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第4話 太陽の宮廷は、あたたかく息苦しい

 夕刻、セレネの私室に、和合祭の古い儀礼記録が届けられた。


 古式の写しは、昨夜読んだ簡略版よりもずっと長い。

 太陽神の名だけでなく、月神の働きも細かく記されている。

 夜を守ること。

 潮を導くこと。

 迷う旅人に道を示すこと。

 夢の中で、死者と生者の境をやわらげること。


 セレネは、その一節を見つけた時、思わず指先を止めた。

 これは、月国の神話に近い。


 もちろん、太陽国式の文体に直されてはいる。

 太陽(リザーブ)の光を受けた(ティア)が、という前置きはある。

 それでも、今の簡略版よりずっと、月神の役割が残っていた。


 なぜ省かれたのか。おそらく、悪意だけではない。

 時間の短縮。

 儀礼の簡略化。

 太陽国にとって必要な部分だけが残され、月国にとって大切な部分が薄められていった。

 人は、自分にとって当然のものを残し、遠いものから省いていくものだ。


 ※


 今日の昼餐も、そうだった。


 王妃への挨拶を終えた後、セレネは王宮の南庭に面した小広間へ案内された。

 高い窓から昼の光が惜しみなく入り、白い壁には金の蔦模様が走っている。卓上には、太陽国の黄金の花と、月国から贈られた白い花が交互に飾られていた。


 それだけ見れば、二国の調和を祝う、穏やかな席に見えた。

 だが、席に着いた瞬間から、セレネは理解していた。

 ここは試される場だと。


 招かれていたのは、王族に近い貴婦人たちだった。

 公爵夫人、侯爵夫人、伯爵夫人、老女官、大神官家の縁者。

 女たちの笑みは柔らかく、声は穏やかで、仕草は優雅だった。


 けれど、誰一人として、セレネをただの新婦として見てはいない。


 月国から来た王太子妃。

 アレクシスに嫁いだ姫。

 月神の面影はあるが、女王となる姉ほど強くはない第二王女。

 そのすべてが、会話の端々で薄く光っていた。


「王太子妃殿下は、昨夜はよくお休みになれましたか?」

 最初に声を掛けてきたのは、年配の公爵夫人だった。

 笑顔はあくまで優しい。

「ありがとうございます。少し緊張していたようで、深くは眠れませんでした」

「あら、まあ。初々しいこと」

 周囲に、控えめな笑いが広がる。

 セレネも微笑んだ。

「婚礼の翌朝から、王太子妃としての務めをいただけるのですから、緊張するのは当然かと存じます」

 公爵夫人の目が、少し細くなる。

 初々しい花嫁として扱われた言葉を、セレネは役目の話へ戻した。

「ご立派なお覚悟ですわ」

「月国でも、そのように育てられました」

「まあ、月国の姫君は皆様、そこまでお強いのですか」

「強いかどうかはわかりません。ただ、王族が神前と人前で乱れれば、国が乱れたように見えますので」

 沈黙は、一瞬だけだった。


 すぐに王妃が穏やかに笑う。

「セレネは、朝の礼拝も見事だったと聞いています」

「恐れ入ります」

「太陽国式は、月国式とは細部が異なるでしょうに」

「はい。ですから、学ぶことが多くございます」


 セレネは、その言い方を選んだ。

 違う。

 間違っている。

 不慣れだ。

 そうではなく、学ぶことが多い。

 太陽国の礼を受け入れつつ、月国の礼を下に置かないための言葉だった。


 伯爵夫人の一人が、白い指で杯を持ち上げながら言う。

「王太子妃殿下は、本当に美しい青い瞳をお持ちですこと。月国では、やはり青い瞳の姫君が尊ばれるのでしょう?」

「はい。月神の面影とされております」

「お姉様は、それはそれは月神に似ておられるとか」

「姉は、月国の誰もが認める方です」

 セレネは素直に答えた。

 そこに劣等感を混ぜる必要はない。

 姉は、たしかに月神の面影が強い。

 セレネ自身も、そのことを誇りに思っている。

「では、王太子妃殿下は」

 伯爵夫人は、そこで言葉を柔らかく切った。

「月国では、少しばかり自由なお立場でいらしたのかしら」

 自由。

 便利な言葉だ。

 王位を継がない第二王女。

 女王となる姉ほど強い象徴を持たない姫。

 だからこそ、他国へ嫁がせることができた姫。

 そう言いたいのだろう。

 セレネは微笑みを保った。

「姉には、月国を守る務めがございます。私には、月国の外で月国を守る務めがございました」

 伯爵夫人の笑みが、ほんの少し止まる。

「外で、でございますか」

「はい。国は、王座の上だけで守られるものではありませんから」

 少し強い返しになったかもしれない。

 だが、撤回はしない。


 月国に残る姉と、太陽国へ嫁いだ自分。

 どちらが上か下かではない。

 役目が違うだけだ。


 王妃が、静かに頷いた。

「よいお考えです」

 その一言で、場の空気が少し和らいだ。

 王妃が認めた以上、他の貴婦人たちはそれ以上踏み込めない。

 だが、昼餐はまだ続いた。

 料理が運ばれてくる。

 太陽国の料理は、月国のものより香草と油を多く使う。焼いた肉に金色のソースがかけられ、丸いパンには太陽の印が押されていた。

「お口に合いまして?」

 侯爵夫人が尋ねる。

「はい。月国とは香りの使い方が違って、新鮮です」

「まあ、お優しい言い方」

「本当にそう思っております。月国では、夜に食べても重くならないものが好まれます。太陽国のお料理は、昼に力をいただくものなのですね」

 公爵夫人が、今度は素直に感心したように言った。

「たしかに、そう言われればその通りですわ」

「月と太陽の国ですもの。食卓にも違いが出るのでしょう」

 セレネはそう答えて、少しだけ杯に口をつけた。

 会話は、柔らかく流れていく。

 衣装の話。

 月国の真珠の話。

 太陽国の祭儀の話。

 王宮の庭の花の話。


 どれも穏やかだ。

 けれど、時折、針が混じる。


「王太子殿下は、昔から大変ご聡明でいらっしゃいました」

「先の王太子殿下とは、また違った御気質で」

「金の瞳をお持ちですもの。太陽神は、殿下をお選びになったのでしょう」

「ただ、第二王子殿下も、たいそうご立派な方でいらっしゃいますから」


 アレクシスの話になると、必ず彼の二人の兄の影が差す。

 誰もはっきりとは言わない。

 だが、誰もが知っている。

 先の王太子が亡くなった。

 第二王子を飛ばして、第三王子だったアレクシスが王太子になった。

 理由は、彼の金眼。

 太陽神の面影。


 セレネは相槌を打ちながら、彼女たちの言葉の位置を一つずつ確かめていった。


 この夫人は王妃寄り。

 この夫人は第二王子派に近い。

 この伯爵夫人はただの噂好き。

 この侯爵夫人は、昨夜の老侯爵と同じ家の者。


 月国で学んだことは、役に立っている。

 笑顔の種類、言葉の置き方、他人の名前を出す時の声の温度。

 宮廷で人を読む時、強い言葉よりも、弱い沈黙の方が多くを語る。


「王太子妃殿下は」

 先ほどの侯爵夫人が、ふと声を落とした。

「アレクシス殿下とは、婚礼までお会いにならなかったとか」

「はい。婚礼の日に顔合わせとなりました」

「では、ご不安もおありでしたでしょう」

「ええ。ですが、王族の婚姻では珍しいことではございません」

 セレネは穏やかに答えた。

「それに、私は太陽国の王太子妃となるために参りました。アレクシス殿下が王太子であられる以上、私の務めは変わりません」

 言った瞬間、自分でも少し冷たい返答だと思った。

 だが、それが事実だった。


 亡くなった王子からアレクシスに婚姻相手が変わったことを、セレネは理屈として受け入れている。

 王位継承者が変われば、婚姻相手も変わる。

 国と国の婚姻、特に神話婚とは、そういうものだ。


 ただ、人の心は、その理屈だけでは終わらない。


「王族とは、お寂しいものですわね」

 夫人の言葉を、セレネは否定しなかった。

「ですが、寂しさを理由に務めを放り出せるほど、軽い冠ではありませんので」

 その言葉に、場が静まった。


 王妃が、手元の杯を置く。

 音はほとんどしなかったのに、その動作だけで周囲の視線が王妃へ集まる。


「セレネ」

「はい、王妃陛下」

「午後の打ち合わせは、無理のない範囲でなさい。和合祭は重要ですが、あなたはこの国へ嫁いだばかりです」

「お気遣いありがとうございます」

「太陽国の者は、時折、太陽の下に立つことを当然と思いすぎます」

 王妃は、穏やかに言った。

「月から来た姫には、少し眩しい日もあるでしょう」


 その言葉は、セレネを含めた、この場にいる者に向けたものでもあった。

 貴婦人たちは、すぐに笑みを戻す。

 けれど、その笑みに先ほどまでの刺は少し薄れた。


 セレネは深く礼を取った。

「ご配慮、痛み入ります」


 昼餐は、その後、庭園の花や王都で流行している菓子の話題へ移った。

 表面上は、和やかに終わったと言ってよかった。

 だが、セレネは知っている。

 これは始まりにすぎない。


 太陽国の宮廷は、明るく、華やかで、そして息苦しい。

 誰もが彼女を歓迎している。

 しかしその歓迎は、彼女が正しい場所に、正しい形で、正しい表情で立っている限りにおいてのものだった。


 ひとつ間違えれば、月国の姫はやはり太陽国には馴染まないと言われる。

 逆に太陽国へ馴染みすぎれば、月国を捨てたと言われる。


 王妃が言った通りだ。

 どちらか一方だけを選べば、必ずもう一方から責められる。


 ならば、簡単に選んではならない。


 ※


 昼餐の後、セレネは王宮の庭を案内された。


 付き添いは女官長と侍女二人。

 アレクシスは午後の会議に出席しているため、ここにはいない。


 太陽国の庭は、光を受けるための庭だった。

 低く刈り込まれた木々。

 黄金色の花。

 白い石の小道。

 中央には、太陽神の円環をかたどった噴水がある。


 月国の庭が水路と影を大切にするなら、太陽国の庭は昼の光の中でこそ完成する。

 美しい。

 けれど、夜になればどんな顔をするのだろう。


「こちらは王族の皆様がよく使われる庭でございます」

 女官長が説明する。

 セレネは噴水のそばで足を止めた。

「女官長、あの花は?」

 セレネの視線の先に、低い植え込みがあった。

 白い小さな花が、金色の花々の間に控えめに咲いている。

 昼の光の中では目立たない。

 けれど、夜に見ればきっと淡く浮かび上がるだろう。

「あれは、月国由来の花でございます」

「月国から?」

「はい。かつて神話婚の際に贈られたものと聞いております」

 セレネは、その花の前に立った。


 太陽国の庭に根付いた、月国の花。

 金の光の中で目立たず、それでも消えずに咲いている。


 その姿に、少しだけ胸が痛くなった。

「では、和合祭の後にでも、この花を月国の使節に見せて差し上げたいですね」

 女官長が瞬きした。

「月国の使節に、でございますか」

「はい。太陽国の庭に、月国の花が大切に残されていると知れば、喜ぶと思います」

「……王太子妃殿下は、細やかなところにお気づきになりますね」

「細やかでしょうか」

「多くの方は、庭の中心にある噴水をご覧になります」

 女官長は、少しだけ微笑んだ。

「月国の姫君は、影の花をご覧になるのですね」


 侍女の一人が小さく息を呑んだ。

 失礼とも取れる言い方だったからだろう。

 だが、女官長の声に悪意はなかった。

 むしろ、初めて少しだけ素の感想を漏らしたように聞こえた。


 セレネは白い花を見つめたまま言う。

「影にあるものも、国を作りますから」

 女官長は、今度こそはっきりと頭を下げた。

「覚えておきます、王太子妃殿下」


 ※


 古式の写しに視線を戻し、セレネは月神の一節に印をつけた。


 和合祭で復活させたい一節。

 月国使節への配慮としてだけでなく、この婚姻の意味を示すために必要な一節。


 扉が叩かれた。

「はい」

 入ってきた侍女が礼を取る。

「王太子殿下がお見えです」

 アレクシスが、この時間に来る理由は何だろう。

 また書類だろうか。

「お通ししてください」


 ほどなくして、アレクシスが入ってきた。

 昼間より少しだけ表情が硬い。午後の会議で何かあったのかもしれない。

「お時間をいただいても?」

「もちろんです」

 セレネは席を立とうとしたが、アレクシスが手で制した。

「そのままで」

 彼は机の上の儀礼記録に目を向ける。

「読んでいたのですか」

「はい。古式には、月神の一節がかなり残っています」

「ユリアンから聞きました。大神官も、和合祭で古式の一部を戻すことに同意しました」

「本当ですか」

 思わず、声が明るくなった。

 アレクシスは、その反応にわずかに目を瞬かせる。

 セレネはすぐに表情を整えた。

「失礼いたしました。月国使節も安堵すると思います」

「貴女が指摘したからです」

「私は、必要だと思ったことを申し上げただけです」

「その必要に、私たちが気づいていなかった」


 アレクシスは、机の向こうに立ったまま言った。

「礼を言います」

 礼。

 その言葉に、セレネは少し驚いた。

「殿下が私に、ですか」

「おかしいですか」

「いいえ。ただ、少し意外でした」

「私も、貴女に意外なことばかり言われています」

 淡々とした声だった。

 だが、昨日までより、少しだけ会話になっている気がした。


 セレネは、古式の写しを一枚差し出す。


「こちらの一節です。月神が夜を守るくだり。和合祭に戻すなら、第二聖句の後が自然かと思います」

 アレクシスは紙を受け取り、目を通した。


 金の瞳が、文字を追って動く。

 表情は相変わらず読みにくい。

 けれど、彼はきちんと読んでいる。

 ただ形だけ受け取っているのではない。


「悪くありません」

「ありがとうございます」

「ただ、反対する者はいるでしょう。月を立てすぎる、と」

「和合祭なのに月を立てることが問題になるなら、祭の名を変えるべきです」

 言ってから、セレネは口を閉じた。


 少し強すぎた。

 そう思ったのに、アレクシスは怒らなかった。

 むしろ、ほんの僅かだけ口元を動かした。

 笑った、のだろうか。

 あまりにも小さくて、確信は持てない。


「それを大神官の前で言わないでください」

「言いません。今は。必要になれば、言うかもしれませんけれど」


 アレクシスは、紙から視線を上げた。

 金の瞳が、まっすぐにセレネを見る。

「貴女は、思っていたよりもずっと」

 そこで彼は言葉を止めた。

「ずっと?」

「いえ」

 まただ。

 彼は時々、何かを言いかけて、飲み込む。


 セレネは、それを追及しなかった。

 今の二人の距離では、踏み込みすぎになる。


「殿下」

「何ですか」

「今日の昼餐で、第二王子殿下のお名前が何度か出ました」

 アレクシスの表情が、ほんの少し冷える。

「そうですか」

「私が不用意に触れるべきことではないと承知しております。ですが、王太子妃として、どの程度把握しておくべきかを知りたいのです」


 アレクシスは少しばかり考える仕草を見せ、言葉を継いだ。

「第二王子は私の実兄です。名はイリアス」

「はい」

「優れた方です。人格も、能力も」

 その声には、偽りがなかった。

 同時に、痛みもあった。

「私よりも、王太子に相応しいと考える者がいる」

 セレネは黙って聞いた。

「私は第三王子でした。テオドロス兄上が亡くなり、次に王太子となるべきは、本来なら第二王子であるイリアス兄上だった。ですが、私には金眼があった」


 太陽神の面影。

 王権神授の証。

 セレネは、左手首の銀十字に触れた。

「殿下ご自身は、どうお考えなのですか」

「考える必要はありません」

 アレクシスは即答した。

「王と神官会議が決めたことです。私は従うだけです」

 その答えは、正しい。

 あまりにも正しい。

 だから、痛々しい。


「そうですか」

 セレネはそれ以上踏み込まなかった。

 踏み込めなかった、と言う方が正しい。

 アレクシスは、紙を机に戻した。

「昼餐で何か言われたのですか」

「いくつか」

「不快なことを?」

「宮廷の会話です。すべてを不快と呼べば、会話が成り立ちません」

「貴女は、そうやって処理するのですね」

「殿下も、そうではありませんか」


 アレクシスは黙った。

 セレネは、少しだけ言葉を柔らかくする。

「私は、妃として処理できることは処理します。ですが、何も感じないわけではありません」


 アレクシスの視線が、わずかに動いた。

「……そうですか」

「はい」


 沈黙が落ちた。

 昨日の沈黙よりは、少しだけ重くない。

 けれど、近いわけでもない。


 アレクシスは、やがて言った。

「明日の午前、和合祭の通し確認があります。私も同席します」

「承知いたしました」

「無理はしないように」

 また、その言葉。

 セレネは少しだけ微笑んだ。

「殿下は、私が無理をしているように見えるのですか」

「昨夜、ほとんど寝ていない人間は、無理をしていると判断されます」

「今夜は眠ります」

「約束できますか」


 約束。

 その言い方が少しだけ奇妙で、セレネは目を瞬かせた。


「努力します」

「努力ではなく」


 アレクシスは言いかけて、そこで口を閉じた。

 まるで、自分が何を言おうとしたのかに気づいてしまったようだった。


「……いえ。お休みください」

「はい。殿下も」

 セレネは礼を取る。

「お休みなさいませ、王太子殿下」

 アレクシスは扉へ向かった。

 だが、出る前に一度だけ振り返る。


「王太子妃」

「はい」

「今日の昼餐で言われたことを、すべて一人で処理する必要はありません」

 セレネは、息を止めた。


 それは慰めというには硬すぎた。

 夫の優しさというには、まだ遠すぎた。

 けれど、公の場の言葉ではなかった。


「……ありがとうございます」

 セレネがそう答えると、アレクシスは短く頷いた。

 そして、今度こそ部屋を出ていった。


 扉が閉まる。


 セレネはしばらく、その場に立っていた。

 一人で処理する必要はない。

 それは、契約にあっただろうか。

 公の場で理想の夫婦を演じるために必要な言葉だっただろうか。


 わからない。

 わからないから、困る。


 セレネは机の上の古式写しに目を落とした。

 月神ティアが夜を守る一節。

 省かれ、薄められ、それでも紙の中に残っていた言葉。


 太陽国の宮廷は眩しい。

 その光の中で、月の影は見えにくい。


 けれど、消えてはいない。


 セレネは燭台の火を少し落とし、椅子に座り直した。

 今夜は眠ると約束した。

 約束、ではなかったかもしれない。

 少なくとも、努力すると答えた。


 けれど、その前に一つだけ。

 古式の一節を、もう一度だけ書き写しておきたかった。


 太陽国の王宮の片隅で、月国の第二王女は静かに筆を取る。


 まだ、自分の居場所はない。

 けれど、守るべき言葉はある。

 そして、その言葉に耳を傾けてくれる人が、少なくとも一人はいる。


 それだけで、この眩しすぎる宮廷の夜を越えるには、十分な気がした。

▼おまけ

この大陸には十二の国々がひしめき合っています。

『利子は薔薇の名で』に登場する、森と水晶の小国ヴァルデンもその一つです。


月国と太陽国は小国ですが、

お互いに「太陽神と月神は夫婦で、月はその子である」という神話により

王権の正統性を強化し、大国から国を守り続けていました。

基本的に『神話婚』は数百年に一度、国家神話を更新する婚姻として行われます。

通常、王族は国内外の王族や有力貴族と婚姻を結びます。神話婚以外では、王族は月国・太陽国で婚姻は結びません。

貴族単位ではあるかもしれませんね。



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