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51.結論から言いましょう。

 まず、結論から言いましょう。どうやらなんとかなったようです。

 ユズさんは目を覚ましました。そして、なぜかガッツリと陽さんに抱きついています。


 いきなりユズさんに抱きつかれた陽さんは、その身体を引きはがそうとしていましたが、どうにもうまくいってなさそうです。

 四本足の獏姿ですからね。大きさも先程より縮んで人間大サイズになっていますし~。でも、抱き着く方としてはちょうどいい塩梅だと思います。名付けて、天然抱き枕! ふっかりしていて温かそうです。

 その傍らで朱さんがユズさんにお説教をしていますが、その内容はどれくらい彼女の心に届いていることやら。ほとんど聞き流されているような気がします。


 確か、先程までユズさんは生死をさまよっていたはずなんですけどね~。今はそれが嘘だと思えるほど元気に見えます。

 なんでしょうね、この状況。

 私はもう、ユズさんの側まで行っても大丈夫なんでしょうか。ひとり蚊帳の外に置かれてしまったような気がして、ちょっと淋しいです。


 なんとかユズさんを引きはがした陽さんから許可が出たので、ようやく私もユズさんの側へと移動しました。

「あなたって子は本当に――もう少し反省なさい」

 朱さんのお説教はまだ、継続中のようです。ターゲットを陽さんから虹さんに変えたらしいユズさんの頭に拳骨が降り下ろされています。完全に子供の叱り方ですよね。

 ユズさんから少し離れた場所に避難した陽さんは、気づけば人型へと戻っていました。

「……セリ、この人って元からこういう人?」

 はっきりと疲れの見える顔で陽さんに問われた私は、苦笑いするしかありません。


「痛いよ、おかあさま。滅多にお目にかかれない夢族と夢魔族の獏姿が目の前にあったら、これはもう体感しろってことだと思うんだけど――」

「そういう部分が、反省が足りないのです。先程まで生死をさまよっていたというのに、もう少し自重なさい。そちらの夢族と夢魔族の方達がいなければ、あなたはあのまま死んでいたのですよ!」

「堅いよ、長サマ」

「ユズ!!」


 というようなやり取りが、朱さんとユズさんの間でされています。

 本当にこりないというか、反省が見られないというか。

 心配した身としてはなんとも複雑な気分になる態度のユズさんですが、あれが彼女の平常運転だとも思えます。


 陽さんの代わりに人身御供となっていた虹さんが、ヘロヘロといった様子で陽さんが差し出した手に着地しました。どういう仕様か、驚きなことに翼もないのに虹さんが飛んできました。速度はゆっくり、フラフラしていたことからも、飛んだというよりは浮いていたに近い状況でしたけど。


「何、あの子。恐ろしい……」


 虹さんが陽さんの手の平の上で、怯えた子猫のように毛を逆立ててブルブルと身を震わせています。

 いったい何をされたんでしょう。心なしか、虹さんの顔色が青くなっているように見えました。獏顔なので顕著ではないですが、ね。

「ユズさんは悪い方ではないんですよ。ただ、自分の興味のある事柄に関しては、その執着が極端に激しいですけど。その度合いが、思わず引くほど酷いのは確かですけど――それさえ目をつぶれば良い方です」

 何せ、そのために自分の命すら天秤にかける方ですから。

 私に口出しできるほどの権利はありませんけど、それは止めて欲しいと本気で思います。もう少し自分の命を大切にしてください、と。


「……変人、ね」


 私の微妙に含みのある言葉に対する虹さんの返答は、簡潔かつ的を射た言葉でした。そして――。

「虹ちゃん。ここ、協会だから。変人の巣窟には、やっぱ変人しかいないってことだね~」

 陽さんの言葉が追い討ちをかけました。

 その認識、定着させていいんでしょうか。いえ、さすがに協会に属する方すべてが変人ではないと思います。問題はそれの割合ですが――困ったことに、私には否定できる材料がないです。


 私が悩んでいる間にも、姉妹の間では話が進んでいました。

「陽。用が終わったら、こんな場所さっさとずらかるわよ」

 虹さんは陽さんのポケットにいそいそと潜り込もうとしていましたが、その首根っこを陽さんが掴んで眼前にぶら下げました。

「それは私も賛成だけどね、虹ちゃん。虹ちゃんの用事はまだ、終わってないよ」

 顔を見合せたまま首を傾げた陽さんに、虹さんもまた吊るされたまま器用に首を傾げます。

 その光景だけなら微笑ましいのですが――。


「あたしの用事?」

「そう。虹ちゃんの用事。過去の遺物の探索と破壊。ここにあるだろう全部ね」


 虹さんの姿がドナドナされていく哀れな牛に重なりました。妙な例えですが、そんな雰囲気です。

「……陽。本気なの?」

「本気~」

 にっこりと笑う陽さんの姿が恐ろしく見えます。

 妙な威圧感があるんですよ。どこかで最近これと似た感じを受けたような――と考えて、信さんだと気づきました。笑顔で脅す技術はそこから伝授されたのでしょうか。う~む。

 力の抜けた虹さんの身体が敗北を物語るように、陽さんに吊るされていました。


 そうして、虹さんはふよふよと飛びながらどこかへと行ってしまいました。

 あの~、虹さん一人で協会の敷地内をウロウロしても大丈夫なのでしょうか。思わずそのまま見送ってしまいましたが、少し心配になりました。

「虹ちゃんなら大丈夫だよ~。飛べるくらいまで回復しているから、捕まることはないって」

 虹さんの消えた方を見ていたら、陽さんがそう言ってくれました。姉妹である陽さんがそう言うんですから、大丈夫なんでしょうか。そう思うことにしましょう。


「セリはどこもなんともない?」


 陽さんにそう訊かれて、私は首を傾げます。

 私、ですか?

「私はなんともないですよ? 遠くから様子を見ていただけですから」

 なぜそんなことを訊かれるのでしょうね。それは私が陽さんに言うべき台詞です。

「陽さんはなんともないですか?」

 そう問えば、陽さんが困ったような笑みを浮かべました。

「ちょっと疲れたけど、それだけだよ。むしろ身体の調子は初めより良いくらい……」

 それは何よりですけど、言葉と表情がチグハグに見えます。


「あぁ~、やっぱり無意識」


 ぼそりと陽さんが呟きましたけど、それはどんな意味合いなんでしょう。無意識っていったい――。

 問うように陽さんを見れば、ヒラヒラとなんでもないとでも言うように手を振られました。

「うん。セリはセリのままで良いよ。気っにしな~い」

 そして、なぜか陽さんに頭を撫でられました。

 背伸びをしてでも私の頭を撫でる陽さん。本当になんでしょうね。今は誤魔化されてあげますけど、年下の少女から頭を撫でられる私の姿って、端から見たら奇妙だと思います。かといって、陽さんの手を退けることもできず、私はしばらく彼女に頭を撫でられていました。


 こうして、ユズさんに掛かっていた呪いは完全に解けました。ですが、今日一日くらいは安静にしておく必要があるということで、ユズさんは早々に自室へと引き上げました。

 付き添いはいらないとユズさんは言っていましたが、呪いが解けたとしてもそれによって受けた身体的なダメージが消えるわけではないので、元気そうに見えてもよろけたりしていました。そんなわけで結局、朱さんが強引にユズさんに付き添います。

 朱さんはユズさんを部屋に送り届けて、少し様子を見て大丈夫そうなら、そのまま自分の仕事に戻るそうです。


 この場に残されたのは、私と陽さん。モコモコさん達と彼らに遊ばれている香さんだけですが、まあ、支障はないでしょう。私は私の仕事をするだけです。

 虹ちゃんが戻ってくるまで暇だから~、と陽さんも少し手伝ってくれました。

 好意に甘えてしまいましたが、よかったのでしょうか。陽さんはモコモコさん達の扱いを、妙に心得ていました。香さんのように遊ばれているのではなく、世話をしています。

 そうして就業時間まで何事もなく過ごしました。いまだに陽さんも一緒です。なぜなら虹さんが戻って来ないからです。そして、香さんもまだいます。

 お仕事の方は良かったんでしょうかね、と思わないでもないですが、それは個々人の責任ですから。冷たいかもしれませんが、私は関知しません。香さんがいてくれて助かった部分もありますから、心の中で感謝はしましたけどね。


 交代要因の方も現れて引き継ぎも終わりました。そして、そろそろ帰りましょうというタイミングで明さんが現れます。

 相変わらずですね、明さんは。でも――。


「五体満足そうだな」


 私を見て開口一番にその言葉はないと思います。去り際の台詞といい、無事でいられなかったかもしれない確率はどのくらいあったんですか。

 つい考えなくていいことまで考えてしまいました。


 こうして私が答えの出そうにない物思いにふけっていると、明さんが陽さんに向けて何かを放りました。それをそつなく受け止めた陽さんは、手の中の存在を目にしてため息を吐きます。

「何やってるの、虹ちゃん」

「ごめん、陽~」

 ぐったりとした様子はここを出ていった時よりも弱っているように見えました。

「でも、全部処理してきたから許して」

「もう……」

 陽さんの中では今、色々な思いが交錯しているのでしょう。眠ったのか、気絶したのか。目を閉じてぐったりとしたまま動かなくなった虹さんを、困ったような呆れたような顔で見つめています。


「こんなに消耗する前に私を呼べばよかったのに――困ったお姉ちゃん」


 虹さんは陽さんのポケットへとそっと仕舞われました。

「明。虹ちゃんを回収してきてくれてありがとう」

「ついでだ」

「ついででもありがとう」

 腕を組み苦笑する明さんに、陽さんは笑みを見せます。

「さてと。虹ちゃんも戻ってきたし、帰ろっか」

 陽さんが私の腕を取り、子供のように引っ張ります。

「そうですね」

 妙に子供っぽい態度の陽さんの姿に、私の顔には苦笑が浮かびます。


 ふと思いました。帰れる家があるって良いことだな~って。そこに帰っても良いと思える、安心して帰れる家があるのはとても素敵なことです。

 帰るために、モコモコさん達に挨拶します。

「また明日」

 そう、約束ができる。

 それはとても尊いものだと思えました。


「帰りましょうか、明さん」

 なんだかうれしくて、笑みの浮かんだ顔を明さんに向ければ、明さんからも笑みが返されました。霞んだ美形顔でも、十分に麗しい笑顔です。

「ああ、帰るか」

 普段なら明さんの笑みも観賞用と流せるのですが、どうしてでしょうね。なんだか今日はドキリとしました。

 歩きながら、なんだかサワサワする胸の辺りを軽く押さえます。

 本当にどうしたんでしょうね、私。


 少し経てば落ち着きましたので、ま、いっかで済ませました。私が自分のことに気を取られている間に、明さんと陽さんは目で会話していたのですが、それは私の預かり知らぬ範囲の事柄です。

 今日は色々ありましたが、なんとか無事に解決できたようでよかったです。終わり良ければ総て良し、ですよね~。




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