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ガラスの推理~学生作家セリーナ・ウィンターの推理と学生探偵クインシー・サイクラードの検証  作者: ful-fil
ダイヤモンド王の娘と演劇の舞台

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ダイヤモンド・プリンセス

一話ずつ読み切り形式にする予定でしたが、第四話の構想が膨らみまして、長くなりそうなので分割する方がいいかなと思い、連載形式に変更致しました。読み切り短編を期待して開いた方には申し訳ございません。第二章という形で、毎週金曜日正午に一話ずつ投稿します。タイトルも一部表記を漢字からカタカナに変更しました。どうぞよろしくお願い致します。

 アーチボルド・レイヴンズは王国が生んだ『怪物』だった。


 牧師の三男として生まれたアーチボルドは病弱だったため、名門私立校の教育についていけるとは思われず、入学することはなかった。

 しかし彼は内側に想像を絶する反逆精神を秘めていた。


 成長するとともに健康になった彼はまず経済界で頭角を現した。

 王国の対外進出政策の波に乗り、暗黒大陸の金鉱山を買収、鉱山経営に着手した。

 競合する鉱山を買収、更に買収……買収に買収を重ねて、アーチボルドは暗黒大陸南部の『鉱山王』と呼ばれるようになった。

 彼が買収したのは金鉱山だけではない。

 ダイヤモンド鉱山をも買収した。

 暗黒大陸でのダイヤモンド産出量は世界のダイヤモンドの90%に及んだ。

 そのダイヤモンドを彼は母国の王都に集めた。

 世界のダイヤモンドの90%を彼が手元に集め、彼が値段を決める。

 ダイヤモンドを売買できるのは彼が認めた相手だけ。

 値段も流通量も取引相手も彼が決める。

 この仕組み『ダイヤモンド・シンジケート』は彼に『ダイヤモンド王』の異名を与えた。

 『鉱山王』と『ダイヤモンド王』、二つの異名を引っ提げて、彼は莫大な富を背景に、暗黒大陸の支配に乗り出した。

 一時は植民地の首相にまで成り上がったが、独断で起こした隣国への侵略行為が裏目に出て、失脚、退任に追い込まれた。


 だがアーチボルドはそのくらいで折れたりはしない。

 彼の脳内にはまだ壮大な計画がある。

 暗黒大陸を北の端から南の端まで鉄道で貫くという壮大な計画が。

 大陸でかき集めた資源と富を、鉄道という大動脈で運び出すのだ。

 全ての富は王国に!


「暗黒大陸の地図を塗り替えてやる。神は我ら王国が世界を支配することをお望みだ!」


 もちろん神の意志など介在しない。

 誇大妄想の一種と言ってしまえばそこまでだ。

 しかし彼には人を動かす力があった。

 どんな大風呂敷を広げても、彼ならばそれを実現できるのかもしれない、と誰もが思ってしまう。

 そして人々は彼を支持し、彼についていこうとするのだ。


 彼は政治的発言力を利用し、徹底した自国優先主義を貫いた。

 彼にとって世界は王国のためにある。

 植民地は資源の採集地にすぎない。

 全ての富は本国に送られ、彼と彼の友人たちを潤す。

 肌の色の違う現地人を彼は対等な人間とは考えない。

 徹底した差別と搾取は恨みを買い、たくさんの敵を生んだ。

 彼は決して法を犯さない。

 倫理的には非道でも、現行法の範囲で他民族を踏みにじる侵略者、帝国主義の悪魔、多方面から恨まれ呪われる悪のカリスマ……それがアーチボルド・レイヴンズ。


 そんな彼にもかつては妻がいて、今も娘が一人いた。

 四方八方敵だらけ、いつ命を狙われてもおかしくないアーチボルドは大切な一人娘を安全な名門私立女子校に入学……させなかった。


「俺も名門校なんか行かなかった。俺の娘にも必要ない。鉱山王と呼ばれていても俺は貴族じゃないからな」


 アーチボルド・レイヴンズの娘は当時設立されたばかりの王立学園に入学した。

 ダイヤモンド王の娘、ヴィヴィアン・レイヴンズ。

 通称:ダイヤモンド・プリンセス。

 現在は高等部二年生、十七歳。

 見た目は天使のように美しく愛らしい、そんな彼女の性格は……。


 ……父親にそっくりだった。



※



 セリーナ・ウィンターの朝は静かに始まる。

 朝食のテーブルに並ぶのは毎日同じ、紅茶とロールパンとゆで卵と温野菜、それに今朝はリンゴが付いている。

 メイドが用意してくれる朝食は変化が乏しいけれど、文句をつけたことはない。

 家族が朝食の席に姿を見せないのも仕方がないことなのだ。

 セリーナの母は舞台女優、父は著名な脚本家。

 劇場の仕事は夕方に始まって深夜まで続く。

 共に夜遅くまで仕事をしているのだから、朝起きられるはずがない。


 それでもセリーナが王立学園に入学した当初は、両親も頑張って『いってらっしゃい』の挨拶をしようと努力してくれていたけれど。

 無理だと悟るのにそれほど時間はかからなかった。

 親子の触れ合いは夕方、セリーナが帰宅して、母が出勤するまでの短い間に!

 そう決めてしまえばそれなりに家の中は回っていく。

 すれ違い生活は少し寂しいけれど、住み込みのメイドが世話をしてくれるし、家庭内に愛はあるとセリーナは感じている。

 人格形成に失敗はしていない、愛情深く育てられ、まっすぐに育った、と自分では思っている。

 少なくとも王立学園で散見される強烈な個性の持ち主たちに比べれば……スピリチュアル大好きな男爵令嬢とか、信ぴょう性の低い記事を書き飛ばす新聞部の部長とか、その友人……。

 セリーナは頭を振って不愉快な連想を散らした。

 朝からクインシー・サイクラードのことなんか思い出したくない。


 紅茶を飲みながら、セリーナは新聞を眺める。

 読んでいるのは昨日の夕刊だ。

 ウィンター家の大人は夜型なので朝刊を読む習慣がない。

 第一面に載っている記事には、学園でも一際目立つ個性的な少女、その関係者の名前があった。


「何か面白そうな記事がありましたか?」

「クラスメイトのお父さんの記事が載ってるけど……」


 メイドの気軽な問いかけにセリーナは言葉を濁す。

 果たしてこの記事を面白いと言えるかどうか。


『選挙の争点は戦争継続か停戦か! 保守党は主戦派一色、自由党は分裂状態。主戦派の象徴的存在・植民地の英雄アーチボルド・レイヴンズ氏の動向は?』


 ウィンター家は政治に縁遠い。

 だがクラスメイトの父親だと思うと多少は興味が湧く。

 植民地で始まった戦争を継続するかどうかが問題になっているようだが……。


「ねえ、マーサ。戦争なんてしなくて済むならしない方がいいと思わない?」

「そりゃそうですよ、お嬢様。大勢の人が命を落とすようなことはやらない方がいいに決まってます」

「なのにやりたがる人がいるのよね」

「政治家はみんな男ですからね。男なんてしょうもない生き物なんですよ」


 メイドは政治家をばっさりと切って捨てた。

 偏見が混じっているかもしれないけど説得力がある、とセリーナは思った。

 紙面からこちらを睥睨する「しょうもない生き物」の写真、その鋭い眼光は人間というよりも獲物を見据える虎を思わせた。



アーチボルド・レイヴンズにはモデルにした人物がいますが、アーチボルド自体は架空の人物であり、この作品はフィクションです。

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