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【Bar風花】第二章 白梟と夏空の清水白桃 〜極小の騎士は無音の羽ばたきで愛しき甘みを奪還する〜

【前書き】


※本編は、夏の風花町を舞台にした極小マシンの活躍とお掃除の物語です。

※戦闘(正当防衛)描写および、夜の静寂を切り裂く白梟の暗躍が含まれます。

※美味しい果実と、冷たいカクテルの飯テロ(果物テロ)にご注意ください。


 ジリジリと夏の日射しが照りつける農道と、深く静かな果樹園の夜。

 丹精込めて育てられた大切な甘みを奪った悪意に、小さき白梟が静かな怒りを燃やします。

 極小のマシンが奏でる消音の羽ばたきと、愛する町を守る人々の温かな絆。

 どうぞ、グラスの氷を鳴らすように、そっと物語の扉を開けてみてください。


第一章:風花町の事件と、白梟の静かな怒り

 チチチ、と梢で騒ぐ鋭い鳥の声を、昼下がりの濃密な蝉時雨が容赦なく塗り潰していく。

 太陽が照りつける、とある夏の午後。

 風花町の青々とした桃畑が広がる農園地帯の一本道を、純白の極小マシン——モンキー50ベースのMininja 50 "White Owl" Customが、トコトコと軽快なエンジン音を響かせて走っていた。

「……トコトコトコ、ぶぉぉん( ・∀・ )✨」

 小さな車体に白いヘルメット、そして和風タクティカル巫女服の裾を風になびかせた深雪は、両足をしっかりとステップに乗せ、真剣な表情でハンドルを握っている。

 昼間の彼女は基本スリープモードだが、この「自分と同じサイズの小さな相棒」に跨がっている時だけは、少しだけ目を輝かせてパトロール(という名のミニツーリング)を楽しんでいるのだ。

 耳元で揺れるシェリー・カラーのインペリアル・トパーズが、夏の強い日差しを浴びて七色の光を放つ。

「……そろそろ、さかがみさんの……はたけ。……きょうも、あたま『よしよし』して……桃、くれるかな( ・∀・ )」

 坂上さんは、深雪がこのちっちゃなミニンジャで通りかかるたび、日焼けした大きな手で嬉しそうに手を振り、「おう、深雪ちゃん! 今日もお散歩か? ほら、形は悪いが一番甘いヤツだ!」と、傷モノや規格外だが最高に旨いももを差し出してくれる。深雪にとって、坂上さんのももは夏の風花町でいちばんの大好物だった。

 だが——。

 緩やかなカーブを曲がり、坂上さんの桃畑が見えてきた瞬間、深雪は「……ん?」と首をかしげ、速度を落とした。

 いつもの穏やかな空気とは、明らかに違う。

 畑の脇にある農道には、赤い回転灯を静かに光らせた数台のパトカーが停まり、制服の警察官たちが慌ただしく行き来している。さらには、見慣れたスノーフレイクホワイトパールマイカの美しい車体——武居紗耶刑事の愛車、MAZDA RX-7 FD3S Spirit Rまでもが路肩に滑り込んでいた。

「……パトカー。……それに、さやさんの……白い車……?」

 何か大変なことが起きたのだと察した深雪は、モンキー50の小さなクラッチを握り、トコトコと路肩にミニンジャを停めた。乾燥重量60kgの車体は、深雪の小柄な体格でも軽々と扱いやすい。

 スタンドを立て、小さなヘルメットを脱ぐと、純白のボブヘアが夏の風にふわリと揺れる。

 パトカーの脇では、レザージャケットの襟を正した武居刑事が、険しい表情で手帳にペンを走らせていた。その少し先、作業着姿の坂上さんが、日に焼けた大きな肩を落とし、節くれ立った両手で顔を覆うようにして地面を見つめている。

 深雪は無音の足取りで近づくと、坂上さんの作業着の裾を、小さな手でキュッと引っ張った。

「……さかがみさん( ・∀・ )」

 坂上さんはハッとして顔を上げた。その目は真っ赤に充血しており、長年の農作業で土が刻まれた頑丈な顔が、今にも泣き出しそうに歪んでいる。

「……あ、あれ……深雪ちゃん……。ミニンジャで……散歩か……?」

 いつもの豪快な笑顔はどこにもない。絞り出すような力のない声だった。

 深雪は黄金色の瞳で坂上さんを見上げ、首を少しだけ傾げた。

「……さかがみさん。……どうしたの? ……お巡りさん、いっぱい。……なにか、あったの……?」

「……収穫前の桃を……ゴッソリ取られちまったんだ……」

 坂上さんは、泥のついた節くれ立った手で顔を覆い、絞り出すような声で言った。

「今日あげられる桃は……ひとつも無いんだ……ごめんな、深雪ちゃん……。丹精込めて育てて……明日、みんなに食べてもらおうと思ってたのに……。風花町には、人様の作物に手を付ける奴なんていなかったのに……なんでこんな世の中になっちまったんだろうな……」

 ポタポタと、土のついた手に落ちる坂上さんの涙。

 その瞬間——。

「……………っ!」

 いつもは黄金色の瞳を眠たげに細め、天ちゃんの膝の上でスリープモードに入っている深雪の雰囲気が、一瞬で氷点下まで跳ね上がった。

 小柄な身体から放たれるのは、圧倒的な『静』の殺気。

 純白のボブヘアが夏の風に揺れ、耳元のシェリー・カラーのインペリアル・トパーズが、激怒の感情を映して鋭く七色の光を弾く。

 深雪にとって、坂上さんの桃はただの果物ではない。

 丹精込めた土の祈りであり、大好きな「風花町の温かさ」そのもの。そして何より、深雪自身の大好物なのだ。それを踏みにじった悪意は、白梟の逆鱗に完全に触れた。

 深雪はくるりと向きを変えると、現場検証の指示を出していた武居刑事の元へ、無音の足取りで迷いなく詰め寄った。

 そして、レザージャケットの裾をギュッと掴み、上目遣いで武居を鋭く睨みつける。

「……武居ちゃん……」

「ん? ……深雪ちゃん? どうしてここに……」

「……武居ちゃん、ちゃんと仕事して……」

「っ……!」

『風花署の白き魔女』として恐れられる武居紗耶が、目の前の小さな少女から放たれる凄まじい威圧感に、思わず息をのんだ。

「……さかがみさんが、ないてる。みゆきの大切な桃、泥棒が持っていった。……武居ちゃん、お巡りさんでしょ? ……犯人、ぜったい逃がしちゃダメ……」

「……わかってるわ、深雪ちゃん……」

 武居は手帳をギュッと握りしめ、キツめの瞳に冷たい怒りの火を宿した。

「坂上の親父さんを泣かせて、無事に逃げ切れると思うなよ……。多分、犯人は他県から流れてきた半グレの果物窃盗団だろう……。足取りは絶対に掴んでみせる……」

「……ふん……」

 深雪はぷいっと横を向くと、愛機Mininja 50 "White Owl" Customへと歩み寄った。

 いつもなら「トコトコ」と可憐に跨がるはずのミニンジャに、今は隙のない鮮やかな動作で跨がり直す。両足をぴったりと地面につけたその佇まいは、完全に「獲物を狙う狩人」の鋭さを孕んでいた。

「……武居ちゃんたちがモタモタするなら、みゆきが『お掃除』する……」

「ちょっと、深雪ちゃん! 早まっちゃダメよ!」

「……てんちゃんに、れんらくする。……『Bar風花』で作戦会議。……坂上さんの桃、ぜったいに取り返す」

 武川DOHCエンジンが「ファァァン!」と甲高いレーシングサウンドを爆発させ、OVER Racingのチタンマフラーから鋭い排気音が響く。

 深雪は真っ白なヘルメットを被り、坂上さんの方を一瞬だけ振り返った。

「……さかがみさん( ・∀・ )」

「え……あ、深雪ちゃん……?」

「……まってて。……みゆきが、あしたの朝までに、さかがみさんの桃、ぜんぶ持って帰ってくるから( ・∀・ )✨」

 そう言い残すと、深雪はモンキー50の小さな車体を鋭く倒し込み、猛烈な加速で『Bar風花』へ向かって爆走していった。



 

第二章:喫茶風花の集結と、消音の翼

「ファァァァン!!!」

 夏の澄んだ空気に甲高い高回転音が響き渡り、純白のMininja 50 "White Owl" Customが『Bar风花』の前へと滑り込んできた。

 昼間の『Bar風花』は、週末の明るい時間帯限定で喫茶風花として営業している。

 心地よいジャズの余韻が漂う店内では、ちょうど週末のひとときを過ごしにやってきたレディースチーム『紅蓮華』のメンバーたちが、カウンター席で至福の時間を堪能している最中だった。

「ん〜っ! 美和さんの作る『清水白桃のショートケーキ』、マジで絶品すぎる……! 桃の甘みと生クリームの口溶けが神だわ」

「本当ですね、留美子さん! この浅煎りコーヒーとのペアリングも最高です!」

 そうやって和やかにケーキに舌鼓を打っていた彼女たちの耳に、勢いよく飛び込んできた深雪の足音が届く。

 カランと扉が開き、ヘルメットを抱えた深雪が立っていた。純白のボブヘアから覗く黄金色の瞳には、冷たく燃えさかる激怒の炎。

「……てんちゃん……」

「深雪ちゃん!? どうしたの、そんなに怒って……」

 カウンター席でノートを開いていた天ちゃんが驚いて身を乗り出すと、深雪は天ちゃんのシャツの裾をギューッと掴み、涙目になりながら訴えた。

「……さかがみさんの桃、泥棒にとられた……! さかがみさん、泣いてた……! 盗んだやつら、ぜったい許さない……っ!」

「なんだって……!? 坂上さんの桃が……!?」

 店内が一瞬で静まり返る。

 いま自分たちが一口一口、噛み締めるように味わっていたこの最高級の清水白桃。丹精込めて育てられたあの甘みが、不届き者たちの手によって強奪されたというのだ。

「……は?」

 真っ先に反応したのは、紅蓮華の第12代総長・楠 留美子だった。

 フォークをカチャンと皿に置き、赤のCB400Fを駆る総長の瞳に、冷ややかな威圧感が宿る。

「風花町で……坂上さんの桃を掠め取っただと……?」

「風花町の親父さんを泣かせたってこと……? 冗談じゃないよ!」

 ツインテールを揺らし、木刀使いの特攻隊長・胡桃ちゃんがテーブルを叩いて立ち上がる。

「坂上さんの桃があるから、この限定ケーキが食べられるのに……許せないッ!」

 走りの特攻・未華子ちゃんも怒りで肩を震わせ、GPZ400Fを愛車とする喧嘩最強の佳苗ちゃんは、武居刑事直伝の拳を「ボキボキ」と鳴らした。

「全員叩き潰して、桃を奪還します。留美子さん、出撃ですよね!?」

 CBX400Fに二人乗りで連ねる旗機の里美と旗持ちの由美も、キッと表情を引き締めた。

「由美、交機にいる彼氏に連絡して風花町周辺の監視カメラの動きを探らせて! 他所から来た泥棒グループなら、絶対に主要幹線道路か裏道に網を張れば引っかかるわ!」

 一瞬にして『喫茶風花』が、紅蓮華の出撃拠点へと変貌を遂げる。

 一方、天ちゃんは冷静に深雪の肩を抱き寄せ、「よしよし」と頭を撫でて落ち着かせながら、店外に停められたMininja 50に視線を向けた。

「深雪ちゃん。犯人たちを見つけた時、OVERのチタンマフラーの爆音のままだと、近づく前に気づかれて逃げられる恐れがある」

「……あ( ・∀・ )」

 天ちゃんは店の裏から工具箱と、特殊消音素材を組み込んだ「天ちゃん特製・超小型高効率サイレンサー」を取り出してきた。

「これをチタンマフラーに装着しておこう。排気効率を落とさずに、音量を純粋なキャブ車以下の『トコトコ音』まで抑えられる。これなら、夜の闇や果樹園の影から無音で間合いを詰められるよ」

「……てんちゃん、すごい。……トコトコ・サイレント仕様( ・∀・ )✨」

 天ちゃんの手際よい作業によって、Mininja 50の排気口に漆黒の消音アタッチメントがカチリと装着された。

「よし、これで深雪ちゃんの『無音の襲撃』が可能になった。……でも、無茶はしちゃダメだよ?」

「……うん。……みゆき、お姉ちゃんたちと……桃、取り返してくる( ・∀・ )✨」

「よし……! よそ者が好き勝手やってくれたねぇ。風花町の『お行儀』ってやつを、体に叩き込んでやるよ!」

 留美子の号令とともに一斉に店内を飛び出した彼女たちは、表に停めた愛機へと跨がった。

 夏の強い日差しが照りつける中、紅蓮華の排気音が一斉に咆哮を上げる。

 坂上さんの涙と大好物の桃を取り戻すため、極小の白梟と赤きレディースたちが、それぞれの警戒エリアへと散っていった——。



 

第三章:闇に潜む白梟と、トコトコ・サイレント

 夏の陽がすっかり落ち、風花町の街頭がぽつぽつと橙色の光を宿す夜。

『ヘアサロンApparel』での美容師見習いの仕事を終えた胡桃は、愛機のKawasaki ZRX400に跨がり、夜風を感じながら風花町の裏道を軽く流していた。ツインテールをヘルメットの隙間から覗かせ、いつものように穏やかな町の空気を味わっていた、その時——。

「……ん? なにあの車……」

 柑橘類の果樹園が広がる暗い抜け道の方から、連なって走ってくる不自然な2台の車両が胡桃の視界に入った。

 先頭を行くのは黒塗りの大型ワンボックス。その後ろを追うのは、幌を厳重に被せた2トントラック。

 ライトの光に照らされたナンバープレートを見れば、風花町から遠く離れた他県のナンバーだ。この時間帯に農道へ入っていく地元以外のトラックなど、あり得ない。

「(ビンゴ……! 坂上さんの桃を奪った盗人どもだ!)」

 胡桃はZRXを物陰に滑り込ませると、すぐさまエンジンを切り、スマホを取り出して紅蓮華と櫻庭家の【緊急共有グループLINE】に位置情報と写真を打電した。

胡桃:「留美子さん、天さん! 例の裏道で他県ナンバーの大型ワンボックスと2トントラック発見! 今、果樹園地帯の奥へ向かってます!」

 その通知が鳴った瞬間、胡桃の目の前に「すっ……」と一筋の白い影が飛び出した。

 純白のタクティカル巫女服に身を包んだ深雪だ。

 昼間のスリープモードは完全に解除され、日没とともに身体能力が300%まで跳ね上がった「夜の顔」——白梟の化身が覚醒している。

 彼女が操るのは、天ちゃんが特製サイレンサーを装着してくれたMininja 50 "White Owl" Custom。

 深雪はハンドル脇に増設された、小さなトグルスイッチに細い指先をかけた。

『……深雪ちゃん。ホントはこれ、公道で使ったら絶対にダメなやつなんだけど……』

 作業中、天ちゃんがちょっと困ったような、申し訳なさそうな苦笑いを浮かべながら言っていた言葉が脳裏に蘇る。

『犯人を追う時、ライトの光で気づかれたら危険だからね。このスイッチを入れると、ヘッドライトもポジションランプも、ブレーキランプも全消灯する。……でも、絶対に気を付けるんだよ?』

「……てんちゃん。……ありがと( ・∀・ )✨」

 カチリ、とスイッチを倒す。

 ミニンジャの可憐なヘッドライトが消え、テールランプの赤い光も完全に途絶えた。

 通常、夜間の無灯火走行など自殺行為に等しい。だが、深雪にとって暗闇は何の障害にもならなかった。

 彼女の黄金色の瞳は、夜の闇を昼間のように明瞭に捉える。暗闇であればあるほど、彼女の「視界」は研ぎ澄まされていくのだ。

「……トコトコトコ……(極小消音音)」

 天ちゃん特製サイレンサーにより、武川DOHCエンジンの排気音は虫の羽音よりも静かな「トコトコ」というささやき声へと変化している。

 闇と同化するように、光も音も遮断した極小のミニンジャが、果樹園の道をすべるように駆け出していく。

「……みつけた( ・∀・ )」

 果樹園の奥、密談するようにエンジンをかけたまま停まっている大型ワンボックスと2トントラック。

 深雪は街灯の光すら届かない樹々の隙間にミニンジャを潜ませ、気配を完全に消して木の上にすっと飛び移った。

 純白のボブヘアが夜風に揺れ、無灯火の闇の中で、深雪の黄金色の瞳だけが怪しく、美しく爛々と輝いている。

「……ワンボックスに5人。……トラックに2人。……さかがみさんの桃、あの中に積み込んであるのかな……」

 一切の音を立てず、深雪は不審者の車に近づいて行く。

「……てんちゃん、みんな。……獲物、みつけたよ……( ・∀・ )✨」

 グループLINEに完全な位置情報と敵の配置を送信し、白梟の静かなる狩りが、いま暗闇の中で始まった。

第四章:果樹園の罠と、白梟ドライバー

 果樹園の暗がりの中、街灯の光すら届かない樹々の上から、黄金色の瞳が爛々と光っていた。

 深雪は木の上から猫のように無音で地面へと着地すると、懐から、一本の小さなマイナスドライバーをスッと取り出した。

「……白梟どらいば〜( ・∀・ )✨」

 表情一つ変えず、けれどどこか嬉しそうに呟く深雪。

 昼間のポンコツな姿からは想像もつかない、完全なる「夜の死神(ただしやることはめちゃくちゃ愛らしい)」モードだ。

 深雪は足音すら消した八卦掌の歩法で、密談に夢中になっている半グレたちの隙を突いて大型ワンボックスの陰へと滑り込んだ。

 そして、タイヤのホイールにそっと手を伸ばすと、慣れた手つきで樹脂製のエアーキャップをクリクリと外す。

「……白梟えあーぬき〜( ・∀・ )✨」

 ドライバーの先をバルブの真ん中に当て、ちっちゃな指先で「ちょん♪」と軽く押し込んだ。

『ぷしゅ〜〜〜〜……』

 夜の静寂に、かすかな空気が抜ける音が響く。

 深雪は間髪入れずに4本すべてのタイヤのエアーキャップを外し、絶妙な手加減でバルブを押し込んでいく。ペチャンコにするのではなく、「走行しようとした瞬間に操縦不能になり、絶対に高速逃走できない空気圧」まで手際よく抜いていくプロの技だ。

「……ちょん♪ ……ぷしゅ〜〜( ・∀・ )✨」

「……こっちも、ちょん♪ ……ぷしゅ〜〜( ・∀・ )✨」

 ワンボックスのタイヤ4本を完璧に「白梟エアー抜き」した深雪は、そのまま影を這うように隣の2トントラックへ移動。トラックの大きなダブルタイヤにも容赦なくドライバーの先を当てていく。

「……トラックも、ちょん♪ ……ぷしゅ〜〜( ・∀・ )✨」

「おい、なんか外で変な音しなかったか……?」

 ワンボックスの車内から、ガラ行きの悪い男の声が聞こえてきた。

 深雪は一瞬で気配を消し、トラックの荷台の下へペタリと伏せて潜り込んだ。真っ白なタクティカル巫女服は、車体下の深い闇と同化して完璧に見えなくなっている。

 ドアが開いて、バールを持った男が一人降りてきた。

「なんだぁ? 風の音か……? てか、なんか車体が傾いてねぇか……?」

 男が訝しげにタイヤを覗き込もうとしたその瞬間、深雪はスマホを取り出し、天ちゃんと紅蓮華のLINEにメッセージを送った。

深雪:「……ワンボックスとトラック、タイヤのえあー、ぬいた( ・∀・ )✨ これで、にげられない。……みんな、きて( ・∀・ )」

 暗闇の中で、深雪の耳元で揺れるインペリアル・トパーズが、シェリー・ゴールドの怪しい輝きをチラリと放っていた。



 

第五章:正義の包囲網と、闇夜の鉄拳

由美:「深雪ちゃんナイスっ!! 交機から連絡! 紗耶さんのFDを先頭に、風花署の緊急出動部隊が現場へ向かいました! 逃げ道は完全に塞がれます!」

「ウゥゥゥゥーーーッ!!!」

 深雪からの打電と同時に、静まり返っていた風花町の夜空を切り裂くように、サイレンの悲鳴が轟いた。

 果樹園の農道へ向かって爆音を響かせ、闇を切り裂く一閃の白い影——。

 先頭を切るのは、風花署の誇る最速の撃墜機——スノーフレイクホワイトパールマイカの輝きを放つ、MAZDA RX-7 FD3S Spirit R!

 助手席の部下が窓から屋根の上へ赤色灯を叩きつけるように設置すると、ステアリングを握り締めた武居紗耶刑事は、シーケンシャル・ツインターボのロータリーサウンドを夜の果樹園に咆哮させた。

「風花署へ連絡! 現場は坂上農園奥の農道! 犯人グループは大型ワンボックスと2トントラック、計7名! ……絶対に一匹たりとも逃がすなッ!!」

「ギャギャギャッ!!!」

 強烈な制動音とともに、武居のFD3Sが鮮やかなドリフトで果樹園の出口を斜めに横づけし、逃走路を完全にシャットアウト! その背後から、何台もの180系・210系クラウンパトカーが赤い回転灯の群れをなして雪崩れ込み、現場を一瞬にして眩い光で包み込んだ。

「な、なんだぁ!? 警察だと!?」

 タイヤのエアーを抜かれ、車体がぐんにゃりと傾いたワンボックスから、バールやナイフを手にした半グレたちが慌てて飛び出してきた。

「クソッ! 車が出ねえ! タイヤの空気が抜けてやがる!?」

「逃げろ! 果樹園の裏から走って脱出するんだ!」

 パニックに陥り、暗闇の果樹園へ逃げ込もうとする男たち。

 だが、FD3Sのドアを勢いよく蹴り開けて降り立った武居紗耶の瞳には、冷徹な狩人の光が宿っていた。

「逃げられると思ってるのか……? 坂上の親父さんを泣かせた罪、たっぷりと償ってもらうぞ!!」

 ASPタロン警棒をシャキンと一振りに伸ばす武居。

 その頭上、果樹園の樹々の上では、タイヤのエアーを抜き終えた深雪が、無音で枝の上にしゃがみ込み、黄金色の瞳で冷たく獲物たちを見下ろしていた。

「……武居ちゃん、きた( ・∀・ )✨ ……みんな、おそうじの時間……」

「クソッ、警察の車だらけだ! 足で逃げるぞ! 暗闇の果樹園に消えれば追えねぇ!!」

 タイヤをぺちゃんこにされたワンボックスと2トントラックから転がり出た半グレの男たち。そのうち数人が、パトカーの眩い光線から逃れるように、街灯の届かない漆黒の農道へと雪崩れ込んでいく。

「ヘッ、警察のノロいパトカーじゃ、この真っ暗な果樹園の裏道までは——」

「誰がノロいって……?」

 暗闇の路地裏に、冷ややかな女性たちの声が響き渡った。

 闇の中から現れたのは、『紅蓮華』の面々。そして、その頭上の木々の間から深雪がフワリと飛び降りてくる。

「な、なんだぁ!? 暴走族の女どもか!? 邪魔すんじゃねぇ、怪我したくなかったらどきやがれッ!!」

 バールやナイフを振りかざし、襲いかかってくる半グレたち。

「あ? 正当防衛成立だね。……野郎ども、叩きのめすよッ!!」

 総長・楠留美子の怒号とともに、漆黒の農道で『正当防衛』という名のお掃除が幕を開けた。

 ナイフを振り下ろす半グレの腕を、特攻隊長・胡桃が特注の木刀で「パーンッ!!」と一閃。武器を弾き飛ばすと同時に鮮やかな胴打ちを叩き込んで一撃で撃沈させれば、走りの特攻・未華子は飛びかかってくる男の懐へ滑り込み、電光石火のローキックで軸足をへし折る。

 さらには、現紅蓮華喧嘩最強の佳苗がバールを振り回す大男の攻撃を紙一重でかわし、空手仕込みの突きと掌底を「ゴカァッ!」と顎に叩き込んで一瞬で意識を刈り取った。逃げ出そうとする残りの男たちの退路は、旗機の里美と由美がCBX400Fの車体で豪快にブロックし、完全に逃避行を封じ込める。

 そして——最後の一人が、恐怖に顔を歪めて暗闇へと後退りしたその瞬間。

「……みゆきの、桃……」

 無音で背後に立ち塞がっていたのは、純白のタクティカル巫女服を着た深雪だった。

「ひっ……!? こ、ガキ……どけッ!」

 男がやけっぱちにナイフを突き出した瞬間、深雪の黄金色の瞳が怪しく光る。

 八卦掌の円を描く足さばきでナイフの軌道をすっとかわすと、迅雷お兄ちゃん直伝の骨法——テコの原理を応用した掌底を肘関節へ「ポキッ♪」と優しく叩き込む。

「ギャアアアアッ!?」

 関節を外され地面に転がる男の耳元で、深雪は無表情のまま、ドライバーをちっちゃな指で「ちょん♪」とつつくジェスチャーをしてみせた。

「……お掃除完了。……みゆきたちの勝ち( ・∀・ )✨」

 暗い農道に倒れ伏し、絶叫と呻き声を上げる半グレたち。そこへ、ASP警棒を手にした武居紗耶刑事と警察官たちが駆け込んできた。

「ハァ……ハァ……! 深雪ちゃん、みんな! 無事!?」

 現場に転がっている半グレ数名と、ケロリとした顔で木刀や拳を叩いている紅蓮華の女子たちを見て、武居刑事は引きつった苦笑いを浮かべた。

「……相手がバールやナイフを所持した危険な強盗グループか。全員、窃盗および銃刀法違反の現行犯で逮捕する!」

「やったー! 坂上さんの桃、守り切ったよ!」

「深雪ちゃん、最後の骨法マジでカッコよかったよ〜!」

 胡桃たちに撫でまわされ、深雪はちょっと照れくさそうに微笑みながら、暗闇の中でトコトコと停めてあるMininja 50 "White Owl" Customへと歩み寄った。

 耳元で揺れるインペリアル・トパーズが、パトカーの赤と青の回転灯を反射して、誇らしげにシェリー・ゴールドの輝きを放っていた。

「……さかがみさん。……桃、取り返したよ( ・∀・ )✨」



 

第六章:極上のダイキリと、白梟の微笑み

 あの大騒動から一夜が明けた、翌日の夜。

 重厚なオーク材の扉を開けると、そこには澄みきった静寂と、微かな桜の香りに包まれた『Bar風花 -kazahana-』の空間が広がっていた。

 しかし今夜は、いつものシックな静けさに加え、どこか温かく誇らしげな熱気が心地よく充満している。

 カウンターに腰掛けているのは、昨夜見事な連携で坂上さんの桃を取り戻した『紅蓮華』の面々(留美子、胡桃、未華子、佳苗、里美、由美)、そして疲れた表情をすっかり消した武居紗耶刑事。そしてカウンターの端、天ちゃんの膝の上にすっぽりと収まり、スリープモードで「人間湯たんぽ」と化している深雪だ。

「昨日は本当にお疲れ様でした。坂上さん、今朝一番で涙を流しながら、山盛りの清水白桃を届けてくださったのよ」

 凜としたプロの佇まいで迎えるオーナーバーテンダー・美和。異色瞳に優しい愛おしさを宿し、手際よくグラスと大粒の氷、そして溢れんばかりの新鮮な白桃を準備していく。

「みんなが、こんなに美しい桃を命懸けで守ってくれたんだもの。今夜は私からの最高のお礼を召し上がってね」

 美和が手際よくブレンダーを回すと、みずみずしい白桃の甘い香りと、上質なホワイト・ラム、そして砕かれた氷が滑らかに混ざり合っていく。

 カクテルグラスに注がれたのは、淡いピンクと純白が混ざり合う、まるで雲のように滑らかな『フローズン・ピーチ・ダイキリ』。グラスの縁には、美しい扇型にスライスされた清水白桃が添えられている。

 さらに、カウンター中央へ運ばれたのは、バカラのクリスタル皿に美しく盛り付けられた『至高のカットフルーツ・プレート』。

 職人技のナイフワークで花びらのように象られた清水白桃を中心に、完熟のマンゴーや季節の柑橘が宝石のように輝いていた。

「わぁ……ッ! 綺麗……! これ、本当に私たちが頂いちゃっていいんですか!?」

 胡桃がツインテールを揺らして目を輝かせれば、総長の留美子もダイキリを一口含み、その濃厚で深みのある甘さにうっとりと目を細めた。

「ん……っ、最高……。ラムのコクと、坂上さんの桃の芳醇な甘みが完璧に溶け合ってるわ。……あの半グレどもを叩きのめした甲斐があったわね」

 佳苗と未華子、里美&由美も、カットフルーツの白桃を口に運び、「甘い! ジュースが溢れ出てくる……!」と大歓声を上げている。

 武居刑事はレザージャケットの肩を緩め、グラスを傾けながら天ちゃんに笑いかけた。

「天くん。深雪ちゃんの『白梟エアー抜き』と『骨法』がなかったら、あんなに鮮やかに全量回収はできなかったわよ。警察からも感謝状を贈りたいくらいだわ」

「はは、深雪ちゃんが一番おこっていましたからね」

 天ちゃんが優しく微笑みながら、膝の上の深雪の頭を「よしよし」と撫でる。

「……ん……( ・∀・ )」

 天ちゃんの「よしよし」と、甘い桃の香りに目を覚ました深雪。

 美和は小さく微笑むと、深雪のために特製で作ったノンアルコールの『シャーベット・ピーチ・スムージー』と、小ぶりにカットされた一番甘い桃の一片を差し出した。

「深雪ちゃん。坂上さんの桃を守ってくれて、本当にありがとうね」

「……みわさん( ・∀・ )✨」

 深雪は小さな手でフォークを受け取ると、白桃をパクリ。

 果汁が口いっぱいに広がると、黄金色の瞳をきらめかせ、幸せそうに頬をゆるませた。

「……甘い。……さかがみさんの桃、やっぱり世界で一番おいしい( ・∀・ )✨」

 耳元で揺れるシェリー・カラーのインペリアル・トパーズが、風花の柔らかな間接照明を受けて、七色の温かな光を優しく弾いている。

「ねえ、深雪ちゃん! 次のパトロールの時も、私たちがミニンジャの後ろから護衛についていってあげるからね!」

「胡桃、それは深雪ちゃんの邪魔でしょ〜!」

 紅蓮華の賑やかな笑い声が店内に響き渡り、プロの顔に戻った美和が静かにグラスを磨く。

 天ちゃんの膝の上で、美味しい桃とみんなの温もりに包まれた深雪は、今度こそ心から安心したように、満足げな寝息を立て始めるのだった。



 

第七章:夏の陽光と、約束の甘み

 蝉時雨が降り注ぐ、夏の午後の風花町。

 青々と繁る桃畑のあいだを抜ける一本道を、純白の極小マシン——Mininja 50 "White Owl" Customが、「トコトコトコ」という愛らしいエンジン音を響かせて走っていた。

「……トコトコトコ……( ・∀・ )✨」

 小さな車体に真っ白なヘルメット、そして風にひらひらとなびく和風タクティカル巫女服の裾。

 昼間はすっかりスリープモードの深雪だが、自分と同じサイズのミニンジャに乗っているこの時間だけは、黄金色の瞳をきらめかせてパトロール(という名のミニツーリング)を楽しんでいる。

 耳元で揺れるシェリー・カラーのインペリアル・トパーズが、夏の強い太陽光を跳ね返して七色に瞬いていた。

 坂上さんの桃畑が見える緩やかなカーブに差し掛かった、その時——。

「お〜い! 深雪ちゃ〜ん!!」

 麦わら帽子を被り、泥のついた作業着を着た坂上さんが、畑の中から破顔一笑、大きな両手をブンブンと振って駆け寄ってきた。

 数日前のあの涙と落胆が嘘のように、日焼けした頑固おやじの顔には、いつもの豪快で温かい笑顔が完璧に戻っている。

 深雪はトコトコとスピードを落とし、路肩にミニンジャを停めた。

 両足を地面にペタリと着け、ヘルメットを脱ぐと、サラリとした純白のボブヘアが夏の風になびく。

「……さかがみさん( ・∀・ )」

「いやぁ、今日もパトロールか! ご苦労さんだな! ちょっと待ってろ、今いいもん出してやるからな!」

 そう言うと坂上さんは、畑の脇にある小さな作業小屋へドタドタと走っていった。

 すぐに戻ってきたその手には、作業小屋の保冷用冷蔵庫から出してきたばかりの、冷気を纏った大きな深皿が乗っている。

「ほら! お前さんたちが命懸けで守ってくれた、一番出来の良い『清水白桃』だ! しっかり冷やしておいたぞ!」

 皿の上には、キンキンに冷やされ、今にも甘い果汁が滴り落ちそうな、美しく大ぶりにカットされた清水白桃が山盛りに盛られていた。表面に付いた微かな水滴が、夏の日差しを吸い込んでキラキラと輝いている。

 深雪の黄金色の瞳が、一瞬で「ぽんっ」と輝きを増した。

「……これ、……さかがみさんの……もも( ・∀・ )✨」

「おうよ! 事件のあとは警察やら橘の弁護士先生やらが完璧に仕切ってくれてな。盗まれた分も傷一つなく手元に戻ってきたし、補償もバッチリだ! これも全部、深雪ちゃんや天ちゃん、刑事の武居さんや紅蓮華のお嬢ちゃんたちのおかげだ!」

 坂上さんは小さなフォークを深雪に持たせると、頑丈な手で深雪の頭を「よしよし」と優しく撫でまわした。

「さぁ、遠慮しないで食っておくれ! お前さんが守ってくれた、最高の桃だ!」

「……うん……っ( ・∀・ )✨」

 深雪はフォークで大ぶりの白桃をひとつ刺すと、小さな口でパクリと頬張った。

 ひんやりとした心地よい冷たさと、完熟した清水白桃の上品で芳醇な甘みが、口いっぱいにジュワッと溢れ出す。

「……ん……っ( ・∀・ )✨ ……冷たくて、……甘くて……すっごく、美味しい……っ!」

「ガハハハ! そうだろ、そうだろ! 深雪ちゃんにそう言ってもらえるのが、一番の励みだ!」

 深雪は無表情になりがちな顔をいっぱいに綻ばせ、何度も小さく頷きながら、冷たい桃を美味しそうに口へ運んでいく。

 その耳元で輝くシェリー・ゴールドの宝石は、坂上さんの笑顔と、風花町の平和を取り戻した白梟への、何より美しい勲章のように輝いていた。

「……さかがみさん( ・∀・ )」

「ん? なんだい?」

「……みゆき、これからも……毎日パトロールする。……さかがみさんの桃、ずっと……みゆきが守るね( ・∀・ )✨」

「頼もしいねぇ! よし、そしたら来年も再来年も、一番甘い桃は深雪ちゃん用に取っておくからな!」

 夏の風が青々とした果樹園を吹き抜けていく。

 美味しそうに桃を食べる深雪と、それを見守る坂上さんの温かな笑い声が、夏の澄み切った空へと優しく溶けていくのだった。

【あとがき】


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

 今回は、深雪ちゃんの大好物である坂上さんの桃を守るため、ミニンジャ“White Owl”と紅蓮華の面々が大活躍する夏の短編をお届けいたしました。

 普段はスリープモードで膝の上を温めている深雪ちゃんですが、大切な人たちの想いや大好きな果実を踏みにじられた時の「静かな怒り」は、まさに夜の狩人そのもの。天ちゃん特製のサイレンサーと消灯スイッチ、そして「白梟ドライバー」を駆使した無音の襲撃劇をお楽しみいただけていれば幸いです。

 ラストの『Bar風花』で美和さんが振る舞う「フローズン・ピーチ・ダイキリ」と、坂上さんの冷えた清水白桃。読み終えたあと、冷たく甘い桃がふと食べたくなるような、夏の風を感じていただけたなら嬉しく思います。


 もしこのお話を楽しんでいただけましたら、ページ下部より【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】、温かな感想などをいただけますと、執筆の大きな糧となります。


 また次の夜、Bar風花の店先に明かりが灯る頃にお会いしましょう。

天照(Bar風花)

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