【Bar風花】第二章 夏霞に爆ぜる炭火と黄金の泡沫 〜専属メイドは夕涼みに大ジョッキを傾ける〜
【前書き】
※本エピソードは『Bar風花』の特別編(風花商店街の夏涼み回)となります。
※久留米焼き鳥の食文化(酢ダレキャベツ、豚バラ、ダルム等のローカル串)が登場します。
※お酒と美味しい焼き鳥、そして家族の温かな時間を描いたショートストーリーです。
日中の暑さが少しだけ和らぎ、山から渡る風が風鈴を揺らす夕暮れ時。
風花商店街の片隅にある赤提灯からは、炭火とタレが爆ぜる甘香ばしい香りが漂っていました。
冷えた大ジョッキを手に、微笑む専属メイドの千草。
疲れた心を優しく包み込む、夏の夕涼みのひととき。
どうぞ、そっとカウンターの向こう側を覗いてください。
第1章:夕暮れの風花商店街と赤提灯の誘惑
茜色に染まる夕刻の風花商店街は、日中の酷暑が少しずつ和らぎ、山から吹き下ろす心地よい夕風が通りを抜けていた。
軒先に吊るされたガラス風鈴がちりん、と涼やかな音を奏でる。その向こう、老舗鳥料理店『鳥清』の店頭からは、備長炭に落ちた肉汁とタレが爆ぜる甘香ばしい煙が立ち上り、通行人の食欲を否応なしに誘っていた。
「天ちゃん、ここですわ♪ こちらへどうぞ」
通りに面した夏限定の屋外テラス席――使い込まれた木製ベンチと丸テーブルの席から、優しく柔らかな声が響く。
声をかけたのは、櫻庭家の専属メイドである千草だった。
猛暑の夕暮れであっても、彼女の装いにブレはない。隙のない黒のロングスカートと、純白のフリルが美しい伝統的な英国式クラシックメイド服。ただ、流石にこの夏の暑さゆえか、長袖の袖口を肘のあたりまで上品に捲り上げており、そこから覗くしなやかな白い前腕が、どこか清涼な色香を漂わせていた。
Kカップを誇る豊満な胸元は、胸当ての生地をぐっと押し上げ、彼女が息を吐くたびに涼やかな風を受けて優しく揺れている。
「千草お姉ちゃん、お待たせ。ルポの取材が長引いちゃってごめんね」
フリーランスのルポライターである櫻庭天――天ちゃんは、ノートとカメラの入ったバッグを降ろし、千草の向かいのベンチへと腰掛けた。
「ううん、全然構いませんのよ。天ちゃんがお仕事で頑張っていらっしゃる間、私はこうして風花町の風を感じながら、お店の仕込みの匂いを楽しんでおりましたから♪」
千草はおっとりと微笑むと、手際よく店員を呼んだ。
「すみません、まずは『ヱビスの樽生』を大ジョッキで二ついただけますかしら?」
「あいよっ! ヱビスの大ジョッキ二つね!」
威勢の良い店主の声とともに、まずサービスとして運ばれてきたのは、大皿に山盛りにされたざく切りの生キャベツだった。甘酸っぱい特製の酢ダレがたっぷり回しかけられており、これこそが福岡・久留米文化を汲む風花町の焼き鳥屋における絶対的なお約束だ。
そして直後、ズシリとした重厚なガラスの音が響く。
「お待たせしました! キンキンに冷えたヱビスの大ジョッキです!」
重厚な大ジョッキは、冷凍庫で極限まで凍らせられており、ジョッキの表面には真っ白な霜が張り付いている。そこへ注ぎ分けられたヱビス特有の濃密なゴールデンイエローの液体と、絹のように細やかな泡。表面を伝い落ちる澄んだ水滴が、夕暮れの赤提灯の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「さあ天ちゃん、今日もお仕事本当にお疲れ様でした♪ 乾杯いたしましょう」
千草は両手でドシリと重い大ジョッキを持ち上げた。
重厚なガラス同士を直接ぶつけることなく、胸の高さでふわりと掲げて目線を合わせる。プロのバーテンダーである美和の教えが、ここでも自然と守られていた。
「乾杯、千草お姉ちゃん」
「乾杯ですわ♪」
千草は大ジョッキを口元へ運ぶと、豪快に、けれどどこまでも上品に傾けた。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……!
豊満な胸元が大きく上下し、雪のように白い首筋が心地よく鳴る。
キンキンに冷えたヱビスの濃厚な麦芽のコクと、プレミアムホップの上質な苦味が、夕涼みの喉を通り抜けていく。
「……ふはぁぁぁっ……! 幸せですわぁ……! 体中の細胞が、一気に生き返る心地がいたします♪」
大ジョッキの半分をぐびぐびと豪快に飲み干し、千草はうっとりと頬を桜色に染めた。口元についた白い泡を、捲り上げた袖口を汚さないよう、ハンカチでちょんと拭う仕草がたまらなく愛くるしい。
「あはは、千草お姉ちゃんは本当に美味しそうに飲むよね。僕もいただきます」
天もジョッキを傾ける。冷気とともに広がるヱビスの深い旨味が、日中の取材の疲れをスーッと溶かしていくようだった。
第2章:久留米の味覚と炭火の香り
「さて、天ちゃん。久留米風の焼き鳥は、どんどん頼んでどんどん召し上がっていただくのが醍醐味ですわよ♪」
千草の手元には、すでに書き込まれた注文票があった。
やがて、炭火の網から上がったばかりの焼き立ての串が、香ばしい煙とともに大皿の山盛りキャベツの上に次々と置かれていく。
「まずは何と言ってもこれ、不動の主役『豚バラ』ですわ!」
千草が嬉しそうに目を輝かせる。
久留米焼き鳥の代名詞――専門店でありながら真っ先に食すべきとされる、厚切りの豚バラ肉だ。炭火で余分な脂を落としつつ、表面はカリッと香ばしく、内側にはジューシーな旨味が閉じ込められている。
天が串を一本手に取り、口に運ぶ。
サクッ、じゅわぁっ……!
絶妙な塩コショウの加減と、弾けるような脂の甘み。キャベツのさっぱりとした酢ダレと相まって、無限に食べられそうなほど重たさがない。
「美味しい……! この脂の旨味、やっぱり塩コショウでダイレクトに味わうのが最高だね」
「ふふ、でしょう? お次はこれですわ、久留米の名物『ダルム』と『センポコ』!」
千草が差し出したのは、カリカリに焼き上げられた豚の小腸である『ダルム』。ドイツ語で腸を意味するその串は、外側が香ばしいのに、噛み締めると独特の濃厚な旨味がジュワリと溢れ出す。
そして牛の大動脈である『センポコ』は、まるでイカのようなコリコリ・モチモチとした快い歯ごたえで、噛むほどに塩気と肉の味が滲み出てくる。
「ダルムの香ばしさと、センポコのこの歯ごたえ……。これはもう、ビールを追っかけるしかありませんわね♪」
千草は再び大ジョッキを持ち上げ、ゴクゴクと喉を鳴らした。
「それから、天ちゃん。こちらの赤身も絶品ですのよ? 『牛サガリ』ですわ」
特製のジャポネソース――擦り下ろし玉ねぎと醤油、和柑橘の風味が効いた甘酸っぱいソースがたっぷりとかかった牛サガリ。驚くほど柔らかい赤身肉にさっぱりとしたソースが絡み、いくらでも腹に収まってしまう。
「さらに定番の『砂ずり』に、ドイツ語由来の『ヘルツ』! 砂ずりのコリコリとした快感と、ヘルツの濃密な旨味……たまりませんわ」
千草の勢いは止まらない。
香ばしく焼き上げられた『とり皮』は、外はパリッと中はモチモチ。
「さらにこちらが久留米発祥の『野菜巻き串』ですわ!」と千草が掲げた串には、えのきベーコンやアスパラが豚バラで美しく巻かれている。シャキシャキとした野菜の食感とベーコンの燻製香、豚肉の脂が三位一体となって口内で暴れ回った。
「おっとりしているのに、食べる量は相変わらず豪快だなぁ、千草お姉ちゃんは」
天が苦笑いしながらキャベツを摘むと、千草はお皿の端に盛られた大ぶりの『つくね』に、添えられた濃厚な地卵の黄身をトロリと絡めた。
「ふふ、天ちゃん。美味しいものは、美味しくいただくのが礼儀ですわ♪ はい、あ〜んしてくださいな」
「えっ、あ、あ〜ん……?」
照れる天の口元へ、千草が月見つくねを優しく差し出す。
天がパクリと口に含むと、甘辛いタレと大ぶりの肉粒、そしてとろける卵黄のまろやかさが爆発的に広がった。
「ううん……! 最高に美味しいよ、千草お姉ちゃん!」
「でしょう? ふふっ、お利口さんですわ♪」
第3章:お姉ちゃんのぬくもりと夕闇の乾杯
千草は天の頭を愛おしそうに撫でた。
夏の夕風がふっと吹き抜け、千草のクラシックメイド服の裾と、捲り上げた袖口を優しく揺らす。千草の身から漂う清らかな桜の香りと、炭火とタレの香ばしい匂いが混ざり合い、天の心を深い安心感で満たしていった。
「天ちゃんは、本当に頑張り屋さんですから……。私と二人でいる時くらい、たくさん甘えて、美味しいものを食べて、疲れを吹き飛ばしてくださいね」
そう言って、千草は天の頭をそっと自身の胸元――Kカップの豊満で柔らかく、ぬくもりに満ちた胸の中へと優しく引き寄せた。
「千草お姉ちゃん……」
「よしよし♪ 天ちゃんは、私の可愛い弟であり、大切な大切な家族なのですから」
包み込まれる圧倒的な母性と包容力。天は千草の温かな体温と、鼓動の音を感じながら、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。
「あらあら、二人とも。外でそんなに睦まじくして、街の皆さんが羨ましがっていらっしゃいますわよ?」
ふいに、凛とした涼やかな声が響いた。
振り返ると、そこには仕事着である黒のバーテンダーベストを身に纏った櫻庭美和が立っていた。仕込みと開店準備をひと通り終え、二人を迎えにやってきたらしい。ヘテロクロミアの美しい瞳が、夕涼みの提灯の光を受けて柔らかく輝いている。
「美和様! お疲れ様ですわ♪ こちらへどうぞ、美和様のお席と、冷えたヱビスも頼んでありますのよ」
千草が嬉しそうに自分の隣を叩くと、美和はふっと微笑み、千草の隣――天の向かい側へと腰掛けた。
「ありがとう、千草。……ふふ、本当に良い匂い。豚バラとダルムかしら? Barの開店前に、少しだけお邪魔させていただこうかしらね」
千草の注文を聞いていた店主がタイミングよく運んできた小グラスの生ビール。美和はそれを手に取ると、千草と天に向かって静かに胸の高さへ掲げた。
「今夜も、風花町に良い夜が訪れますように」
「「乾杯!」」
三人の声が重なり、夏の夕闇の中に温かな笑顔が弾ける。
香ばしい炭火の匂いと、冷えたヱビスビールの旨味、知識を満たす久留米の味覚、そして何物にも代えがたい家族のぬくもり。
風花町の夜は、今夜もどこまでも優しく、どこまでも穏やかに更けていくのだった。
【あとがき】
ご覧いただき、誠にありがとうございました。
今回のエピソードでは、格式ある『Bar 風花』の店内を少し離れ、夏限定の屋外テラス席で千草お姉ちゃんと天ちゃん、そして美和様の三人で過ごす温かな夕涼みのひとときを描かせていただきました。
普段は隙のない英国式クラシックメイド服を纏いながらも、久留米焼き鳥とキンキンに冷えたヱビスの樽生を心から楽しむ千草お姉ちゃんのギャップと、包容力あふれるお姉ちゃんらしさを感じていただけましたら幸いです。
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皆様の夜にも、どうぞ優しく温かな風が吹き抜けますように。
天照(Bar風花)




