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12 売り子ユウリ研修中

 ジオウの店を出ると、リュウはユウリのためにラッカの目抜き通りを少し外れた辺りで露店を出すことにした。ジオウの店は卸が専門で小売りはしていない。ラッカの街にも薬局はあるが、基本的に医者から処方箋をもらっていないと薬を売ってはもらえない。裕福なラッカの住人はそれでも構わないのだが、田舎から出稼ぎに来ている者や街が保護している流民などはそうはいかない。それでリュウは毎回とはいかないものの、仕入れのときにラッカの中心から少し離れた辺りで露店を出して薬を売ることがあるのだ。今回はそれだけでなく、ユウリに売り子をさせる研修を兼ねている。

「じゃあ、はじめはアタシがやってること見てて。薬の説明とかは覚えるに越したことはないけど、できる範囲でいいから。ユウリが売り子をするとしても、アタシが補足はするから」

 テキパキと敷き布を敷いて、今仕入れたばかりの薬を並べるリュウを見よう見真似で手伝う。簡易ののぼりを掲げる頃にはちらほらと客が集まりはじめた。

「あ、キナちゃん久しぶり。おじいちゃん元気?」

「はい、おかげさまで。あの、いつものお薬いただけますか?」

「はいよ。胃腸の薬ね。これでひと月もつだろ。ひ孫ちゃんとも元気に遊んで欲しいね」

「ありがとうございます。まだまだ長生きしてもらわないと」

「本当にな。はい、毎度」

 常連らしいキナと呼ばれた女性と流れるように会話し、その間に必要な薬を渡して代金をもらう。それがあまりにもスムーズで、ユウリは呆然としてしまう。

 その後もしばらくは、リュウの露店を心待ちにしていた常連客が途切れずに訪れ、久しぶりの会話を楽しみながら必要な買い物を済ませていく。ユウリはその会話の中から薬の名前から効用まで必要と思われる情報をメモして覚えていく。その波がおさまった頃には、ユウリはまだ何もしていないのに疲労を感じた。

「ま、ざっとこんな感じかな。なんとなくわかった?」

「う、うーん……」

 客が途切れた合間に訊かれたが、ユウリは若干顔が引きつるのを感じた。これを、ユウリにやれと言うのか。しかしリュウはとぼけた顔で首をかしげる。

「そんなに難しいことはなかったろ?」

「いやぁ、とても同じようにはできそうにないよ」

 気まずそうに言うと、リュウはきょとんとした後にハハハッ、と声を上げて笑った。

「そりゃアタシみたいに喋ろうったって無理だと思うよ。でもユウリはちゃんとアタシが薬の説明してんの聞いてただろ?常連さんの相手はいいから、売り子やってみな。ダメそうだったらアタシがフォローするから」

 ユウリは握りしめたメモに目を落とし、束の間固まった後。

「……やってみます」

 絞り出すように応えた。リュウはユウリの緊張を解くようにニカッと笑った。

 その後。

「これが皮膚の炎症を抑える塗り薬です。虫などの毒だとこちらの方がいいのですが」

「虫に喰われたのじゃないはずだから、先に勧めてくれたのをもらうよ」

 リュウのサポートもあり、なんとかユウリも売り子をすることができた。まだまだリュウの手を借りることが多くて役に立っているとはとても言えないが、研修としては上々だと言われたので安心した。

「アタシの見立て通り、ユウリは飲みこみが早くて助かるよ。扱ったことがない薬種のことなんて、覚えの悪いのだとからきし頭に入ってなかったりするから」

 あまり長居もできないので、キリのいいところで店じまいをしながらリュウが褒める。ユウリは少しむずがゆかった。そんな風に褒められることなど、今まであまりなかったのだ。

「私がいた集落の中では、私は要領の悪い方だったんだ。だから、正直なところ何をやるにも自信が持てないでいる」

 異母妹のユナが都へ出て、一人残ったユウリ。集落の中で何ができるかも、見出すことはできなかった。

「その割には思い切ったことをしたもんだな。一人で都に行こうとしてたんだから」

「世間知らずだったんだ」

 ユウリが苦笑すると、リュウは何か合点がいったというような表情になった。

「なるほどな。それがあの旅装にあらわれてたんだな。わかんないことが多いから過剰装備になる」

 恥ずかしくも図星だった。だから本当にリュウと出会ったことがユウリにとっては僥倖といえるほどの出来事だった。リュウは納得したように言う。

「やっぱり神の采配だな。幸先いいじゃんか。この旅を後押しする力はもう働いてる。アタシも販路を広げられるし、都を目指すのは悪くなさそうだ」

 ニヤリと笑うリュウは本当にそう思っているようで自信に溢れた顔をしている。一方のユウリは都という言葉でジオウの言っていたことを思い出していた。

――変事のほとんどは都と関わっている。

 一体都で何が起きているのか。ユウリはそこで何を見ることになるのか。

 不安はユウリの胸に鈍い痛みとなってしつこく居座っていたが、今はリュウの「神の采配」という言葉を信じて進もうと決めた。

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