第四十七話「戦火の果て、仲間と笑う夜」
光が晴れ、ようやく全ての戦いが終わった、そう思った矢先だった。
風が、逆向きに吹いた。
空気が変わった。
「……ッ!」
戦場の一角に、二人の女が現れた。
一人は黒と紫を基調にした奇妙な衣装、三角の占い帽子、手には大きなタロットカード。
ムトゥ。
悪の組織である黒騎士団の一人にして、“占い師”であるあの女。
もう一人は全身を黒い鎧で身を包んだ、腰に巨大な鎌を下げた女。
こちらは知らないが、おそらく黒騎士の騎士団長の一人だろう。
纏っている魔力で分かる。確実に強い。
「敵かッ!? まだ戦うってのかよ!」
ムラセルが剣を抜きかける。
だが──
「まぁまぁ。 落ち着いて。 私達は敵じゃないわ」
その口調には、いつものような余裕と、どこか飄々とした響きがあった。
「……じゃあ何の用だよ」
「“運命のタイミング”とは言ったけれど、まさかこんな形で来るとはねぇ」
ぽい、と彼女がこちらに向かって何かを投げた。
ズシ、と重たい音。
地面に転がったそれを見て──誰もが息を呑んだ。
「なっ……!? これ、首……?」
「それはね。貴方たちを苦しめた“暗殺者ロボ”を作った、”博士”にして”黒騎士団の総騎士団長”─ーダオ=カネイルのものよ。 こっちの女、ニナーガ=ユーコリウスが殺した」
ニナーガはムトゥに手を向けられると、一歩前に出て一礼した。どうやら本当らしい。
永和が目を見開く。
「黒騎士団の……総騎士団長……!?」
「……おい、どうして……お前がそんなことを……」
ムラセルが睨みつけるようにして問いかける。
ムトゥは、にっこりと笑った。
「占いで決めたことには、全て従うって決めてるの」
「……は?」
「黒騎士側には“極大凶”が出た。 逆に、あなたたちの側には“極大吉”」
「だから……?」
「もう黒騎士にいる意味はないわ。 運命に逆らってまで居座る義理もないし」
軽く肩をすくめ、ムトゥは歩き出す。
「ちなみに、ニナーガ以外の他の黒騎士団の団長たちも殺しておいたから。 これでもう、私に関わる理由もないでしょう?」
「…………え?」
誰もが、絶句した。
つまり、この女が言っていることは、黒騎士は解体させておくから私にはもう関わるな、そういうことだ。
「それじゃ、また会うことがあれば……ね」
最後に微笑むと、ムトゥとニナーガは紫の霧の中に、ふっと消えていった。
静寂。
誰も何も言えなかった。
「……ムトゥ……」
永和が、呟くように言った。
あいつが一番、恐ろしい──
心の底から、そう思った。
◇
激戦の後。
千を超える魔族の軍勢が消え、ナリ=アーツは打倒され、そして黒騎士団は壊滅した。
それは、歴史的な勝利だった。
その知らせは瞬く間に広がり、国を越えて祝福された。
もちろん──ここ、ザキカメアの街でも。
◇
「かんぱ~~~い!!!」
酒樽が響き渡る。
木造のギルドホールは、いつになく明るく、そしてにぎやかだった。
「おらぁ! 今日ばっかは飲めぇええぇぇぇ!!」
「ギャハハハ!! ガルザン兄貴が酒の樽、丸ごと飲んでるぞ!?」
「おい誰か止めろ! いや止められねぇ!!」
冒険者たちが、机を囲み、笑い、飲み、騒いでいた。
テーブルの上には獣肉の丸焼き、香草たっぷりの煮込み、山ほどのパンと甘い果実。
あの日、命を懸けた仲間たちと、こうして笑い合える──ただそれだけで、胸が熱くなる。
「永和さん、これ食べます?」
そう言って、ニイコタが皿を差し出してくる。
「あっ、それ美味いやつ!」
「はい。 なんかこのお肉、魔王軍が落としていった魔物の肉らしいですよ?」
「えぇ!? 縁起悪っ!」
「でも、味は最高です」
「くっそ、複雑だな…!」
二人で笑い合う。
そんな中、向かいからずっと見ていたのは、あの男。
「ふぅむ……」
「……どうしたんですか、ムラセルさん?」
「いやな……このスープ……塩味が足りん!!!」
と、唐突に卓上に立ち上がった。
「おいおいまた始まったぞ……!」
「これでは戦い抜いた者の舌には満たぬ! 塩を! 塩をもっと持てぃい!!!」
ムラセルの声量に、ホール中の料理人たちが慌てて塩を持って走り回る。
「……アイツ、戦場より騒がしいよな……」
「そこがいいところですよ。 なんというか……生きてる、って感じがします」
ニイコタの笑みに、俺は自然と笑ってしまった。
◇
少しだけ外の風に当たりたくて、ギルドの外に出た。
涼しい夜風が心地よくて──そしてそこに、白銀の髪がひときわ美しく、照らされていた。
「ユーニス……!」
「やっと落ち着いたわね」
ふっと微笑むユーニスの姿。
……ほんの少し前まで、もう二度と会えないと思っていたんだ。
「……生きてて、よかった」
思わず言ってしまった。
「……うん、私も」
二人の距離が、自然と縮まる。
「ユーニス、あの時……最後の瞬間、俺……」
「言わなくていいわ。 全部、分かってるから」
そう言って、彼女はそっと、俺の手を握ってくれた。
あたたかい。
手も、心も。
「……ありがとうな。 本当に、ありがとう」
「こっちこそ。 あなたがいたから、私はここにいる」
夜空は星で埋め尽くされていて、世界は静かで、穏やかで──
あの日、あの瞬間、死と隣り合わせだった俺たちが、今こうして生きている。
それだけで、奇跡みたいだった。
◇
ギルドに戻ると、みんなが騒いでいた。
「永和ー! こっち座れー!」
「おいおいニイコタ! お前いつの間にそんな酔ってんだよ!」
「えへへへへへ~」
ガルザンは机の上で爆睡してるし、ムラセルは料理人と塩論争してるし、もうグチャグチャだ。
「……でも、これがいいな」
そう思った。
俺たちは、強くなった。
そして──
“仲間”になった。
長かった戦いは終わった。
だが、俺たちの旅は、まだまだ終わらない。
だってこの世界は、あの自称進学校の中のように狭くはない。
それはもう、全てを見ることは不可能なほどに、広いのだから。
「じゃあみんなー! 明日は昼まで寝ようなー!」
「賛成っ!!」
笑いが、今日も、明日も、きっとその先も──
俺たちの側にあることを、願って。
〜完〜
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!!!
村上永和の転生した世界を書いたこの『魔力無双〜スキル【無し】だが、膨大すぎる魔力総量のせいで普通の簡易攻撃魔法が強過ぎる〜』はこれで完結です。
これまで沢山のコメントやブクマなどで応援してくれた方々、本当にありがとうございました!!
※一応この後におまけがありますが、ハッピーエンドで終わらせたい方は、絶対に読まないで下さい。




