15 新たな道連れ
小男はアオガと名乗った。ユウリがリュウと出会った街道よりもずっと向こうの方から旅をしてきたのだという。アオガの言うところの「変異」を追う形で。ヒュウゴウの話はジオウから買った誰かがヒソヒソと話していたのを偶然耳にしたそうだ。
「でもさぁ、そんなこと調べて一体どうするんだ?都に起因するんじゃあ、一般人がどうこうできる問題じゃないだろ」
今、三人は宿場内の茶店で昼食をとっているところだ。様々な旅人が訪れる宿場なので、早く食べられる麺物を出す店や、ゆっくり休憩できるよう甘いものを出しているところもある。三人が寄ったのは軽食を出す店で、粥に鶏や香草をまぜこんだものをそれぞれ頼んだ。味付けをいろいろ選ぶことができ、リュウはスパイスの入った辛いもの、ユウリは発酵調味料がメインの甘めのもの、そしてアオガは塩をきかせたシンプルなものだ。各々粥を掬いながら話をする。アオガはもごもごしながら言う。
「オイラがこの旅を始めたのは、一通の手紙が届いたからだ」
「手紙?」
「ああ。オイラ、昔この先のマナってところで住み込みをしてたんだ。手紙はそのときに世話になった師匠からで、都を中心に変異が起きてるらしいってことが書かれてた。師匠はいろんなところに弟子をもってて、故郷に帰ってたオイラも含めた何人かに都周辺での変異を調べるよう依頼してるんだ」
アオガの言うマナというのは山間にある小さな街だ。土着の人々が代々守ってきた「聖なる泉」と呼ばれる湧水地があり、元々は聖域とされていたが、都に近いこともあって今は国有地とされているはずだ。
リュウはアオガの話をうろんな顔で聞いている。粥のスパイスのせいか、額に汗が玉をつくっている。
「へぇ。その手紙ひとつで都を目指したってか。そんなに恩義を感じてるって、その師匠とやらから何を教わってたんだよ」
アオガは憮然とする。事実を述べたのにまだやましいことがあると疑うような言いようにイラついたようだ。
「師匠は求道のお方だ。オイラは身の回りの世話をさせてもらいながら、ありがたい教えを乞うていたんだ。師匠を貶めるような発言はよしてくれ」
「だがアンタは最初、アタシらについて来たのは誰の差し金でもないっつったよな?本当はその師匠から言われてたことなんだろ」
「それは関係ない。あんたらに行き会ったのは偶然だ。オイラが勝手に声をかけようとしただけさ」
「どうかな。だいたい状況ができすぎてる。最初からアタシらの何かを狙ってたんじゃないの?長ったらしい言い訳まで準備して」
リュウはどうにもアオガの胡散臭さが拭えず、つい問い詰めるような言い草になってしまう。それもそうだろう。アオガの説明はあまりにも偶然が重なりすぎている。はじめからこうなるように仕組まれていたと言われた方がまだ納得できる。
アオガは埒があかないと思ったのか、今まで口を挟まずに静観していたユウリに矛先を変えた。
「さっきから話に入ってこないが、アンタさんはどう思うかね」
「私?」
いきなり水を向けられたユウリは言葉に詰まってリュウを見る。確かにアオガの話は信用に足りない気もするし、リュウも少し疑いすぎという気もする。ユウリは元来慎重な方なので、どちらかといえばリュウに寄った意見なのだが。
「この人を信用できるかは、正直まだわからないけど、同道するのは悪くないと思う。もし仮に盗賊の類なんだとしても、リュウに敵わないのは明らかだし。どの道この人も都へ向かうのだったら、いっそ私たちの目の届くところにいてもらった方がこちらも対応しやすいと思う」
アオガはユウリにも信用は得ていないことが明らかになってガックリと肩を落とした。ただ、同道できるかもしれないという希望も生まれたからか、表情は緩んだ。
「まぁ、今すぐ信用してくれというのも確かに無理がある話だ。だが都を目指しているのは本当なんだ。頼む。小間使いかなんかと思って一緒させてくれ」
ぺこり、と頭を下げたアオガをリュウが難しい顔で見下ろす。同道に肯定的な意見を出したユウリも固唾をのんで見守る。
「……もし少しでも怪しい行動が見られたら容赦なく叩き潰すよ?それでも付いてくるってんなら好きにしな」
かなり厳しい言葉を放ったが、それが落とし所だろうことはその場の全員が理解していた。アオガは一瞬目を見開き、その後破顔した。
「もちろんその条件で構わない。恩にきる」
こうして旅の道連れにアオガが加わった。




