14 怪しい者の正体
「さぁて、アンタがどいつの差し金で何の目的でアタシらをつけてたのか洗いざらい吐いてもらおうか。早めにさくっと口割っちゃった方が身のためだぜ?アタシあんまり気が長い方じゃないから」
「うぐぇぇ」
壁に小男を押さえつけたまま、低く早口でリュウがささやく。側で見ていたユウリはヒヤヒヤしながら見守る。何せ小男は子どもにしか見えない背丈なのだ。しかしこの状況でリュウのすることに口出しするのも憚られる。
「喋りたいけど声が出ない?仕方ない。袂をちょっと緩めてあげる」
「げほっ、はぁ。オイラは別に誰ぞの差し金なんかじゃ……」
「おや、口を割る気はなかったようだね」
「うげぇぇ」
一旦拘束を緩めたリュウだったが、言い訳じみた小男の喋り出しに再び締め上げる。再び情けない声を出す小男がさすがに気の毒になってきた。
「な、なぁ、ちょっとやりすぎなんじゃあ……すごく苦しそうだし」
「いや、こういう手合いはこっちが譲歩したらつけ上がるからな」
「でも、その、子どもに見えるし」
「ガキだろうと何だろうと下衆な真似する奴に同情の余地はないね」
あくまでリュウは厳しい態度を崩さない。その様子はまるで弱い者いじめのようではらはらするが、言い分には反論できない。この小男がつけてきたのは事実だし、目的がわからないことには無罪放免というわけにもいかない。それでこちらが危険な目に遭う可能性もあるのだ。
ユウリがどうすることもできずにいる間に、当の小男にも限界かきたようだ。
「ギ、ギブ……」
そのままカックンと意識を失ってしまった。仕方ないというように、リュウは小男を抱えあげた。
狭い裏路地をさらに奥へ進み、人の姿が見えない空き地へと出た。宿屋や店の裏手にあたるここまでは旅人はまず入ってこない。通りかかるとすれば宿屋に出入りする小姓の類だろう。
地面にまっすぐ寝かせていると、小男ははっ、と意識を取り戻した。
「し、死ぬかと思った」
「おおげさだな」
しゃがみこんだリュウに見下ろされているのをみとめると小男はひぃっ、と縮みあがった。怯えてはいるが動きは俊敏だ。側で見ていたユウリの目にも小男が回復したとみえて安心した。さらに、明るい場所でその姿を見たことで、小男が子どもではなさそうということもわかった。口元にうっすらと髭らしきものが見える。
「で?なんでコソコソつけてきたりしたんだよ。正直に言えば許してやらなくもないぜ」
ここがどこだかわからないのか、キョロキョロと目を泳がせている小男を見下ろしながらリュウが問う。もし小男が逃げようとしても、この状況ではリュウなら難なく捕まえてしまうだろう。
しかし予想に反して、小男は逃げなかった。リュウとユウリを交互に見ながら、向き合うように半身を起こすと、憮然として言った。
「あんたら、都へ行くって話してたろ。できればオイラも同道したいと思ったから、声をかけるタイミングを見計らってたのさ」
「アンタも都へ?」
リュウとユウリは顔を見合わせた。これはただの偶然なのだろうか。ここから都までは随分距離がある。そもそも一般人がおいそれと訪ねられる場所ではないのだ。そうそう目的地を同じくする者と行き合うことなどないはずなのに。話を聞く態勢になった二人を見て小男はやれやれとため息をつく。
「そしたらこの宿場で見失いそうになるし、必死で追いかけてきたらひっ捕まえられるし、えらい目にあったもんだ。尾行かなにかと勘違いされたかな」
その言い草に今度はリュウが憮然とする。
「悪かったよ。だがアンタのつけ方も問題だと思うよ。何かやましいことがあるかと疑うだろう」
リュウは行商を生業としている。薬種は大きな荷物にはならないからそこまで目立つことはないが、それでも大事な仕入れ品や金銭を狙う盗賊とまみえることはある。警戒するのは職業柄、当然のことだ。指摘された小男はぽりぽりと頭を掻いた。
「そもそもなんで都に行きたいんだよ。アタシらと同道したって、基本が歩きの旅だからすっごく時間かかんぞ?」
口が重い小男にテンポのいい会話を好むリュウ。この二人の相性はあまりよくなさそうだ。今にもリュウが痺れを切らすのではないかと思い始めたころ、さすがに察したのかようやく小男が口を割る。
「実は、都が目的地というより、その道中を見てまわりたいんだ。何か変異がないか」
「変異?」
怪訝な顔で聞き返すと、小男は周りに誰もいないにも関わらず声を落とした。
「あんたらも遭遇したろう?本来そこにはいないはずのものに」
小男の言わんとするものがヒュウゴウだということは、リュウもユウリもわかった。ジオウから情報を買ったのか、それとも。
これをどう捉えたらいいものか判断がつかないまま、二人は次の小男の言葉を聞いた。
「オイラはこれらの、都に端を発していると考えられる変異について調べてるんだ」




