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26 急襲

「チッ、あそこだ」

 上空を飛ぶヒュウゴウの爪に掴まれた小さな人影。ヒュウゴウは興奮状態にあるようで、耳障りな鳴き声を轟かせている。あまりにもうるさくてアイリが泣き叫んでいるのか、そもそも意識があるのかも判然としない。それをユウリは青い顔で見上げる。ヒュウゴウは飛び去るわけではなく、ユウリたちの頭上を旋回するように飛んでいる。

「ヒュウゴウが人を襲うなど……この目で見ても信じられん」

 空を仰いだアオガが呟く。確かに以前ユウリが襲われたときもリュウからそんな話を聞いたが、今はそれどころではない。ヒュウゴウはアイリを掴んだまま、再びこちらへ向かってくる。リュウが隙をみて短弓を構えるが、ヒュウゴウが避けた場合アイリに当たりかねないので、なかなか狙いを定められない。高度が下がると、ヒュウゴウの狙いが定かになった。明らかに、ユウリを狙っている。ユウリは携帯している短刀を抜いて正面で構える。アイリのことがあるので、あくまで防御が目的だ。鋭い嘴を大きく開くヒュウゴウの口に咬ませるような格好になる。獣臭い息がユウリを襲い、次には衝撃で後ろへ弾き飛ばされる。その瞬間掴まれていたアイリが地面にドサッ、と落とされた。そこへ狙い澄ましたようにリュウが短弓を撃ちこむ。しかし致命傷には至らず、酷い呻き声をあげたヒュウゴウは一旦退いたが、まだ上空を旋回している。羽根が起こす風によって砂粒が巻き上げられる。アイリは意識がないようで、倒れたまま動かない。

「アオガ!アイリを看護しとけ!ユウリ大丈夫か!?」

 目ではヒュウゴウの動きを追いながら、リュウはユウリの元へ走ってくる。ユウリはようやく立ち上がり体勢を整えたところだった。しかしユウリは先ほどから奇妙な頭痛を感じていた。今倒れたときに打ったわけでもないし、先日グイルの一件で転倒したときに打った場所とも違う。さっきヒュウゴウに息を吹きかけられたときから、なんだか変なのだった。そうこうするうちに再びヒュウゴウが向かってくる。リュウが下から短弓で狙おうとするが。

「来ちゃ、ダメだ。あいつの狙いは……」

 頭痛はどんどんひどくなっている。そのせいでうまく喋ることができない。その刹那にリュウがヒュウゴウの真下に入り、短弓を放つ。はじめに会ったときと同じように、ヒュウゴウの眉間に矢が突き刺さる。その巨体が一瞬のけぞったかと思うと、急に力を無くしたように落下してきた。ユウリはリュウに引きずられて間一髪でその下敷きとなるのを免れた。

 どおっ、と音をたてて落ちてきたヒュウゴウを横目に、リュウはユウリの肩を掴んで正面から覗きこむ。

「ユウリどうした?顔が真っ青だぞ」

「私の、ことはいいから、アイリを」

「わかった。とりあえず端で休んでな。頭打ったときの後遺症かもしれないから、あんま動くなよ」

 そう言い置いてアオガが看護しているアイリの元へリュウが走っていく。その後ろ姿を申し訳ない気持ちで見送りながら、その場にへたりこんだ。

 頭痛の正体が後遺症などでないことは、ユウリにはわかっていた。リュウがそこに気づいていないのも、そう考えれば自然なことだ。

 アオガが介抱し、リュウが薬を飲ませても、アイリは目を覚ます様子がない。爪が喰いこんだ皮膚に血が滲んでいたが、止血が必要なほどの外傷はない。ショックで気を失っただけならば、もう目覚めてもおかしくないはずなのだが。

「これは、もしや瘴気にあてられたのではないか」

 リュウと一緒にアイリの様子を見ていたアオガがぽつりと言った。さらに投薬すべきか判断に迷っていたリュウはアオガを睨む。

「どういうことだよ」

「ご存知のとおり、ヒュウゴウは妖鳥。本来人とは相容れない生態系に生きる者だ。そういう者は己を守るために瘴気を纏っている。瘴気は人の魂を傷つけることがある。この子が目覚めない原因が瘴気の傷ならば、薬ではどうにもなるまい」

 リュウは不吉な話をするアオガを憎々しく見つめた。

「アンタはその診断やら治療やらができるってのか?」

「いや、オイラにゃ無理だ。師匠ならともかく」

「っんとに使えねぇな」

 いい加減アオガと言い争うのも疲れてきた。そこへユウリがとぼとぼと歩いてくる。

「ユウリ、もう大丈夫なのか」

 リュウはユウリの顔を覗くが、ユウリはアイリを見ていた。寝かされた小さな身体の隣に膝をつく。

「私の、せいだ」

 憔悴した顔で呟くのを、リュウは訝しげに聞く。

「いや、勝手について来ちまったのはこいつだし、これは事故みたいなもんだ……」

 リュウが慰めようとするのも首を振って遮る。

「あのヒュウゴウは、私を狙ってきたんだ。アイリは巻き添えを喰った」

「うん?まぁ、確かにそう見えなくもなかったけど」

「私なんだ。ヒュウゴウの声を聞いたから」

「声、だって?」

 リュウは眉をひそめる。ユウリの言わんとすることがいまいち理解できない。それはそうだろう、とユウリも思う。あの声を聞いたのは、おそらくユウリだけなのだ。

「ヒュウゴウが私に言ったんだ。お前は同じ匂いがする、世の秩序を乱した者と同じ匂いだ、って」

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