おまけ話「Niina=koTaRutyisu」 ※注意:胸糞バッドエンドなので、ハッピーエンドで終わらせたい方は絶対に読まないで下さい。
※注意:胸糞バッドエンドなので、ハッピーエンドで終わらせたい方は絶対に読まないで下さい。
その夜、ザキカメアの街は静かだった。
宴の熱気がようやく収まり、街は深い夜に包まれている。
けれど──一人の少女の胸の中だけは、まだ熱を帯びていた。
ユーニスは、自分の胸に手を当てていた。
いつもは冷たく落ち着いているはずの心が、今はどうにもおかしい。
「……さっきの、あの言葉……」
ギルドの外で、永和に言われたあの一言。
『生きてて、よかった』
それは彼にとって当たり前の一言だったのかもしれない。
でも、ユーニスにとっては──何よりも、心を揺さぶる言葉だった。
戦場のど真ん中で彼と並び立ち、命を懸けて戦った時間。
背中を預け合い、魔力を重ね、勝利を掴んだあの瞬間。
そのすべてが、今になって一つの想いへと繋がっていた。
「……気づくの、遅すぎたかもしれないけど……」
布団に包まって、膝を抱える。
耳はまだ、ちぎれたまま。体にも傷は残っている。
けれど、心はもう、完全に恋する少女のそれだった。
──好き、なのだ。
ユーニスは、永和のことが、好き。
何度も何度も戦いの中で、絶望の淵に立った。
でも、彼がいたから、生きて帰れた。
彼がそばにいてくれたから、戦えた。
恋なんて、捨ててきたはずだった。
種族の誇りも、過去も、理想も。
それでも、気づいてしまった。
――もう、遅いかもしれない。
でも、想いだけでも伝えたい。
「……よしっ」
深呼吸して、立ち上がる。
足は震えていた。
心臓は、破裂しそうなほど高鳴っていた。
だが、それでも歩き出す。
想いを伝えるために。
ただ、それだけのために。
ギルドの裏手、宿舎棟の一角。永和の部屋は一番奥。
たったそれだけの距離が、今夜は異様に遠く感じた。
一歩ごとに息が詰まる。
一歩ごとに、膝が震える。
けれど、もう引き返すつもりはなかった。
「永和……っ」
願いをこめて、最後の角を曲がる。
──そして、その時だった。
彼の部屋の前に立ち、ノックをしようと手を伸ばした、その瞬間。
中から、かすかに声が聞こえた。
「……っ……ん……っあ……」
最初は、聞き間違いかと思った。
けれど──聞き覚えのある、あの声。
「え……?」
恐る恐る、扉に手をかける。
そっと、ほんの少しだけ隙間を開ける。
中は薄暗く、けれど──妙に赤く、温かい光に満ちていた。
そして……聞こえてきたのは、荒い息遣いと、軋むベッドの音。
目を凝らす。
部屋の奥、ベッドの上──
そこには…
お互いを求め合う、永和と……ニイコタの姿があった。
その瞬間、頭が真っ白になった。
鼓動が止まった。
目が乾いたまま、瞬きも忘れ、ただ立ち尽くす。
「……うそ、でしょ……?」
喉が震える。
言葉は出ない。
目の前で、彼は──
笑っていた。
あの時、自分に向けた優しい笑顔よりも、もっと優しい顔で。
ニイコタに触れ、抱き、甘い言葉を囁いていた。
「や、永和……さん……?」
それは夢じゃなかった。
本当に起きていることだった。
それに加えて……
「違うだろう? 俺の事はムラカ↑ミ君と呼べ。 そして、俺はお前を先生と呼ぶ」
「そっ…そうでした。 ムラカ↑ミ君……?」
「とてもいい...です。 先生…!」
ユーニスの指が、ぶるぶると震える。
二人は何をしているんだ。
一体何故、永和は彼女にあのようなイントネーションで自分を呼ばせ、彼女を先生と呼ぶのだ。
そのまま、彼女は崩れるように、扉から離れた。
だが、その際もドア越しに声が聞こえてくる。
「先生…あの時伝えられなかった事……俺…先生のことがっ……!!」
猛烈に気分が悪い。
膝をつき、声を出さずに泣いた。
涙は静かに、止めどなく、頬を伝っていく。
「なっ……何……私は今……何を見たの…っ!?」
悲しみや喪失感、それとはまた違う感情が頭の中で交差する。
たが、一つ言えることとして、私は永和の元を離れたが、ニイコタはずっと一緒だった。
自分がいなかった時間、彼女がそばにいた。
それは分かっていた。
それでも、見たくなかった。
知らなければよかった。
──伝える前でよかった。
そう、思えるほどの余裕は彼女には無かった。
ユーニスは激しく耳を掻き毟る。
ユーニスには、過度のストレスがかかると、自身の体を傷つける癖があるのだ。
ユーニスに耳が無いのは、幼いころに両親が亡くなった際に、彼女が自分で千切り取ったからである。
静かに、ユーニスは背を向ける。
剣すら持たぬ、ただの少女のような足取りで。
誰にも気づかれず、部屋へ戻り、毛布を被って、泣いた。
誰にも見られないように、ただただ泣いた。
普段泣かない彼女は泣きなれておらず、泣きながら何度もえづき、吐きかけた。
くるしいよ。
泣き止んだユーニスは、激しい孤独感に襲われた。
部屋は暖かいはずなのに、体の震えが止まらない。
もう、この際誰でもいいと思った。
この寂しさから、どうにかして解放されたいと思った。
ユーニスは、おぼつかない足取りで、ガルザンの部屋を訪ねた。
最初は動揺した彼だったが、少し肌を見せるとすぐにその気になってくれた。
皆から慕われるギルドの兄貴も、所詮は人間の雄だったのだ。
獣に蹂躙されながら、そんなことを思う。
「……っ」
何故だろう。
望んだ展開のはずなのに、涙が止まらない。
「……ぅ…」
……ああ、そうか。
私はがルザンなら断ってくれると、止めてくれると思っていたんだ。
しかし、ガルザンは今も流れる涙に気づきもしない。
「……うぅ………」
いや、ガルザンを悪く言うのは間違っている。
私は、寂しさを紛らわすためにこの男を使った、それ以下のクズなのだから。
「...…永和…………」
その声は、誰にも届くことは無い。
一国を救った少女は、
たった一つの恋に敗れたのだ。
これで本当に完結です。
ありがとうございました。




