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【Bar風花】第二章 プラチナのチェーンと夜の深紅 〜プロの仮面がほどける、たった数十秒の魔法〜

前書き


※ 本作は、架空の町・風花町を舞台にした大人の純愛物語です。

※ 営業終了後の静かなバーで紡がれる、二人だけのささやかな儀式を描いています。


最後の客が去り、夜の静けさに包まれた深夜の『Bar風花』。

カウンターの灯りが落とされたその場所で、プロのバーテンダーとしての仮面を脱いだ美和と、彼女を深く愛する夫・天が迎える、甘やかな深夜のひとコマ。

胸元に隠された一対の結婚指輪が、再び温かな薬指へと戻される瞬間をそっと覗き見ます。

どうぞ、そっとカウンターの向こう側を覗いてください。

指輪と夜桜の解脱


 最後の客が店を後にし、重厚なオーク材の扉が静かに閉まった深夜の『Bar風花』。

 グラスを磨き上げ、鉄刀木の一枚板カウンターを丁寧に拭き終えた美和は、ふうっと小さく息を吐いて肩の力を抜いた。

 凛としたプロのバーテンダーの仮面がほどけ、愛する夫の前にだけ見せる柔らかで甘やかな表情が浮かび上がる。


 そんな彼女の背後から、音もなく静かな足取りで天が近づいてきた。

「美和さん、今日もお疲れ様。今夜も素敵な一日だったね」

「ありがとう、天ちゃん。……さあ、今夜もお願いできるかしら?」

 穏やかな声とともに、天の温かな手が美和の肩へと優しく置かれた。

 美和はワインレッドとアンバーの異色瞳をキュッと細めて振り返り、嬉しそうに小さく頷いた。


 天は微笑みながら美和の正面へと回り込み、彼女の胸元へとゆっくり手を伸ばした。

 絹のブラウスの第一ボタンに指先が触れ、小さな白磁のボタンがひとつひとつ、天の慣れた手つきで外されていく。

 美和は少しだけ顎を上げ、夫に身を委ねるようにして静かに目を伏せた。

 微かに開いた襟ぐりから覗くのは、滑らかな鎖骨と豊潤な胸の谷間だ。

 その白磁の肌に抱かれるようにして冷たい光を放つ、細いプラチナチェーンが静かに横たわっている。

「少し冷たくなっているね……」

「ん……天ちゃんの指が温かいから……」

 天の少し大きな指先が、美和の柔らかな肌を擦るようにして胸の谷間へとそっと滑り込んだ。

 肌と肌が触れ合う微かな摩擦に、美和の小さな喉から甘い吐息が洩れた。

 天は愛おしそうに目を細めると、衣服の温もりに包まれていたプラチナチェーンを指先で優しく手繰り寄せ、谷間の奥からそっと引き抜いた。

 引き出されたチェーンの先端で光を浴びて揺れるのは、ピジョンブラッド・ルビーに純白のType IIaダイヤモンドが寄り添う、二人だけの至高の結婚指輪だ。

 美和の肌の温もりを宿したルビーが、ランプのアンバー色の光を受けて艶やかに煌めく。

 天はまるで壊れ物に触れるかのような手つきでチェーンの金具を外し、指輪を静かに手のひらへ受け取った。


「はい、美和さん。左手を貸して?」

「ええ……」

 天の大きな手が、美和の華奢な左手を優しく包み込む。

 天が自分の足で全国を駆け回り、一本一本の原稿に魂を込めて稼ぎ出した原稿料で買い取った、世界に一対だけの誓いだ。

 ひんやりとしたプラチナの感触が、天の指先から美和の左手薬指へと滑り落ちていき、根元までしっかりと収まったその瞬間、美和の体温と天の温もりが重なり合い、深いルビーの赤と透明なダイヤが可憐な光を放った。

「……うん、やっぱりこの場所が一番しっくりくるね。美和さんの指に一番似合ってる」

 天が満足そうに微笑みながら、指輪を嵌めた美和の手の甲へそっと唇を寄せた。

 その瞬間、美和の胸の奥から温かく甘い感情がじんわりと溢れ出す。

 プロとしてカウンターに立つ間、肌身離さず胸元で守り抜いた指輪を、営業が終わった後にこうして天の手で指に戻してもらう。

 天にボタンを外され、体温の残る胸の谷間から引き抜いてもらうこの数十秒の濃密な儀式こそが、美和にとってはどんな高級なプレゼントよりも愛おしくてたまらない時間だった。


「ふふ、ありがとう、天ちゃん。……ねえ、もう一回見てもいい?」

 指輪が嵌った左手を光にかざし、嬉しそうに何度も指を動かして赤と白の煌めきを眺める美和。

 その表情は、まるで初恋の少女のように無邪気な愛らしさに満ちていた。

 天はそんな妻の愛おしい姿に目元を深く下げ、甘くトロけるような眼差しを向けながら、そっと彼女の腰を引き寄せた。

「何回でも見ていいよ。美和さんが嬉しそうにしてくれるのが、僕にとって一番のご褒美だからね」

「もう……天ちゃんったら。……今夜はもう少しだけ、こうして抱きしめ合っていたいな」

 ほんのりと桜の甘い香りが漂う店内で、二人は指輪の光に守られながら静かに寄り添う。

 美和の薬指で輝く小さな赤は、天の深い愛に包まれて、今夜も幸せそうに光を放っている。

あとがき


お読みいただき、ありがとうございます。

今回は、営業が終わった後の静かな店内で繰り広げられる、美和と天の小さな秘密の儀式を描いてみました。

普段は凛としたプロの顔を持つ美和さんが、夫の前で見せる無邪気な甘えと、それを大きな愛で包み込む天の温もりを形にしたく、筆を走らせました。

少しでも、二人の間に流れる穏やかな空気感や、指輪に込められた絆の温度が伝われば幸いです。


もし「心が温まった」「続きが読みたい」と思っていただけましたら、下のブックマーク登録や評価、温かい感想をいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります。


静かな夜のバーで、また次のお酒と物語を用意して、あなたをお待ちしております。

天照(Bar風花)

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