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28 森の中の街

 マナの街は不思議な場所にあった。閉門に間に合わない可能性があったため、結局休憩も満足にとらずに歩き続けた一行だった。道は周囲を分厚い森に覆われており、高低差はそれほどないものの街道ほどしっかり整備されていないため、木の根や倒木に足元をすくわれそうになりながら進んできた。アオガがへばりそうになる度にリュウが喝を入れ、なんとかやって来たものの、皆が疲労困憊だった。だから鬱蒼とした森の中に急に浮かび上がるように現れた街を見ても、幻覚を見たような感覚に襲われた。頭上を覆っていた木々の枝が途切れて差した夕日に照らし出されたそこが、まるで夢の中の情景のように美しく映ったのも、そんな思いに拍車をかけた。

 門構えなどは街道沿いの街と変わらない。元々マナはこの国が成立する以前から土着の人々が暮らし、湧水地を守ってきた。代々の施政者たちも、はじめは彼らの生活を尊重し、あるがままに容認していた。しかし都の人口が増大するとそうも言っていられなくなった。人々の生活のために膨大な量の水が必要となったのだ。マナは都から近い湧水地ということもあり、ある代の皇帝が街として本格的に整備するという方針を打ち出した。それはすなわち、マナが国の一部となるということだ。かつて先住民の集落が街へと造り替えられたのと同様に。こうしてマナの入り口には他の街と同じように門がつくられ、中央から派遣された官人がおかれることになった。

 しかし一歩門の中へ入ると、そこには古くから変わらないであろう、自然溢れる世界が広がっていた。これまで立ち寄った街は入るとすぐに目抜き通りがあり、商店がずらりと並んでいたものだが、まずそうした大きな通りがない。建物は木造の簡単なものか、土レンガを組んだものがほとんどで、蔦も這うままにされている。道にしても下草は最低限刈られているのみで、全体的に緑が多い印象だ。行き交う人々はまばらで、夕暮れの日差しが斜めに差しこんでいるせいかまるで幽鬼か何かのように霞んでいる。道服なのか、全体に白っぽい衣を着ているのもその印象を強める要因になっている。

 マナに入ると、一行は一時的に二手に分かれることにした。今は何よりアイリの容体が急務だ。いまだに目を覚まさないアイリを背負っているリュウは、アオガの案内で彼の師匠の元を目指す。ユウリは共には行かず、用事を済ませた後に合流することになる。アイリのことが落ち着いた時点でアオガがユウリを迎えにくる段取りだ。アイリを背負ったままリュウが心配そうに見る。

「本当に、一人にして大丈夫か」

「うん。街の人がいないわけじゃなさそうだし、なんとかするよ」

 ユウリはできるだけ気丈に振る舞った。実際これまでの旅路はリュウに甘えっぱなしだったので、そうして心配されるのも無理はない。だが今はそうも言っていられない。ユウリは一人、マナの奥地へと向かうリュウたちの背中を見送った。

 ユウリがリュウたちと分かれてまで済ませておくべき用事。それはアイリの母のシュリに手紙を書くことだ。

 アイリがシュリにどういう話をして出てきたかはわからないが、さぞ心配していることだろう。それでもまさか道中でヒュウゴウに襲われて意識を失っているなどとは想像もしていないはずだ。ユウリはひどく責任を感じていた。あのとき聞こえた言葉で、ヒュウゴウは自分を狙ってきたことが明らかになったからだ。その言葉を聞いたのがユウリだけというのが引っかかるが、この状況を引き起こす要因となったことには変わりない。本当なら道中にでも手紙を託せる人が通りかからないかと思ったのだが、あいにく誰ともすれ違わなかった。どうもトウキ周辺の街道の惨状が伝わっているせいで、そちらに向かう旅人がめっきり減っているようだ。マナからの道はそもそも行き交う人が少ない。

 ユウリはひとまず、一番手前の建物の前で何やら作業している女性に声をかけた。

「すみません。ちょっとお聞きしたいんですが」

 すると女性は顔を上げてユウリに向けて微笑みかけた。歳の頃が読めない顔だった。

「この街から、トウキの手前の宿場に手紙を出したいのですが、世話をしてくださる方はいますでしょうか」

「旅のお方ですか?」

「あ、はい。名乗るのが遅くなって失礼しました。アヌカから旅をしているユウリといいます」

 言って頭を下げると、女性がほほっ、と笑った。

「まあご丁寧に。お手紙はもう書かれて?」

「いや、まだです」

「ならまず卓をお貸ししますよ。こちらへどうぞ」

「……ありがとうございます」

 はじめに声をかけた人が優しい人だったので、とにかく見通しが立ったことに安堵した。女性についていくなかで、以前にも似たようなやりとりをしたような、とぼんやり思い出していた。

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