへ体を向けた。

「そなたに聞きたいことがある。ヒュウゴウから聞いたという言葉のことだ」

 おそらくユウリがいない間にアオガから報告を受けたのだろう。だがあのときはとにかくアイリのことが最優先だったため、アオガがちゃんと聞いていたとも思えない。ロウシュもそれをわかっていて、ユウリから直接聞くことにしたようだ。たまたまユウリが起き出したので今になったが、そうでなくとも明日にでもこうして話を聞く心づもりだったのだろう。

 ユウリはヒュウゴウに襲われたときのことをできるだけ詳しく話した。別に隠すつもりもないし、アイリを救う何かが潜んでいるかもしれないと思ったからだ。少しこのロウシュという人物を買い被りすぎている気もするが、できることは何でもしておかないと気が済まなかった。

 話し終えると、ロウシュは小さくうなずいた。まるで聞く前からすべて想定していたというように。面と向き合ったまま一度目を閉じたロウシュの姿は、どこか儀式めいていた。ユウリが話すこと自体、そうした意味合いを持っていたようにも思える。次に目を開くと、ロウシュは徐に口を開いた。

「アオガから聞いていると思うが、私は彼に近頃起きている異変について調べさせていた。他にも同じように調べている従者たちが数名いる。アオガは本来なら都へ立ち寄ってからこちらへ来させる予定だった。それがあまりにも早く顔を見せた。只事ではないことが起きているのだと、その到着でわかった」

 ロウシュは決して、ユウリを責めているわけではない。それは彼の語り口が柔らかくなったのでそうとわかるのだが、状況に呑まれていることもあり、ユウリはうなだれた。それでもロウシュはこの機に最後まで話してしまうつもりらしく、さらに言葉を継ぐ。

「一番の異変はヒュウゴウのことだ。あれはいわば妖の類。人とは本来相容れぬ生態を生きる者たちだ。あれらを臆病と評する者もいるが、そもそも人に興味を抱かないのだ。あれらには人ははっきり見えない。まるで我々人こそが妖であるように」

 不思議な話だった。リュウが語ったヒュウゴウについての話ともまた違う。どれが正しくヒュウゴウの生態を語る話なのか、知識のないユウリには判別できない。

「そんなヒュウゴウが人を襲った。あり得ない出来事だ。見えないはずのものを襲うのなら、視覚以外を頼らなくてはならない」

 そこまで聞いて、ユウリはハッとした。ヒュウゴウが語った言葉を改めて反芻する。

――お前は同じ匂いがする、世の秩序を乱した者と同じ匂いだ。

 視覚ではなく、匂いでユウリを襲ったということだ。でもなぜ?同じ匂いとは、世の秩序を乱した者とは?ロウシュが語ったことがさらなる混乱を招く。

 ひとつだけ、気づいたことがある。ロウシュの話し方はアオガと少し似ている。彼が師匠なのだから、アオガが似たということだろう。おそらく順を追って話を進めようとするから、なかなか結論にたどりつかないところが回りくどく感じるのだろう。アオガと違うのは、時と場合で話し方を変えているところか。

「今から言うことは、そなたにとっては衝撃かもしれないが、従者たちが調べてきたことと、そなたから聞いたことを統合して考えると真実であろうことだ」

 つまり、言いにくいことを言おうとするから、前置きが長くなるのだ。それは初めて会ったあのときに感じた優しさのようなもの。

 滝を前にして轟音も聞こえているのに、不思議と静かだと感じた。ユウリは黙ってロウシュの言葉を聞いた。

「都で禁呪が使われた。そのせいで世の秩序が乱れている。そなたの身内が、その禁呪を発する鍵とされてしまったようだ」

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