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16 ひとりの理由

「なぁんか妙なことになってきたなぁ」

 歩きながらリュウがぼやく。隣には苦笑いのユウリ、そして後ろにはポテポテと歩いて付いてくる小柄なアオガ。彼は街道の様子を検分するようにキョロキョロと視線を動かしながら歩いているので、なんとなく危なっかしい。

 三人は宿場を後にして、次の街へと進んでいるところだ。それはトウキというところで、そこまでは広く平坦な街道が続いている。このペースで行けば夕方までにはトウキの門前に着けるだろう。

 リュウがぼやいている理由はユウリにもわかる。ジオウが「一匹狼」と称したように、元来リュウはこうして複数で動くのを好まない。ユウリの用心棒を買って出たのはあくまで自分にも利点があったからで、アオガのように流れで連れが増えるというのは想定外だった。それに加え、アオガとの相性もいいとは言えない。あっけらかんとしてさばけた話し方を好むリュウにとっては、アオガの話し方はどこか煙に巻くような、胡散臭いような感じがして気に入らない。おそらくアオガにはそんなつもりはないのだろうが、こちらが訊きたいことに対する説明が足りていないというのが一番の問題だった。同道したいというにしては誠意が感じられない。それは同道の後押しをしたユウリも感じていることなので、歩きながらも後ろから付いてくるアオガの様子はまめに観察している。

「そもそも、なんでリュウは一人で行商をしてたんだ?」

「薬種ならそれでもなんとかなるから。あと、一人の方が動きやすいから」

 行商は通常三人から五人で動くことが多い。そもそも荷を引かないといけないので荷車を動かす人員が一人か二人、あとは荷を警護する者を連れているというのが標準的なスタイルだ。警護は売り子が兼ねていることもあれば、街の移動の時だけ雇う場合もある。それより大規模になると隊商となり、大抵は大きな商社が独自のルートで販路を持っている、卸売に近いものだ。

 リュウと初めて会ったとき、行商だと言ったのをすぐに信用できなかったのは、ユウリも行商とはそういうものだと思っていたからだ。荷が小さくて一人でも持てるといっても、そうした荷は高値で取り引きされるものであることが多い。だから警護くらいは連れているものだ。リュウの場合は腕が立つから必要なかったのだろうということは、あのヒュウゴウの一件で理解した。

「そもそもアタシはさ、一人でもできる仕事を探して今のやり方に辿り着いたんだ。ユウリと会わなかったら、多分ずっと一人を貫いたと思う」

「その理由を訊いてもいい?」

 リュウがユウリと同道した理由は、神の采配だと思ったからだと言った。じゃあそこまで一人でいることにこだわってきた理由は何なのか。

 思案する顔でちらりとユウリを見たリュウは、ため息をひとつついて口を開いた。

「アタシ、孤児院で育ったんだ」

「えっ?」

 ユウリは思わず息が詰まるほど驚いた。訊くべきではなかっただろうかと一瞬後悔したが、例のごとくリュウはこだわりない様子だ。

「孤児院って一言で言ってもいろんなとこがあるんだろうけどさ。アタシは、アタシがいた孤児院には馴染めなかったんだ。修道士の人たちが開いたとこでね、毎日お勤めがあるんだ。世話をしてくれる人たちはみんないい人だけど、戒律っていうのか、とても厳しいところでね。子どもはそれぞれ違う事情を抱えているし、なんとなく不安定な子が多くて。そうするとまぁ、いろんなことが起こるんだよ」

 自分を一番守ってくれるはずの家族と、様々な理由から離れなければならなかった、年齢もバラバラの子どもたち。それぞれが不安やストレスを抱えながらの集団生活。新しい子が入ってきては、リュウのように自立して巣立ってゆく。そんな環境で何事もなく穏やかに暮らすことの難しさは、ユウリにも想像できた。

「アオガのやつ、師匠だとか求道者だとかって言ってたろ?なんか思い出しちまったってのもある。とにかくアタシはその時代に思い知ったんだ。人が群れだすとろくなことがないってさ」

 その頃の経験から、リュウは自立してからずっと一人で生きてきた。だから今はかなり特殊な状況といえる。ユウリは再びアオガの様子を伺う。二人から好意的に受け入れられているわけではないことは何とも思っていないのか、表情には何の感情もあらわれていない。

 不思議な縁に導かれて旅路を同じくするユウリとリュウ、アオガ。穏やかな気候の中、街道はつつがなく続く。

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