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マダム ロジータ  作者: 竹宮 潤


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2/5

ジャッキー その2

 昨夜より、ちょっと遅い時間まで待ってから、酒場のドアを押す。今日は誰もこっちを見ないし、ざわめきが止まったりしない。カウンターの中には、マダムの姿はなかった。

「馬の兄ちゃん、ここへ来な。」

 入り口わきのテーブルに今日もいる、耳の先がちぎれた爺さんが呼んだ。ほとんど何も考えず、そのテーブルに着く。マダムがいないんじゃ、どこに座っても一緒だ。

「おめえさん、昨夜は初対面のくせに、マダムと親し気にしゃべりやがって、こンの。」

 いきなり頭をはたかれた。痛くはないけど、ちょっとびっくりする。

「何すんの、ゴンザレス爺! 若いのにからむんじゃないよ、まったく。いい年してみっともないよ。マダムとは長年のつきあいなんでしょ。」

 テーブル席を周っているウエイトレスが、ぽっちゃりした顔をちょっと怒らせて言う。

「ここで長年、安酒(ビール)飲んでるだけのつきあいだけどな。」

 奥の方で誰かが言って、「ちげえねぇ」と合いの手が入り、どっと笑い声が上がる。つられて少し苦笑していると、近づいてきたウエイトレスが、小声で言った。

「マダムがね、今夜は来られないから、あんたが来たら渡してくれって。」

 四つ折りにした真っ白な紙だった。今時市長の公印を押した文書だって、こんないい紙を使ってない。開くときれいな文字が数行並んでいた。


「あなたのお兄さんに心当たりがあります。

ただ私の勘違いかもしれないから、確かめる時間をください。

あなたのお名前と連絡先を、ミレーヌに伝えておいて。

                               ロジータ」


 普段文書配達の仕事をしているから、読み書きはお手の物だ。手紙の余白に、ミレーヌから借りたペンで名前を書く。その後でふと思いついて、荷物の中から小さなカードを出した。仕事で使っている配達済み証明のカードだ。最初からエルパ市役所配達部の住所と、自分の名前が印刷されている。それをミレーヌに渡した。

「ジャッキーね。確かに頼まれたわ。」

「それから、…捜してる相手の名はエミリオだ。」

「わかった。」

 そういうとミレーヌはカウンターに向かって、

「テキーラ一杯、ご注文。」

と、声をはりあげた。

 若い男はその一杯を飲み干すと、出て行った。



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