第14話 幼き日の野望
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いつも読んでいただき感謝です。
突然ですが、僕には、やらなければいけないことがあります。
いえ、別に突然というわけではありませんが。
そう、あの日、その時、あの場所で心に誓った使命を果たす時がきたのです。
長かった。
屈辱の日々は終ったのです。
今こそ、はじめましょう。
こっそりと、誰かにばれることなく、このマル秘プロジェクトを僕はやり遂げて見せます。
そう、肥溜め作りの始まりです。
まずは、穴を掘りましょう。
村の中に突如大きな穴が現れるのは、うまくありません。
誰の目にも触れないようにと考えると、村の外れに作ったとしてもいずればれる可能性があります。
肥溜めには誰かが落ちるのが相場ですもんね。
打開策が思いつかずうんうん唸っていると、天啓のように何かが降りてきました。
じゃあ、どこに作るの?
地下でしょ!
やっぱり、ばれたくなければ、地下に作るのが一番ですね。
肥溜めも、秘密基地も。
僕はいつの間にか、肥溜めは落ちるものという固定観念に囚われていたようです。
異世界に来たのです、頭を柔軟にしなければいけないのは、前に学習したはずです。
パシパシと両頬を叩き、目を覚ましました。
幸い、地下に作るのなら、よい場所を知っています。
翌日、耳を澄ませば押し殺したような喘ぎ声のする家の裏で、男の子が座って地面に絵を描いて遊んでいるのを、何人かの村人が目撃しました。
僕が目的地に到着すると、なにやら精神衛生上よろしくなさそうなBGMが流れていましたが、気にしません。
雑音を無視して、地面に、そして、さらに下の地下に意識を集中させます。
今回は『掘削』は使いません。
掘削では、地下に空洞ができる分脆くなってしまいます。
肥溜め落とし穴。
父が落ちたら、それはそれで面白いのかもしれませんが、肥溜めの存在がばれてしまったら意味がありません。
そこで、今回は工作魔法の『圧縮』を使い圧縮した土で壁を作りつつ、空間を強引にかつ効率よく作っていきます。
地下に3m四方の空間ができると空気穴と汚物投入口を作らないといけません。
これは大変に難しい作業です。
慎重かつ丁寧に作業を続けます。
人の目に着かない物影に汚物投入口をつくり、アイテムボックスから出した少し大きめの石で塞ぎ、土を薄く盛って穴を隠しました。
空気穴はちょっとした手違いで民家の中に繋がってしまったようですが、まぁ、誤差の範囲でしょう。
決して、悪意や作為があったわけではありません。
あくまでも、手違いです。
この失敗を糧に、これからも魔力制御の訓練に励むことにしましょう。
それにしても、肥溜めですか。
幼い頃、学校帰りにショートカットしようと収穫後のホウレン草畑を横切って肥溜めに落ちたのを思い出しますね。
肥溜めの上には廃棄のホウレン草が被っていて気がつかなかったんですよね。
あれ以来、ホウレン草が食べられなくなりました。
小松菜とか似たような野菜は大丈夫なのに、ホウレン草だけピンポイントで食べられない不思議。
人間というものは本当に興味深いものですね。
さて、失敗?からの現実逃避で、過去の出来事に思いを馳せてしまいましたが、まだまだこれからです。
アイテムボックスから土砂を取り出し、錬金魔法で石を分解し密度が均一の土を作ると、道具作成魔法で壷(蓋付き)とスコップを作りました。
これで準備は完了です。
あとは、『偽装』で姿を隠し、諸悪の根源を壷に封印し、地下肥溜めに投入する。
これの繰り返しです。
しかし、ここで、一つ問題が発生しました。
知覚魔法で汚物を見つけようと思ったら、村全体が反応してしまいました。
村=汚物。
諦めて生活魔法の『消臭』を解除し、臭いを頼りに汚物集めを開始しました。
バキュームカーに乗って汚物を回収して回る清掃員さんを心の底から尊敬しました。
いつもいつもご苦労様でした。
感謝の念を異世界に寄せながら作業をしていたニールを、これまでに無い衝撃が襲い現実に引き戻しました。
何を食べているのかは知りませんが、我が家からは少し離れたところに住むホンオフェさんの家の汚物は強烈な臭いがしました。
鼻が曲がりそうになる、もとい、もげそうになる刺激臭は、喉の奥を刺激し、吐き気を催しました。
思わず全ての魔法が解けてしまいました。
咄嗟に身の危険を感じ『消臭』を自分の周りに展開しましたが、その場で息をすることも躊躇われ、離れてから大きく深呼吸しました。
あれは、新種の生物兵器かもしれません。
もしかしたら、この村の臭いの原因はあそこに集約しているのではないでしょうか。
少し迷いましたが、ホンオフェさんの家の周辺は全て肥溜め行きに決定しました。
その作業は、除染作業といっても過言ではありません。
集落の全てを回り終えると、心なしか臭いが薄れたような気がします。
それにしても、ホンオフェさんのお宅の食生活が気になります。
それでは、次の作業です。
回収した汚物に水分を加え、発酵させます。
十分に発酵させなければ植物が吸収できる栄養にはなりません。
それだけではなく、発酵時に発生する発酵熱には寄生虫などを殺す効果もあります。
そのため、発酵が不十分では寄生虫が生き残り、育った作物に卵を産みつける可能性があり、ひいては、寄生虫被害を撒き散らす結果になりかねません。
しかし、今は収穫が終ったばかりの秋です。
寒いとなかなか発酵は進みません。
そこで、この世界でしかできない方法で少し手を加えます。
強化魔法の中に『治癒力強化』というものがあったのですが、この魔法、解説を読んでみると、軽微な毒であれば解毒し、小さな傷くらいなら癒し、疲労を回復させるらしい。
用途としては、冒険者が少しの休憩で体力を回復させたり、二日酔いを治したりする時に使うらしい。
やったね。
これで、二日酔いを気にせず好きな酒が飲めるね。
前世では酒が好きで飲んでいたが、余り強くは無かったんです。
一度くらいは浴びるように酒を飲んでみたいものです。
前世の知識とすり合わせると、この魔法は、代謝速度を上げているようですね。
では、その速度をさらに上げてみたらどうでしょう。
森で手に入れた果実の種を手のひらに置き、『治癒力強化』をかけ、どんどん魔力をつぎ込みます。
すると、根が出て、芽が生え、すぐに枯れました。
少し考え、次は、地面の上で行います。
根が生え、地面を這って行き、芽が生えるとどんどん伸び、ニールの腰の辺りまで成長した若木は、枯れました。
枯れた若木の周辺にあった草は全て枯れ、地面はパサパサで水分が無くなっていた。
どうやら、この『治癒力強化』改め『成長促進』は成長に必要な養分や水分が必要みたいですね。
おそらく、動物や人間などの生物にもかけられるのでしょうが、大量の飲食料が必要になり、その後には、大量の排泄物が残ることになるのだと思うと、実行してみる気にはなりませんが。
それでは『成長促進』を使い、発酵を促します。
そして、元気に発酵を続ける肥溜めに、排出される汚物を餌として与える日々がしばらく続きました。
たゆまぬ努力の結果、数週間後には、とある一軒をのぞいて村から悪臭が消えていました。
ニールは知りませんが、あの魔法が途切れた一瞬、ニールがウ○チを凝視していた瞬間を村人が目撃していました。
そして、彼の知らないところで、街中でウ○チを最近見なくなったのは、ニールが食べているせいだという、大変うれしくない噂が流れることになる。
「ふっふっふー」
思わず笑いが込み上げました。
「期は熟したり!!」
いけません、今は真夜中なのです、胸が躍りますが自重しましょう。
満月の中、麦畑を見下ろす幼児が立っていた。
そう、ニールは今、真夜中の麦畑に来ていました。
ついに数ヶ月熟成させ続けた秘蔵の堆肥が日の目を見る日が来たのです。
麦畑はでは、一月ほど前に種まきは終わり、すでに芽吹いています。
備えは万全です。
数ヶ月かけ、真夜中に我が家の畑で順番に豆を育て続けました。
この世界には無い知識だが、連作障害に備えたのだ。
おかげで豆は大量にアイテムボックスに貯まったが、1種類だけというのは拙いですね。
収穫後の豆の柄は土に打ち込み、アイテムボックスから森で採集してきた腐葉土を撒き、土魔法で攪拌し耕してふかふかにした。
その後、表面を圧縮し、一見今までの畑とは変わらないが十分に栄養が詰まった畑を完成させました。
ニール渾身の畑は、他の畑よりも雑草が伸びるのが早く、長男や次男が文句を言っていました。
しかし、彼らもいずれわかるはずです。
今年の実りはいつもの比ではないということを。
こうして、知らない間に土壌改良がなされた畑に種が蒔かれ、芽吹いた麦はすくすくと育ちました。
我が家の畑だけ、村中のどの畑と比べても明らかに大きく育ち、青々としていた
そして、本日晴れて追肥の日を迎えました。
夜ですが。
春蒔きの麦の詳しい追肥時期は正直わかりませんが、最近著しかった成長がおさまったように思います。
おそらく、長年無理をさせ栄養が枯渇していた畑です、多少の土壌改良では十分ではなく、栄養を吸い上げてしまったのだと思います。
そこで、追肥です。
しかし、上から撒いたらすぐにばれるでしょう。
そこで魔法の出番です。
地中に網目様の空間を作り、肥溜めから作られた堆肥を流し込みます。
肥溜めは、寄生虫が怖いので十分に発酵をすすめ、使用前には少し過熱もしてあります。
間違えて空気穴を設置した家の付近では、悪臭がすごいと噂になりましたが、発酵熱でこの冬を快適に過ごしたようですので、罪悪感は感じておりません。
問題は、私怨…もとい、突発的な衝動で畑より大分遠い位置に作ってしまったことですが、これも、魔法で解決できそうでした。
少し難易度が高い魔法でしたが、日ごろの訓練の賜物で桁違いの魔力と魔法制御があれば十分可能でした。
使用したのは、空間魔法の『転移』というものですが、その名の通り、ある空間とある空間を取り替える魔法のようです。
しかし、かなり癖のある魔法のようで、注意が必要です。
まず、範囲は半径数キロ圏内で、転移できる大きさは10tほどですが、これは使用する魔力の大きさに比例するようです。
次に、Aという地点からBという地点に物を転移したとします。
すると、Aは確認しているので問題ありませんが、Bの範囲内に何かがあった場合、それをAに転移させてしまいます。
もし、仮にBの範囲内にオークの右半身だけ入っていたとすると、あら不思議、A地点にオークの右半身だけ現れます。
他にも、Aを自分の右手の上の何も無い空間、Bを向かいで話している人の心臓にセットしたとしましょう。
次の瞬間、話している相手の心臓が自分の手の上に現れるわけですね。
大変危険な魔法です。
まぁ、発動に時間のかかる魔法ですので、そんなに簡単にできることではないですが。
そんなわけで、肥溜めを足の下に『転移』させます。
このままでは、濃度が濃すぎるため、水魔法で希釈しかき混ぜます。
そして、網目状の地下空間と肥溜めをつなげ、空気穴から風魔法で圧縮、押し出します。
適度に行き渡ったところで、接続を外し、肥溜めは、また元に戻します。
畑の地下空間は、モグラのせいにでもなるでしょう。
そうして、念願の肥溜め活用術を誰にも見られることなく実行したのです。
その年の我が家の麦の収穫量は例年の3倍にも上りました。
家族にとって予想外の収穫量は、食卓に大きな変化をもたらしました。
数日に1回だけだったが、食卓にパンが並ぶようになり、スープの中の豆の種類が3種類にも増えたのです。
もちろん、来年に備え、豆は夜な夜な増やしています。
おかげで、アイテムボックスに豆が溢れ、ついでに、麦も手に入れました。
我が家の畑は周辺集落でも注目の的になり、父は毎日質問攻めにあっていました。
なにも知らず困惑する父は、村人達に必死に秘訣を問い質され、本気で困っているようでした。
困惑する父を見て、少しだけ溜飲が下がった気がします。
少しだけですが。
自分の稚拙な文章にそろそろ心が折れそうです。




