第13話 民間療法と初めての調合
さて、あれからしばらく。
弓での狩りにも慣れ、百発百中とはいきませんが、かなり命中するようになりました。
森ではオークの他にもグランドボアやポイズントードなんて魔物も狩りました。
グランドボアの肉はオークの肉よりも硬くて食べにくいですが、干肉にするとなぜか柔らかくて美味しくなりました。
毛皮は丈夫で、地下室用の上着とスリッパ、絨毯や森用の靴や外套を作りました。
ポイズントードは鶏肉のような味でした。
臭みも少なく、串に刺して焼いたら完全に焼き鳥でした。
ポイズントードの舌先の穴から繋がる毒嚢は、毒消し薬を作るときの材料になるようですが、まだ調剤には挑戦していないので今度やってみようと思います。
もちろん、全て手作業の解体です。
命を奪ったのですから、最後まで誠心誠意取り組まないと失礼ってなもんです。
あとは、狩りがてら間伐をしていた結果、アイテムボックスには大量の木材が貯まり、光が差し込むことで、森のいたるところで薬草の採取ができるようになりました。
この前、森の中で偶然、冒険者を見かけたのですが、森の変わりように驚いている様子でした。
この噂が広がると、冒険者が増えてなかなか森には来辛くなるかもしれません。
今のうちに、たくさん採取しておく必要がありそうです。
あとは、果実をいくつか発見しました。
林檎もどき、キウイもどき、オレンジ、モモもどき等。
林檎もどきは見た目と味はそのまま林檎ですが、中身まで真っ赤で果汁はまるで血のような色でした。
キウイもどきは、大きさ味はキウイだが、サルナシのように毛がありません。
オレンジは、まんまオレンジでした。
モモもどきは見た目はモモ、食感は林檎、味はネクタリンのような酸味がありました。
その他、ハーブ代わりになりそうな薬草数種や普通の薬草もありましたが、香辛料の類はみつかりませんでした。
どうにかして、胡椒や山椒、唐辛子、シナモンなどのスパイスが手に入らないでしょうか。
粘土や鉄を多く含む山も見つけ、資材も増えました。
粘土を使うことで、前回は作れなかった甕や壷などの陶器や磁器、その他にレンガもできました。
やはり、魔法を使って作成するにも素材の向き不向きでロスや失敗が出てくるようですね。
その傍らで、メープルシロップやジャガイモは量産を続け、すでに両方とも数トン単位でアイテムボックスに納められています。
どうしてでしょうね、十分集めて、これ以上は不必要だと分っていても、見つけたら収穫せずにはいられません。
長年我が身を苛んだ飢餓感が原因でしょうか。
これ以上ここで暗躍すると、森にある食料になりそうな物が根こそぎ無くなってしまう可能性も否定できないので、冒険者が増えるのも丁度良かったのかもしれませんね。
村に帰ると、我が家に人が集まっていました。
どうやら、次男が寝込んでいるようですよ。
原因は拾い食いによる食中毒のようですね。
自業自得です。
それでも、いつもは役に立たない父を中心にこの草原に自生する、ドゥズ草という野草を探すことになりました。
それにしても、父の必死な顔というのは初めて見ます。
あれが、父親の顔というものでしょうか。
しかし、森を散策したときにもドゥズ草という薬草は見た記憶がありません。
図鑑で検索、図鑑で検索。
ありました、ドゥズ草。
ただの草ですね。
毒はありませんが薬にもならないその草は、若干利尿作用があるようです。
だからといって、その草が効くかと言われたら首を傾げるところで、何らかの偶然が重なって解毒作用があると信じられるようになったのではないでしょうか。
根拠が無い治療。
民間療法ってやつですね。
それなら、脱水にならないように水を飲ませたほうが効果があるってなもんです。
まあ、珍しい物も見られたので、文句も言わず手伝うことにしました。
薬草を出しても良いのですが、出所が問題になりますよね。
最悪の場合は出すことも厭いませんが、おそらくは大丈夫でしょう。
それにしても、まったく外見を伝えずにドゥズ草を探せと言うのは無理があるのではないでしょうか。
やっぱり、何かのときの常備薬は必要ですね。
その後、ドゥズ草をすり潰して水を加えただけの緑色の水を飲まされ続けた次男でしたが、二日後には快方に向かいました。
父の献身的な野草採集のおかげで、集落周りのドゥズ草は駆逐され、あとには役に立たない野草の山だけが我が家に残されました。
おかげで、貧乏特有のもったいない精神が発動し、我が家の食卓にはしばらくドゥズ草のおひたしが出続けました。
半端無い不味さのおひたしには、さすがの食いしん坊次男の食指も動かないようです。
あの事件から数日後。
僕は調合に取り掛かりました。
この世界の薬はざっくり、丸薬、粉末薬、液状薬、軟膏に分けられるようです。
まずはスタンダードな丸薬を作りましょう。
丸薬は薬草や素材を擦り合わせ、丸めて乾燥させた薬です。効果は遅効性で液状薬とくらべると数枚落ちますが、日持ちするため、旅人達が最もよく持ち歩くようです。
現状の手持ち素材で作れるレシピを調べると、回復丸と解毒丸が数種類作れるようですね。
アイテムボックスから乳鉢と乳棒、数種類の薬草を取り出します。
薬草はざっくりと包丁で刻み、乳鉢に放り込むと丹念にすり潰し、練り上げていきます。
繊維が分らなくなるくらいすり潰したら、煮詰めて粘度が増したメープルシロップを加え粒状に丸めていきます。
薬草をすり潰して練り上げただけではボロボロと崩れてしまいますが、メープルシロップで粘度を増すことで上手くまとまるようになり、苦いだけの丸薬が多少は飲みやすくなりました。
それでは、丸薬を自然乾燥している間に、次の粉末薬です。
粉末薬は乾燥させた薬草や素材を擦り合わせ、粉末にした薬です。丸薬に比べて効果は即効性ですが、湿気に弱いため保存が難しいようですね。それさえ気をつけたら、丸薬と同じく日持ちしますが、やはり液状薬と比べたら効果はイマイチのようですが。
まずは、調合に使う薬草を『ドライ』の魔法で乾燥させます。
次は薬研を使ってみましょう。
薬研はよく漢方薬とかを作るときに見るアレですね。
舟形の受け皿の窪みに乾燥した薬草を適度に千切って入れたら、中央に握り手の部分がある円盤状の車輪を前後に往復させることによって、薬剤を押し砕いて細粉にします。
用途の違いとはいえ、乳鉢を使うよりも簡単かつ楽に素材を粉末にできました。
あとは、粉を決まった分量で配合し、一回量に分けるだけですね…。
薬包紙がありません。
とりあえず、今回は保留ですが、そのうち紙を作らなくてはいけないようです。
次は軟膏です。
軟膏は患部に直接塗ったり、布につけて貼ったりするため、それ自体に殺菌効果があるものが多く日持ちするようです。丸薬や粉末薬よりは効果が高いですが、服用ではないため外傷など限定的にしか使えません。
そのため、多くの人がわざわざ軟膏を持ち歩くことは無く、その場で見つけた薬草を揉み、患部に貼り付けたり塗りつけたりするようです。
回復魔法が使える仲間がいない冒険者は、皆一通りの役に立つ薬草を知っているのが常識のようです。
しかし、どうせアイテムボックスがあるのですし、折角なので効果が高い軟膏を作ってしまいましょう。
まずは、丸薬と同じ要領で薬草をすり潰します。
そうしたら、ポイズントードから採れるガマの油に練りこみます。
ハイ、完成。
簡単ですね。
三分クッキングです。
グランドボアの脂でも良いのですが、ポイズントードのガマの油には元々回復作用があるようなので、効果が上昇するようですね。
もっと上位の魔物の脂を使えばそれだけでも効果は違うみたいなので、素材が手に入ったら挑戦するのも悪くないですね。
最後に液状薬です。
これが本日のメインディッシュといっても過言ではありません。
液状薬は薬草や素材を擦り合わせ、魔法水で希釈した薬です。魔法水によって効果が跳ね上がるため、もっとも効果が高いようですね。巷ではポーションなんて呼び方をされることが多いようです。
また液状のため即効性がありますが、逆に水分を含むため腐りやすく長期保存には向かないようです。瓶に保存効果の付与をすることで一ヶ月はもつようになるみたいですが、瓶だけでもかなり高価なため上級の冒険者しか買えないようです。
そのため、基本的には店頭販売されず、短期の依頼では薬師にその場で直接作らせ、少しでも新鮮なものを持って行くようですよ。
また、魔法水が少ないと効果が上がりきらず、多すぎると薄まって効果が減るため、調合が難しいみたいですね。
ただし、効果の高い上級薬や特級薬などは、作ることができる人が少ないですが、それを求める人間は無数にいるため、劣化を抑える秘伝の瓶に入れて保管されるようです。やはり保存期間は瓶の効果に左右されるようですが、伝説級の薬になると使用期限が過ぎているかどうかも分らないものに大枚を叩く貴族もいるようです。
それでは調合開始です。
まずはこれまでと同じく、乳鉢で薬草をすり潰します。
ここに、魔法水と反応させるための触媒となるポイズントードの粘液を加えます。
ポイズントードの粘液はポーションの触媒としては最下層なので、油と同様に上級の触媒に変えるだけで効果が期待できるようになるようです。
それでは、次は魔法水を作ります。
魔法水は水に粉末にした魔石を加え加熱してから冷ましたもののようです。
熱を加えることによって水に魔力が溶け出すようですが、ロスがかなり多いみたいですね。
これなら、直接水に魔力を注いだ方が早いし、確実なような気がします。
ものは試しようです。
はっ。
ほら出来ました。
少しだけ何かが違うような気もしますが、分離もしてないですし、魔石の残骸が無いせいでしょう。
この方が楽なのに、どうしてこんな面倒くさいやり方をするのでしょうか。
それでは、気を取り直して、魔法水ですり潰した薬草の汁を希釈していきます。
あ、ちょっと魔法水入れすぎました。
今度は薬草が多いみたいです。
…また、魔法水入れすぎましたが、もう、回復薬草がなくなりました。
まぁ、解毒用の薬草でもいいか。
……………。
いやー、調合って難しいですね。
目分量ではなかなかうまく行きません。
これは、メモリ付きの道具の開発は急務かもしれませんね。
思いのほか量が多くなってしまいましたが、あとは、小瓶に移していくだけです。
ちょっとしたイレギュラーもありましたが、品質にも問題は無いようです。
上級回復ポーション(高品質)
………ねっ、問題なかったでしょ。
イヤイヤ、おかしいでしょ。
ただの回復ポーションを作ったはずで、しかも、素材自体のグレードも高くなくて、どうやったら、そんなものができあがるってんですか。
何もおかしいことなんて無かったはずですよ。
いったい何が原因なのか調べるために『解析』を使いました。
薬草Aの切れ端(高品質)
摩りおろした薬草B(最高品質)
千切れた薬草C(高品質)
人気の無い薬草D(高品質)
よい香りのする香草A(最高品質)
しおれた野草A(上級品)
ガマの油(最高品質)
聖水(神聖)
なに、これ?
おかしい事だらけじゃないですか。
ことごとく高品質だし、魔法水に至っては聖水になってるし、しかも、品質とかじゃなくて神聖ってなに?
突っ込みたいことは多いですが、今までに作った丸薬、粉末薬、軟膏がことごとく高品質なのを見て言葉がでなくなりました。
普通のクオリティーのものを作ろうと思ったら、品質向上のスキルを外さないといけないみたいですね。
でも、わざわざクオリティーを下げる意味が無いですし…。
…まぁ、いいや。
とりあえず、アイテムボックスに入れておけば劣化は起こらないし。
ばれなきゃいいんです。
綺麗に片づけを行い、証拠隠滅です。
「さあ、今日の夕飯は何にしようかな」
全て無かったことにして、一人地下室で夕飯を作り始めました。
今日も一日何事も無く、平和な一日でした。
相変わらず、文章が単調ですね。
工夫はしようと思うのですが、気がついたら元に戻っていたり。




