表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/19

第2話 理想の夫婦を演じましょう

 祝宴は、婚礼の儀よりも長く感じられた。


 大聖堂で交わされた誓いは、神の前に置かれるものだった。

 だが、王宮の大広間で続く祝宴は、人の目に晒されるものだった。


 高い天井からは金の燭台が吊るされ、磨き上げられた床には炎の揺らめきがいくつも映っている。壁には太陽国の王家の紋章と、月国から持ち込まれた銀の織物が並べられ、二つの国が調和しているように飾り立てられていた。

 誰もが笑っていた。

 誰もが祝福を口にした。

 太陽神と月神の和合を、二国の未来を、若き王太子夫妻の幸福を。


 セレネは、そのすべてに微笑んで応えた。


「王太子妃殿下、本日はまことにおめでとうございます」

「月国の姫君をお迎えできましたこと、我が国の喜びでございます」

「どうぞ末永く、我らが王太子殿下をお支えくださいませ」


 差し出される言葉に、礼を返す。

 杯を掲げられれば、わずかに頭を下げる。

 太陽国式の祝辞に対しては、覚えた通りの返礼を述べる。

 月国の使節が近づけば、祖国の礼で静かに応じる。


 間違えないように。

 偏らないように。

 月国の姫として軽んじられず、太陽国の妃として拒まれないように。


 その間、アレクシスは常に隣にいた。

 必要な時には手を差し出し、必要な時には一歩前に立ち、必要な時には彼女の発言を待った。

 彼はセレネを一度も軽んじなかった。

 紹介の順番を誤らず、会話を遮らず、月国の使節の前では彼女の立場を尊重した。

 その振る舞いは、夫として欠点がないように見えた。


 ただし、そこに私情はなかった。


 彼の手は、正しい時にだけ差し出される。

 彼の視線は、必要な時にだけこちらを向く。

 彼の微笑は、周囲へ向けられた王太子のものだった。


 優しくはない。

 けれど、ぞんざいでもない。


 セレネは、それを何度も自分の中で確かめた。


 この人は、セレネを侮っているわけではない。

 ただ、セレネを妻として迎えてはいないのだ。

 月国から来た王太子妃として、太陽国に必要な形で扱っているだけ。


 それは、むしろ誠実なのかもしれなかった。

 曖昧な期待を持たせない。

 甘い言葉で隠さない。

 この婚姻が何のためのものなのか、彼は最初から間違えていない。


 だからこそ、少しだけ胸が痛んだ。


 甘くてふわふわした恋愛がしたかったわけではない。

 お互いに、初対面なのだ。

 夫となる人に一目で愛されるなどと、夢見ていたわけでもない。

 ただ、人は理屈だけで息をするわけではないのだと、セレネは思う。

 王族として納得していることと、花嫁として何も傷つかないことは、同じではない。


「王太子妃殿下」


 声をかけられ、セレネは微笑みを整えた。

 顔を上げると、そこには太陽国の老侯爵が立っていた。白い髭を整えた顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。

 だが、その目は細く、探るようだった。


「本日は見事なお姿でございます。月国の銀は、我が国の黄金ともよく調和いたしますな」

「光栄です、侯爵閣下」

 セレネは穏やかに答えた。

「太陽国の皆様にお迎えいただけましたこと、月国の王女として、また王太子妃として深く感謝しております」

「ほう」

 侯爵はわずかに目を細めた。

「すでにご自分を王太子妃とお呼びになる。よいお覚悟です」

「今日、その称号をいただきましたので」

「頼もしいことです。――テオドロス殿下も、さぞお喜びでございましょう」


 その場の空気が、ほんの僅かに動いた。


 テオドロスは亡き王太子だ。

 つまり、アレクシスの兄。


 セレネは微笑みを崩さなかった。

 隣のアレクシスも、表情を変えなかった。

 けれど、彼の指先が杯の縁に触れたまま、わずかに止まったのをセレネは見た。


 侯爵は、悪意がないかのような顔で続ける。


「かつて月国の姫君をお迎えする日を、殿下も心待ちにしておられました。神話婚とは、両国にとってそれほど大切なもの。こうして形が守られたことは、まことに喜ばしい」


 形が守られた。

 その言葉は、祝辞としては間違っていない。

 王太子が亡くなっても、婚姻は破棄されなかった。

 月国と太陽国の和合は保たれた。

 セレネは、今度はアレクシスの妃としてここに立っている。


 形は、守られた。

 けれど、その形を守るために、誰が何を失ったのか。

 それを思わないで済むほど、セレネは鈍くなかった。

「テオドロス殿下の御霊に、月神の安らぎがありますように」

 セレネは静かに言った。

 侯爵が、少しだけ眉を上げる。

 太陽国の祝宴で、月神の名を出すことが適切だったかはわからない。

 だが、セレネは言い直さなかった。

「そして、太陽神の御許に、その功績が正しく記憶されますように」

 そこで、太陽国式に軽く頭を下げる。


 侯爵は一拍遅れて笑った。

「……これは、丁重なお祈りを」

「テオドロス殿下は、私にとっても、かつて未来に置かれた方でした。お悼み申し上げるのは当然のことです」

 言葉に、恋情は込めなかった。

 未練も、嘆きも。

 ただ、弔意だけを置いた。


 侯爵の目が、わずかに揺れる。

 おそらく彼は、セレネが動揺することを期待していたのだろう。

 あるいは、アレクシスが反応することを。

 だが、先に動いたのはセレネだった。

 隣で、アレクシスが彼女を見た気配がした。

 その視線を、セレネは受け止めなかった。

 今ここで彼を見るのは、違うと思った。


 しばらくの沈黙の後、アレクシスが口を開いた。

「侯爵」

 低く、淡い声だった。

「兄上への弔意を、祝宴の余興のように扱うのはお控えください」

 侯爵の笑みが固まる。

「殿下、そのようなつもりでは」

「ならば結構です」

 アレクシスは、それ以上責めなかった。

 だが、会話を終わらせるには十分だった。

 侯爵は深く頭を下げ、別の貴族たちの輪へ下がっていく。


 セレネは、ようやくアレクシスを見た。

「……助けていただき、ありがとうございます」

「助けたわけではありません」

 彼は前を見たまま答えた。

「貴女は、ご自分で十分に返していた」

 思いがけない言葉だった。

 セレネは一瞬、返答に迷う。


 褒められたのだろうか。

 それとも、ただ事実を述べられただけだろうか。

 アレクシスの横顔からは、読み取れなかった。

「先ほどの祈りは」

 彼が続ける。

「月国の礼ですか?」

「半分は。亡き殿下に対する祈りを、私の祖国の神に捧げずに済ませることはできませんでした。ですが、ここは太陽国です。ですから、太陽神への敬意も添えました」

「器用ですね」

 その声には、皮肉はなかった。

 ただ、少しだけ遠い響きがあった。


「器用でなければ、王女は務まりません」

 セレネが言うと、アレクシスは一度だけ彼女を見た。

「そういうものですか」

「そういうものです」

 それきり、会話は途切れた。

 祝宴は続く。

 音楽が鳴り、杯が交わされ、人々は再び笑い始めた。

 先ほどのわずかな棘は、広間の華やかさの中へ溶けていく。


 けれどセレネは、アレクシスの横顔に落ちた影を忘れられなかった。


 兄を失った人。

 兄の席に立つ人。

 そして今日、兄が迎えるはずだった花嫁を、自分の妃として迎えた人。

 彼は、そのことをどう抱えているのだろう。


 聞くことはできない。

 まだ、そんな距離にはいない。


 だからセレネは、ただ王太子妃として隣に立ち続けた。


 ※


 祝宴が終わる頃には、夜は深くなっていた。


 広間の灯が一つずつ落とされ、遠くの音楽もやがて消えた。

 セレネは侍女に導かれ、新しい私室へ向かった。


 太陽国の王宮は、月国の宮殿とは造りが違う。

 月国の宮殿は水辺に沿って広がり、夜風と月光を取り込むための回廊が多かった。

 だが太陽国の王宮は、石壁が厚く、窓は高く、廊下の先に必ず黄金の紋章が掲げられている。昼の光を受けることを前提に造られた宮殿は、夜になると、どこか眠り方を知らない建物のように見えた。


 案内された部屋は、王太子妃の私室として整えられていた。

 白い壁。金の燭台。大きな机。

 寝台の天蓋には、月国から持ち込まれた薄布が使われている。

 太陽国の部屋に、月国の気配を差し入れようとしたのだろう。


 その気遣いはありがたかった。

 だが、ここが自分の部屋だという実感は、まだなかった。


 侍女たちが婚礼衣装を外し、重い飾冠を下ろす。

 髪に差していた金細工と銀細工が一つずつ抜かれるたび、肩の重さが少しずつ消えていった。

「王太子殿下は、後ほどこちらへいらっしゃいます」

 侍女の一人が言った。

「わかりました」

 セレネは頷く。

「お茶をお持ちしましょうか」

「いいえ。大丈夫です」

 今、何かを口にしても味はわからない気がした。


 侍女たちが下がると、部屋は急に静かになった。

 白金の燭台の火が揺れている。

 祝宴の名残りの香が、まだ薄く衣に残っていた。


 セレネは、机の近くに立ったまま、左手首に触れた。

 そこには、真新しい太陽神の銀十字があった。アレクシスも、国王陛下も、民たちも皆身に付けている、太陽神の信徒の証だ。

 太陽国へ嫁いだ以上、セレネもまた信徒として扱われる。

 月国の姫として月神ティアの国に育てられた彼女が、今日からは太陽神リザーブの王国で生きる。

 そのこともまた、当然のことだった。


 当然。

 その言葉を、今日だけで何度自分に言い聞かせただろう。


 婚姻、改名、改宗も当然。

 夫となる人が兄王子からアレクシスへ変わったことも、当然。

 太陽国の王太子妃として、月国の姫として、正しく振る舞うことも当然。


 けれど、当然のことばかりでできた一日は、こんなにも疲れるものなのか。


 扉が叩かれた。

 セレネは息を整える。

「どうぞ」

 扉が開く。

 入ってきたのは、アレクシスだった。


 祝宴の時の正装から、上着だけを替えている。

 それでも、彼は少しも寛いで見えなかった。襟元まで正しく整えられ、髪も乱れていない。

 まるでこの部屋に来たのも、夜の務めの一つに過ぎないというように。


「遅くなりました」

「いいえ。殿下もお疲れでしょう」

「問題ありません」

 短い返答だった。


 アレクシスは扉の近くで一度足を止めた。

 それから、部屋の中央までは来たが、セレネへ必要以上には近づかなかった。


 その距離に、セレネはこの夜の答えを半分ほど見た気がした。


「座っても?」

「もちろんです」

 二人は机を挟むように座った。

 夫婦の初夜というより、使節同士の会談のようだった。


 アレクシスは、机の上に数枚の書類を置いた。

 婚礼の日の夜に夫が持参するものとしては、あまりにも色気がなかった。


 だが、セレネはそのことに笑わなかった。

 笑えるほど、まだこの人を知らない。


「確認しておくべきことがあります」

 アレクシスが言った。

「はい」

「公の場では、神話どおりの夫婦を演じていただきます」

 それは、祝福の言葉ではなかった。

 愛の告白でも、花嫁への労わりでもない。

 契約の提示だった。


 白金の燭台が揺れる。

 薄い炎の影が、アレクシスの金の瞳をいっそう冷たく見せた。

「両国のため、ですね」

「ええ」

「それ以外は」

「求めません」

 短い返答だった。


 セレネは、手袋の内側で指を握った。

 この婚姻が政略であることくらい、最初からわかっていた。

 月国で育った王女である以上、いつか国のために嫁ぐ日が来ることも。

 夫となる人が、自分に恋をしていないことも。

 自分もまた、恋をして嫁いだわけではないことも。


 それでも。

 婚礼の夜に、愛は要らないと明言されて、平気でいられるほど、心が石でできているわけではなかった。


「私に求められるのは、王太子妃としての役目ですか?」

「そうです」

 アレクシスは迷わなかった。

「祭儀、夜会、外交。貴女が月国から輿入れした王族として礼を失わず、私が太陽国の王族として不備なく振る舞う。それで十分です」

「……私情は不要、と」

「ええ、不要です」


 その言葉は、刃物のように鋭いわけではなかった。

 むしろ、よく磨かれた金属のように平らだった。

 だからこそ、冷たい。

 セレネは、一度だけ目を伏せた。


 怒るべきなのだろうか。

 傷ついたと告げるべきなのだろうか。

 それとも、月国の姫を何だと思っているのかと、誇りを示すべきなのだろうか。


 ――いいえ。

 セレネは静かに息を吸った。


 ここで崩れることはできない。

 彼が王太子として契約を示すなら、自分も王女として応じるべきだ。


 顔を上げる。

「承知いたしました」

 声は震えなかった。

 それだけで、セレネは自分を少し褒めてやりたくなった。

「では私も申し上げます。公の場で、貴方の名を汚さぬことを、私の神たる太陽神に誓います」

 左手首の銀十字を、右手でそっと握る。

 まだ肌に馴染まない、新しい信徒の証。

 その冷たさが、指に伝わる。

「そして、私の祖国と、祖国の主神たる月神の名誉にかけて。太陽神と月神の神話に泥を塗らぬよう、努めましょう」

 アレクシスの目が、わずかに細められた。

 太陽神だけでなく、月神の名を添えたことに気づいたのだろう。

 けれど、彼は咎めなかった。

「助かります」

 それだけ言って、彼は書類を差し出した。


 婚姻に伴う居室。

 祭儀。

 同席すべき夜会。

 外遊の予定。

 月国使節との応対。

 太陽国王家の慣例。

 王太子妃として出席すべき神殿行事。


 そこには花嫁への労わりではなく、必要な項目だけが端正に並んでいる。

 だが、逆に言えば、不明瞭な命令もなかった。

 何を求められ、何を求められていないのか。

 それが明確だった。


 セレネは書類を受け取り、最後の頁まで目を通した。

(冷徹だわ)

 そう思う。

 だが同時に、彼は曖昧な期待を持たせない。

 その意味では、誠実なのかもしれなかった。

「この予定によれば、三日後に和合祭がありますね」

「ええ」

 アレクシスが肯定する。

「太陽国式の献灯は、月国式と手順が違いますか」

「違います。明日、神官に説明させます」

「本日いただける資料はありますか」

 アレクシスが、初めて少しだけ黙った。

「今から読むつもりですか。婚礼の夜ですが」

 視線が時計に向けられていた。

「三日後に間違えるよりは良いでしょう」

 セレネが答えると、アレクシスは彼女を見た。

 その視線は、祝宴の時と同じく、品定めではない。

 何かを測り直すような目だった。

「……用意させます」

「ありがとうございます」


 それで会話は終わった。


 セレネは書類の最後に視線を落とす。

 そこには、王太子妃としての同意を示す署名欄があった。


 契約。

 そう呼んでも差し支えない内容だった。


 公の場では理想の夫婦として振る舞う。

 神話婚の名を損なわない。

 互いの公的立場を守る。

 私情は求めない。


 セレネは、筆を取った。


 ほんの一瞬だけ、昔の名が胸の奥で揺れた。

 生まれた時に与えられた、今はもう公には呼ばれない名。

 だが、署名するのはその名ではない。


 セレネ。


 月国の第二王女として、太陽国に嫁いだ月の名。

 セレネは、丁寧に自分の名を書いた。

「契約は、これで成立ですね」

「ええ」

 アレクシスは書類を受け取った。

 その指先が、セレネの署名の上で一瞬だけ止まる。

 何を思ったのかは、わからない。

「では、殿下」

 セレネは微笑んだ。

 王女として教え込まれた、欠点のない笑みだ。

「明日から、理想の夫婦を演じましょう」

 その言葉に、アレクシスはほんの僅かだけ目を細めた。

 初めて、彼の顔に感情らしきものが浮かんだ気がした。

 痛みのようにも、安堵のようにも見えた。

 けれど、それはすぐに消えた。


「よろしくお願いします、王太子妃」


 王太子妃。

 夫が妻へ向けるには、あまりにも正しい呼び名だった。

 セレネは立ち上がり、静かに礼を取った。

「こちらこそ、王太子殿下」

 お互いに、名前は呼ばなかった。


 そのことが、この婚姻のすべてを示しているようだった。


 ※


 アレクシスが去った後、部屋は再び静かになった。


 侍女が運んできた和合祭の資料が、机の上に置かれている。

 分厚い紙束。

 太陽国式の聖句、献灯の順、礼の角度、足の運び、神官に対する応答。

 月国で習ってきたものとは、似ているようで少しずつ違う。


 セレネは椅子に座り直し、最初の頁を開いた。


 眠るべきだとは思った。

 明日もまた、朝から務めがある。

 けれど、目を閉じたところで、すぐに眠れる気はしなかった。


 それならば、覚える方がいい。


 できることは、いつも限られている。

 嫁ぐ相手を選べるわけではない。

 国と国の約束を覆せるわけでもない。

 神話に相応しい名を与えられることも、婚姻によって祈る神を変えることも、すべて拒める立場ではなかった。


 けれど、与えられた場所で、どのように立つかは選べる。


 セレネは、太陽国式の聖句を目で追った。


 太陽神リザーブは、月神ティアを照らした。

 月神ティアは、その光を受けて夜を守った。


 やはり、月国で聞いてきた神話とは違う。


 月国では、ティアはただ光を受ける女神ではない。

 夜を統べ、潮を引き、夢を守る。

 太陽が地上を照らすなら、月は眠る者の魂を守る。

 二柱は上下ではなく、領分を分かち合う神だった。


 同じ神話でも、国が違えば語り方が変わる。

 そのことを、セレネは幼い頃から知っていた。


 だからこそ、神話婚が必要なのだ。

 それぞれに都合よく語られる太陽と月を、婚姻という形でつなぎとめるために。


 セレネは銀十字に触れた。

 その下に、見えない月国の祈りがまだ残っている気がした。


 私は月を捨てて、太陽の妃になるのではない。


 声には出さず、心の中で思う。

 月を背負ったまま、太陽の隣に立つのだ。

 それができなければ、この婚姻に意味はない。


 頁をめくる。

 燭台の火が揺れる。

 夜は深く、王宮は静かだった。


 どこか遠くで、鐘が鳴った。

 婚礼の日が終わり、新しい日が始まろうとしている。


 セレネは筆を取り、太陽国式の祈礼の順を、自分の手で書き写し始めた。


 明日から、理想の夫婦を演じる。


 そう言ったのは自分だ。

 ならば、その演技を誰より正しく務めてみせる。


 たとえそれが、契約から始まった婚姻だとしても。

 たとえ夫となった人が、自分の名を呼ばないとしても。

 たとえこの部屋に、まだ何ひとつ、セレネ自身の居場所がなかったとしても。


 月国の第二王女は、顔を上げていなければならない。

 セレネは、夜が明けるまで、太陽国の祈りを読み続けた。

誤字報告ありがとうございます!


▼おまけ

太陽国ソンツェリアと、月国ミーシャリアでは、

一般的な命名は私たちの世界でいうスラヴ語派から名付けられます。

セレネとアレクシスをはじめとした王族も、その名前を持ちますが、

神話婚の再現が決まった段階で、

まだ幼いセレネ、そして当時の王太子テオドロスは、

その名前から現在の名前に改名をしました。

後に第二王子と第三王子のアレクシスも改名することになりましたが、宮廷文化として割り切っている感じです。

幼少期は何度かテオドロスが月国にくるかたちで何度か顔合わせをしていますが、セレネは婚姻まで国を出たことがなく、アレクシスとは初対面で婚礼の儀式に望むことになりました。

多分お互いどきどきだったでしょうね(どんな相手かわからないので)


もしお気に召されましたら、

ブックマークや★評価、誤字脱字報告頂けると大変励みになります!

ここまで読んでくださったあなたに、心より御礼申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ