ジャッキー その2
昨夜より、ちょっと遅い時間まで待ってから、酒場のドアを押す。今日は誰もこっちを見ないし、ざわめきが止まったりしない。カウンターの中には、マダムの姿はなかった。
「馬の兄ちゃん、ここへ来な。」
入り口わきのテーブルに今日もいる、耳の先がちぎれた爺さんが呼んだ。ほとんど何も考えず、そのテーブルに着く。マダムがいないんじゃ、どこに座っても一緒だ。
「おめえさん、昨夜は初対面のくせに、マダムと親し気にしゃべりやがって、こンの。」
いきなり頭をはたかれた。痛くはないけど、ちょっとびっくりする。
「何すんの、ゴンザレス爺! 若いのにからむんじゃないよ、まったく。いい年してみっともないよ。マダムとは長年のつきあいなんでしょ。」
テーブル席を周っているウエイトレスが、ぽっちゃりした顔をちょっと怒らせて言う。
「ここで長年、安酒飲んでるだけのつきあいだけどな。」
奥の方で誰かが言って、「ちげえねぇ」と合いの手が入り、どっと笑い声が上がる。つられて少し苦笑していると、近づいてきたウエイトレスが、小声で言った。
「マダムがね、今夜は来られないから、あんたが来たら渡してくれって。」
四つ折りにした真っ白な紙だった。今時市長の公印を押した文書だって、こんないい紙を使ってない。開くときれいな文字が数行並んでいた。
「あなたのお兄さんに心当たりがあります。
ただ私の勘違いかもしれないから、確かめる時間をください。
あなたのお名前と連絡先を、ミレーヌに伝えておいて。
ロジータ」
普段文書配達の仕事をしているから、読み書きはお手の物だ。手紙の余白に、ミレーヌから借りたペンで名前を書く。その後でふと思いついて、荷物の中から小さなカードを出した。仕事で使っている配達済み証明のカードだ。最初からエルパ市役所配達部の住所と、自分の名前が印刷されている。それをミレーヌに渡した。
「ジャッキーね。確かに頼まれたわ。」
「それから、…捜してる相手の名はエミリオだ。」
「わかった。」
そういうとミレーヌはカウンターに向かって、
「テキーラ一杯、ご注文。」
と、声をはりあげた。
若い男はその一杯を飲み干すと、出て行った。




